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佐々木ももんが

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第二章の8

破れた本の行方

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 文子ふみこの後について、広い書庫の中を進んで行く。文子は本棚の上から順番にパタパタとはたきをかけていく。真名まなも真似をして隣の本棚をパタパタする。一棚終えると、一冊ずつ抜き出して、点検し始めた。破れがないか確認しているのだろうか。真名も真似をする。
「あ、#般若心経_はんにゃしんぎょう__#さん。お久しぶり」
 文子が本に話しかけている。それに応えるように、本が変化して、お坊さんが一人現れた。
「おう。すっかり寝ておったわ。年を取ると変化へんげするのも面倒になってな。普通の本に戻ってもいいのだがな。逆戻りはできないものか」
「できないようだ。起こしてすまぬ。ケガがないか点検していた。もしや破れている本を見たことはないか?」
「破れ? そんな本がここにあるのか? 痛かろう」
 それは真名も思っていた。ので、口に出して言う。
「私も気になってたの。破れているって、どういう状態? 初めてつくもがみがここに来るとき、文子はその子たちと会うよね? 破れているというのは、ケガをしているということなんじゃないの? そんなケガをした子、見たことある? その子はずっとケガしたままここでじっとしてるってこと?」
ここにいるのは物体としての本ではなく、人間化してつくもがみになった本である。ページが破れているという状態は、人間に例えれば骨が折れているとか、とにかくケガをしている状態なのではないだろうか。
「うむ。それはあたしも不思議に思っていた。破れているなんてありえないはずだ。見つければあたしが修理するし、変化すれば自力で直すこともできるだろう」
「じゃあ、私たち『ないもの』を探しているの? だいたい、聡さんの記憶も怪しいものだわ。本当にそんな本あったのかしら。夢だったりして」
「うむ。嘘は言わないと思うが。勘違いか見間違いか」
  般若心経のお坊さんも、ちゃっかり仲間の一員になって意見を言う。
「最近は修復師の腕も上がっているだろうから、連れて行ってもとに戻してもらうとよい」
「修復師?」
 思いがけない言葉が出てきた。
「そうだわ。破れた本をいつまでも破れたまま放っておくはずがない。貴重であればあるほど、専門の修復家に直してもらうんじゃないかしら。ということは、やっぱり破れた本なんてないのよ。とっくの昔に修復されている可能性が高い」
「手がかりがまるでなくなってしまったな。この棚が終わったら、戻ってみるか」
 案外のんびりしている文子。
 真名はおそるおそる聞いてみる。
「ねえ、あの親子を二人だけにしてよかったの? もめてたけど」
「へ?」
  文子はきょとんとしている。
「聡さんが一方的に攻めてるように見えなかった? 下手するとケンカしそうだったわよ」
「貴重な再会だから、親子二人水入らずのほうがいいかと思って、気を利かせたつもりだった」
「わざとだったの?」
 文子の目からは感動の親子の再会に見えていたのが衝撃だった。仲悪かったよね? 険悪だったよね? 自分の感覚にだんだん自信がなくなってくる。
「人間の真名のほうが正しいと思う。あたしは、人の感情が理解できないところがある」
 文子がちょっと落ち込んでいる。沈黙してしまったので、真名はとっさにどうでもいい質問を投げかけた。
「文子はどのくらい前からここにいるの? もう長いの?」
「さあ。どのくらいだったかな。忘れたな。ここは時間の流れなんて感じないから」
  明らかに話題をそらしている態度だった。素朴な疑問を口にしただけだったが、文子の触れてほしくない部分に触れてしまったようだった。
 いつも横柄なくらいな態度をとっているから、自信満々だと思っていた。文子には文子のコンプレックスや苦手なことやうまくいかないことも抱えていると知って新鮮だった。
「では、すぐにでも様子を見に戻るか?」
 急に文子が不安そうに言う。
「そうね。聡さんはさっき、『思い出したことがあって』と言ってなかった? それが気になるわ。何を思いだしたのかしら」
「先に聞くべきだったか?」
  ますます不安そうな顔をする文子。
「とりあえず、戻りましょう。般若心経さんはどうしますか?」
 真名が声をかけたときには、すでに元の本の形に戻って、本棚の定位置に自力で入ろうとしているところだった。
「いや、もう一眠りするよ。本探しはわしの仕事じゃあない」
 くぐもった声で言って、静になってしまった。文子と真名ははたきを握りしめて、うす暗い書庫の中を駆けだした。
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