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第五章 姉編
(2)それで……キスするときは、目ぇ閉じて……心の中で5秒カウントすんの! わかった?
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どう始めればいいのか、正直わからなかった。
目の前には、日焼け肌にピアス、濃いアイラインのギャル。
なのに、その小さな体は小刻みに震えている。
(……なんでこの見た目で、そんなに純情なんだよ)
迷った末、僕はそっと肩に触れ、そのまま抱き寄せた。
「きゃっ……⁉︎」
香水の甘い匂いが鼻をかすめる。
腕の中の彼女は、驚くほど小さく、壊れそうなほど柔らかかった。
「な、なによ、急に……!」
耳元で上ずった声が弾ける。
宙をさまよった両手が、ためらうように僕の胸を押し返す。
けれど、その力は驚くほど弱々しかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ……! いきなり抱きしめるとか……マジ反則じゃん……!」
口調とは裏腹に、頬を染めて慌てる姿は、ギャルらしさなんて微塵もなかった。
布団の端をぎゅっと握り締め、落ち着かない様子で視線を右へ左へさまよわせる。
やがて彼女は、唇をぎゅっと結ぶと、覚悟を決めたように口を開いた。
「……じゃ、じゃあさ……次は、キス……だよ、な?」
「……は?」
「しょ、少女漫画では……だいたいそうやって進むし……!」
視線を逸らしながら言うその声は妙に必死で、思わず苦笑を漏らす。
「姉ちゃん……そんなマニュアルどおりに進めるやつ、いるかよ……」
「い、いるのっ! 漫画のヒロインはみんなそうだもん!」
むきになって反論する姿が、また可愛らしくてたまらなかった。
「それで……キスするときは、目ぇ閉じて……心の中で5秒カウントすんの! わかった?」
「……いや、それなんの受け売りだよ!」
「い、いいからっ! そーやんのっ! じゃなきゃ……雰囲気でないし!」
ぷいっと横を向きながらも、耳の先まだ熱を帯びている。
「姉ちゃんってさ……」
「な、なによ」
「本当に……乙女なんだな」
「っ……⁉︎ ち、ちがう……! そういうんじゃ……!」
必死に否定するが、声は震えている。
「……はぁ……なんだよ、それ……かわいすぎんだろ……」
思わずこぼした本音に、自分でも驚く。
「~~~~っっ!! か、かわ……っ、ば、バカじゃないの⁉︎」
顔を火照らせた姉は、枕を抱き寄せて、ばたばたと足を動かす。
やがて動きを止めると、ちらりとこちらを見上げた。
視線がぶつかると、慌てて逸らし……震える唇から、小さな声がこぼれる。
「……じゃあ、やってみよっか……?」
そう呟くと同時に、姉はぎゅっと目を閉じた。
長いまつ毛が小さく震え、頬には熱が差している。
派手なメイクのはずなのに、その瞬間だけは飾りが剥がれて、素顔の少女に見えた。
(……まじか。本気でやる気かよ……)
心臓が急に暴れ出し、息が浅くなる。
「練習だから」なんて言い訳は、跡形もなく吹き飛んでいた。
「……ご、5秒だな……?」
ぎこちなく確認すると、彼女は目を閉じたまま、小さく頷いた。
意を決して顔を近づける。
甘い香水に混じって、震える吐息が頬をかすめた。
視界いっぱいに迫る姉の唇。
そっと触れた瞬間____。
柔らかな熱が重なり、溶け合うような甘さが全身を包み込んだ。
(……なんだこのドキドキは……やばい、心臓が……破裂しそうだ……)
1秒ごとに胸の鼓動だけが響き、時間が果てしなく伸びていく。
2秒。3秒。
触れているだけなのに、体温は急上昇し、呼吸はどんどん浅くなった。
4秒目、もう限界だった。
「……っ」
耐えきれず離れると、姉はゆっくりと目を開けた。
濡れたように潤んだ瞳が、真っすぐ僕を射抜く。
それから震える指先で、自分の唇をそっとなぞった。
派手なギャルメイクのはずなのに、その仕草は驚くほど初々しい。
その後も、姉は髪の毛をくるくる指に巻きながら、なかなか視線を合わせようとしない。
「……なぁ」
気づけば声が漏れていた。
「……姉ちゃん、心臓バクバクしてんの、聞こえてるぞ」
「なっ……してないし!」
即答しながらも、視線は泳ぎっぱなしだ。
その態度こそ、何よりの答えだった。
部屋に重たい沈黙が落ちる。
沈黙に耐えられなくなったのか、姉が声を上げた。
「……な、なにマジになってんのよ……今のは練習だしっ……! と、ときめいたりとかマジでナイからっ!」
耳まで赤くしながらそう告げると、布団に潜り込み、こちらに背を向ける。
だが、その小さな肩はわずかに震えていて、振り切れていないのは明らかだった。
僕はまだ胸に残る熱を持て余し、ぼんやり宙を見つめ、深く息を吐き出した。
(こんなスローペースで進んで……ほんとに大丈夫か……?)
