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1万人の熱狂 = 串焼き1本。それでも俺が筆を折らない理由
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「……きた、きたきたきたぁぁ──!!」
宿屋の薄暗い一室で、俺──レオンは拳を突き上げた。
手元にあるのは【魔導小説・投稿掲示板】が表示された水晶板だ。
画面には、この世界に転生した際に授かったユニークスキル【無限の集中力】を駆使し、前世の知識を総動員して書き殴った娯楽小説『追放された最強魔術師、辺境でスローライフを送っていたら無自覚に無双する』のステータスが躍っている。
【HOTランキング:第2位】
【ファンタジー ジャンル:第15位】
【24時間獲得マナポイント:9289pt】
「HOTランキングで2位、全体のファンタジー ジャンルでも15位だぞ!? 王国中の人間が俺の物語を読んで熱狂してる証拠じゃないか!」
前世では箸にも棒にもかからなかった底辺作家だった俺が、異世界でついに「チート」を掴み取った。
およそ1万ポイント。この数字が何を意味するか、期待せずにはいられない。
「もし、1ポイントが銀貨1枚(100円)なら、一晩で約100万円……。これが毎日続くなら、執筆補助のエルフを雇って王都の一等地に書斎を構えるのも夢じゃないぞ!」
「いや、待てよ。控えめに見て1ポイントが銅貨1枚(1円)だとして、それでも一日で約1万円か!?とりあえず危険な冒険に出なくても生活はできるな!」
俺は鼻歌交じりに、翌日の「換金日」を待った。
◆◆◆
翌日。俺は意気揚々と、王立換金所(通称:スコア交換所)のカウンターに立っていた。
「お待たせいたしました、レオン様。昨日はHOTランキング2位獲得おめでとうございます」
事務的な笑みを浮かべる受付嬢が、俺の水晶板を読み取り機にかざす。
俺は胸の高鳴りを抑えきれず、受け取る金貨を入れるための大きな革袋を机に置いた。
「さあ、いくらだ? 遠慮はいらない、ドカンとやってくれ!」
受付嬢は、手元の集計魔導具をチラリと見て、淡々と告げた。
「はい。昨日の精算スコアは……合計で『100スコア』となります」
「…………ん?」
聞き間違いか?
およそ「10000」に対して「100」
桁が二つほど行方不明になっている気がする。
「ええと、100万スコア、の間違いじゃなくて?」
「いえ、100スコアです。当換金所のレートにより、銀貨1枚(100円)──に相当します。こちら、受領印をお願いします」
チャリン、と。
カウンターの上に、寂しげな音を立てて小さな銀貨が1枚置かれた。
「………………は?」
俺の思考は停止した。
1万人(妄想)が熱狂し、24時間ランキングの頂点に迫り、寝る間も惜しんで魔力を削りながら書き続けた結果が、これ?
「待て待て待て! おかしいだろ! 24時間ポイントは、ほぼ1万近くだったんだぞ!?」
俺の叫びに、受付嬢はため息混じりに説明を始めた。
「お客様……『ポイント』と『スコア』は別物です。閲覧数、魔導広告の収益分配……そして神による『謎の調整アルゴリズム』によって、その数字は魔法のように削ぎ落とされるのです」
「魔法っていうか、呪いじゃねーか!」
「それが現実です。……お次の方、どうぞー」
◆◆◆
換金所を追い出された俺は、夕暮れの街をフラフラと歩いていた。
手の中には、さっきの銀貨が1枚。
これじゃ、屋台の串焼き1本買ったらおしまいだ。
「笑えるぜ……。期待して、舞い上がって、結局これかよ。本当に書くのが好きじゃないと、小遣い稼ぎにもなりゃしねえ」
馬鹿らしくなった。
もう更新なんてやめて、どっかの農家で小作人にでもなったほうがマシだ。
そう思って、宿屋に帰る途中の酒場の前を通りかかった時だった。
「おい、見たかよ! 今日の『追放魔術師』の更新!」
「当たり前だろ! あの主人公が最後に放ったセリフ、最高にスカッとしたぜ!」
酒場から、野太い声が聞こえてきた。
見れば、傷だらけの冒険者たちが、酒瓶を片手に俺の水晶板を囲んでいる。
「俺、あのアニキの言葉で、明日もっかいダンジョンに潜る勇気が出たよ」
「次の更新は明日か? 待ちきれねえなあ、おい!」
彼らだけじゃない。
隅の席では少女が熱心に画面を見つめ、店主までもが「これの続きを読まねえと一日が終わらねえ」と笑っている。
俺の足が、止まった。
手の中の銀貨を見る。
そして、酒場から溢れ出す「熱気」を見る。
「…………クソッ」
俺は踵を返し、宿屋へ向かって走り出した。
階段を駆け上がり、自室の机に飛びつく。
羽ペンを握る指が、期待と興奮で小刻みに震えていた。
「金? 効率? そんなもん、知るかよ!」
俺は再び、真っ白な水晶板に魔力を流し込む。
脳内には、あの冒険者たちが腰を抜かすような、最高の展開が溢れていた。
「金貨100万枚積まれるよりも、あいつらの『最高だ!』って声が、俺にとっては一番の報酬なんだよ!」
暗い部屋の中で、水晶板が青白く輝き出す。
【現在の24時間ポイント:4538pt(約50円)】
数字はまた、残酷な現実を突きつけてくるかもしれない。
それでも──俺は書く。
だって、俺の物語を待っている奴らが、こんなにもたくさんいるんだから!
