「冷たくて気持ちいい」って私は抱き枕代わりですか!?『魔力ゼロの欠陥品と追放された私、魔力過多な灼熱公爵様に拾われる』

あとりえむ

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第8話 氷の略奪愛と、熱の暴走

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 その夜、氷帝国の王城で歓迎の舞踏会が開かれた。

 会場は、床も壁もすべてが透明な氷で作られた「水晶の間」。
 美しい。確かに美しいが、私にとっては巨大な冷蔵庫の中に放り込まれたのも同然だった。

「……寒い。帰りたい」

「我慢しろ。挨拶が済んだらすぐに連れ帰ってやる」

 私はアレクセイの腕にこれでもかと密着し、暖を取っていた。
 彼の体温は今日も絶好調に高い。

 周囲の貴族たちが「なんだこの熱気は……」と訝しげに扇子を使っているが、私にとっては唯一の命綱だ。
 そこへ、主役が現れた。

「ようこそ、我が氷の世界へ」

 第二皇子ミハイル。
 純白の礼服に身を包んだ彼は、歩くだけで周囲の空気をピキピキと凍らせる。
 その視線が、一直線に私を射抜いた。

「美しいレディ。そんな暑苦しい男のそばにいては、肌が乾いてしまうだろう?」

 彼は優雅に手を差し出した。

「おいで。俺の隣なら、永遠に若さを保てる『冷蔵保存(クール・ビューティー)』を約束しよう」

「お断りします。私は常温保存派なので」

 ――即答。
 しかし、ミハイルは「ふッ」と鼻で笑った。

「強情なところも愛らしい。……だが、俺は欲しいものは手に入れる主義でね」

 彼が指を鳴らした瞬間、床の氷が怪しく発光した。

 ズズズズズ……ッ!

「なっ!?」

 アレクセイが反応するより早く、地面から巨大な氷柱がせり上がった。
 それは生き物のように形を変え、私とアレクセイの間を分断するように壁を作る。

「リリスッ!!」

 アレクセイが手を伸ばすが、指先は氷の壁に阻まれた。
 あっという間に、私は透明な氷のドームの中に閉じ込められてしまった。

 古代魔導具『絶対零度の檻(アイス・プリズン)』。
 
 この檻は、物理的には透明だが、「熱エネルギー」だけを完全に遮断する断熱結界だという。

「……っ!」

 途端に、世界が変わった。
 
 今まで私を包んでいたアレクセイの温もりが、プツリと断たれたのだ。
 代わりに襲ってきたのは、骨の髄まで染み入るような、暴力的な寒気。

 ガタガタガタ……。

 歯の根が合わない。
 寒い。寒い。寒い。
 実家のあの屋根裏部屋よりも、ずっと酷い。

 私は膝をつき、自分の細い肩を抱きしめて震え出した。

「ははは! 見ろ、あの可愛らしい姿を!」

 檻の外で、ミハイルが高笑いしている。
 彼は私の震えを見て、とんでもない解釈を披露した。

「震えているね。俺の圧倒的な美しさと、絶対零度の魔力に感動して言葉も出ないか? それとも、俺に愛される喜びに打ち震えているのかな?」

(……ちが、う……!)

 私は心の中で、全力のツッコミを入れた。
 暖房をブチ切りにされたから寒いだけだ、このポンコツエアコン!

 けれど、寒すぎて声が出ない。
 私の「魔力真空」は、触れているもの(熱や冷気)を吸い取ることはできる。
 だが、結界で完全に遮断されてしまえば、ただの「魔力ゼロの人間」なのだ。

 自家発電できない私は、このままでは本当に凍死してしまう。

「ふざけるな……ッ! そこを退け、かき氷ッ!」

 ――ドォン!!

 アレクセイが氷の壁を殴りつけた。
 拳から爆発的な炎が噴き出す。
 しかし、古代の結界は傷一つ付かない。熱をすべて弾いているのだ。

「無駄だよ。その檻は、君の野蛮な熱を一切通さない」

 ミハイルが冷ややかに告げる。

「彼女は俺のものだ。俺の氷像コレクションの、最高傑作にしてやる」

「……ぐ、ぁ……ッ!!」

 アレクセイが苦悶の声を漏らし、その場にうずくまった。
 彼の様子がおかしい。

 肌が真っ赤に充血し、首の血管が浮き上がっている。
 目からは血の涙のような赤い光が漏れ、口からは白煙ではなく、不吉な黒い煙が上がり始めていた。

(……いけない!)

 私は直感した。
 リリス(冷却材)を失った彼の魔力炉が、暴走を始めている。

 彼の体内では今、行き場を失った膨大な熱エネルギーが循環不全を起こし、内側から彼自身を焼き尽くそうとしているのだ。

 それなのに、皮膚の表面はミハイルの冷気で凍てついている。

 内側はマグマのような灼熱。
 外側は絶対零度の極寒。

 その矛盾した温度差が、彼の肉体を引き裂くような激痛を与えているはずだ。

「……返せ……」

 アレクセイが顔を上げた。
 その瞳は、理性を失った獣のように赤く濁っていた。

「俺の……リリスを……返せぇぇぇッ!!」

 ゴオオオオオオオォォォッ!!!!

 彼の全身から、紅蓮の火柱が立ち上った。
 それは単なる魔法ではない。生命力を削って放出される、破滅の光だ。

 バキィッ!!

 会場の氷の床に、巨大な亀裂が入る。
 あまりの熱量に、ミハイルの顔から余裕が消えた。

「な、なんだこの熱量は……!? 自爆する気か!?」

 ズズズ……ゴゴゴゴゴ……。

 その時。
 城の地下深くから、地鳴りのような唸り声が聞こえた。

 灼熱と極寒。
 二つの極端な魔力が衝突したエネルギー干渉によって、この城の地下に眠っていた「厄介なもの」が目を覚ましたのだ。

 もはや、ただの痴話喧嘩では済まない。
 国一つが消し飛ぶ、大災害の幕開けだった。

(続く)
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