期待と焦りを抱えたまま、夜は静かに更けていった。
目の前には、日焼け肌にピアス、濃いアイラインのギャル。
なのに、その小さな体は小刻みに震えている。
(……なんでこの見た目で、そんなに純情なんだよ)
迷った末、僕はそっと肩に触れ、そのまま抱き寄せた。
「きゃっ……⁉︎」
香水の甘い匂いが鼻をかすめる。
腕の中の彼女は、驚くほど小さく、壊れそうなほど柔らかかった。
「な、なによ、急に……!」
耳元で上ずった声が弾ける。
宙をさまよった両手が、ためらうように僕の胸を押し返す。
けれど、その力は驚くほど弱々しかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ……! いきなり抱きしめるとか……マジ反則じゃん……!」
口調とは裏腹に、頬を染めて慌てる姿は、ギャルらしさなんて微塵もなかった。
布団の端をぎゅっと握り締め、落ち着かない様子で視線を右へ左へさまよわせる。
やがて彼女は、唇をぎゅっと結ぶと、覚悟を決めたように口を開いた。
「……じゃ、じゃあさ……次は、キス……だよ、な?」
「……は?」
「しょ、少女漫画では……だいたいそうやって進むし……!」
視線を逸らしながら言うその声は妙に必死で、思わず苦笑を漏らす。
「姉ちゃん……そんなマニュアルどおりに進めるやつ、いるかよ……」
「い、いるのっ! 漫画のヒロインはみんなそうだもん!」
むきになって反論する姿が、また可愛らしくてたまらなかった。
「それで……キスするときは、目ぇ閉じて……心の中で5秒カウントすんの! わかった?」
「……いや、それなんの受け売りだよ!」
「い、いいからっ! そーやんのっ! じゃなきゃ……雰囲気でないし!」
ぷいっと横を向きながらも、耳の先まだ熱を帯びている。
「姉ちゃんってさ……」
「な、なによ」
「本当に……乙女なんだな」
「っ……⁉︎ ち、ちがう……! そういうんじゃ……!」
必死に否定するが、声は震えている。
「……はぁ……なんだよ、それ……かわいすぎんだろ……」
思わずこぼした本音に、自分でも驚く。
「~~~~っっ!! か、かわ……っ、ば、バカじゃないの⁉︎」
顔を火照らせた姉は、枕を抱き寄せて、ばたばたと足を動かす。
やがて動きを止めると、ちらりとこちらを見上げた。
視線がぶつかると、慌てて逸らし……震える唇から、小さな声がこぼれる。
「……じゃあ、やってみよっか……?」
そう呟くと同時に、姉はぎゅっと目を閉じた。
長いまつ毛が小さく震え、頬には熱が差している。
派手なメイクのはずなのに、その瞬間だけは飾りが剥がれて、素顔の少女に見えた。
(……まじか。本気でやる気かよ……)
心臓が急に暴れ出し、息が浅くなる。
「練習だから」なんて言い訳は、跡形もなく吹き飛んでいた。
「……ご、5秒だな……?」
ぎこちなく確認すると、彼女は目を閉じたまま、小さく頷いた。
意を決して顔を近づける。
甘い香水に混じって、震える吐息が頬をかすめた。
視界いっぱいに迫る姉の唇。
そっと触れた瞬間____。
柔らかな熱が重なり、溶け合うような甘さが全身を包み込んだ。
(……なんだこのドキドキは……やばい、心臓が……破裂しそうだ……)
1秒ごとに胸の鼓動だけが響き、時間が果てしなく伸びていく。
2秒。3秒。
触れているだけなのに、体温は急上昇し、呼吸はどんどん浅くなった。
4秒目、もう限界だった。
「……っ」
耐えきれず離れると、姉はゆっくりと目を開けた。
濡れたように潤んだ瞳が、真っすぐ僕を射抜く。
それから震える指先で、自分の唇をそっとなぞった。
派手なギャルメイクのはずなのに、その仕草は驚くほど初々しい。
その後も、姉は髪の毛をくるくる指に巻きながら、なかなか視線を合わせようとしない。
「……なぁ」
気づけば声が漏れていた。
「……姉ちゃん、心臓バクバクしてんの、聞こえてるぞ」
「なっ……してないし!」
即答しながらも、視線は泳ぎっぱなしだ。
その態度こそ、何よりの答えだった。
部屋に重たい沈黙が落ちる。
沈黙に耐えられなくなったのか、姉が声を上げた。
「……な、なにマジになってんのよ……今のは練習だしっ……! と、ときめいたりとかマジでナイからっ!」
耳まで赤くしながらそう告げると、布団に潜り込み、こちらに背を向ける。
だが、その小さな肩はわずかに震えていて、振り切れていないのは明らかだった。
僕はまだ胸に残る熱を持て余し、ぼんやり宙を見つめ、深く息を吐き出した。
(こんなスローペースで進んで……ほんとに大丈夫か……?)
期待と焦りを抱えたまま、夜は静かに更けていった。
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