……あと、単純に書くの楽しいからなw
(完)
宿屋の薄暗い一室で、俺──レオンは拳を突き上げた。
手元にあるのは【魔導小説・投稿掲示板】が表示された水晶板だ。
画面には、この世界に転生した際に授かったユニークスキル【無限の集中力】を駆使し、前世の知識を総動員して書き殴った娯楽小説『追放された最強魔術師、辺境でスローライフを送っていたら無自覚に無双する』のステータスが躍っている。
【HOTランキング:第2位】
【ファンタジー ジャンル:第15位】
【24時間獲得マナポイント:9289pt】
「HOTランキングで2位、全体のファンタジー ジャンルでも15位だぞ!? 王国中の人間が俺の物語を読んで熱狂してる証拠じゃないか!」
前世では箸にも棒にもかからなかった底辺作家だった俺が、異世界でついに「チート」を掴み取った。
およそ1万ポイント。この数字が何を意味するか、期待せずにはいられない。
「もし、1ポイントが銀貨1枚(100円)なら、一晩で約100万円……。これが毎日続くなら、執筆補助のエルフを雇って王都の一等地に書斎を構えるのも夢じゃないぞ!」
「いや、待てよ。控えめに見て1ポイントが銅貨1枚(1円)だとして、それでも一日で約1万円か!?とりあえず危険な冒険に出なくても生活はできるな!」
俺は鼻歌交じりに、翌日の「換金日」を待った。
◆◆◆
翌日。俺は意気揚々と、王立換金所(通称:スコア交換所)のカウンターに立っていた。
「お待たせいたしました、レオン様。昨日はHOTランキング2位獲得おめでとうございます」
事務的な笑みを浮かべる受付嬢が、俺の水晶板を読み取り機にかざす。
俺は胸の高鳴りを抑えきれず、受け取る金貨を入れるための大きな革袋を机に置いた。
「さあ、いくらだ? 遠慮はいらない、ドカンとやってくれ!」
受付嬢は、手元の集計魔導具をチラリと見て、淡々と告げた。
「はい。昨日の精算スコアは……合計で『100スコア』となります」
「…………ん?」
聞き間違いか?
およそ「10000」に対して「100」
桁が二つほど行方不明になっている気がする。
「ええと、100万スコア、の間違いじゃなくて?」
「いえ、100スコアです。当換金所のレートにより、銀貨1枚(100円)──に相当します。こちら、受領印をお願いします」
チャリン、と。
カウンターの上に、寂しげな音を立てて小さな銀貨が1枚置かれた。
「………………は?」
俺の思考は停止した。
1万人(妄想)が熱狂し、24時間ランキングの頂点に迫り、寝る間も惜しんで魔力を削りながら書き続けた結果が、これ?
「待て待て待て! おかしいだろ! 24時間ポイントは、ほぼ1万近くだったんだぞ!?」
俺の叫びに、受付嬢はため息混じりに説明を始めた。
「お客様……『ポイント』と『スコア』は別物です。閲覧数、魔導広告の収益分配……そして神による『謎の調整アルゴリズム』によって、その数字は魔法のように削ぎ落とされるのです」
「魔法っていうか、呪いじゃねーか!」
「それが現実です。……お次の方、どうぞー」
◆◆◆
換金所を追い出された俺は、夕暮れの街をフラフラと歩いていた。
手の中には、さっきの銀貨が1枚。
これじゃ、屋台の串焼き1本買ったらおしまいだ。
「笑えるぜ……。期待して、舞い上がって、結局これかよ。本当に書くのが好きじゃないと、小遣い稼ぎにもなりゃしねえ」
馬鹿らしくなった。
もう更新なんてやめて、どっかの農家で小作人にでもなったほうがマシだ。
そう思って、宿屋に帰る途中の酒場の前を通りかかった時だった。
「おい、見たかよ! 今日の『追放魔術師』の更新!」
「当たり前だろ! あの主人公が最後に放ったセリフ、最高にスカッとしたぜ!」
酒場から、野太い声が聞こえてきた。
見れば、傷だらけの冒険者たちが、酒瓶を片手に俺の水晶板を囲んでいる。
「俺、あのアニキの言葉で、明日もっかいダンジョンに潜る勇気が出たよ」
「次の更新は明日か? 待ちきれねえなあ、おい!」
彼らだけじゃない。
隅の席では少女が熱心に画面を見つめ、店主までもが「これの続きを読まねえと一日が終わらねえ」と笑っている。
俺の足が、止まった。
手の中の銀貨を見る。
そして、酒場から溢れ出す「熱気」を見る。
「…………クソッ」
俺は踵を返し、宿屋へ向かって走り出した。
階段を駆け上がり、自室の机に飛びつく。
羽ペンを握る指が、期待と興奮で小刻みに震えていた。
「金? 効率? そんなもん、知るかよ!」
俺は再び、真っ白な水晶板に魔力を流し込む。
脳内には、あの冒険者たちが腰を抜かすような、最高の展開が溢れていた。
「金貨100万枚積まれるよりも、あいつらの『最高だ!』って声が、俺にとっては一番の報酬なんだよ!」
暗い部屋の中で、水晶板が青白く輝き出す。
【現在の24時間ポイント:4538pt(約50円)】
数字はまた、残酷な現実を突きつけてくるかもしれない。
それでも──俺は書く。
だって、俺の物語を待っている奴らが、こんなにもたくさんいるんだから!
……あと、単純に書くの楽しいからなw
(完)
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