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仕方ない
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返すシルヴァはいたってのんびりしたものだ。
「ああ、あれ?
天才賭事師シルヴァ様の登場に、びびって逃げ出したんじゃね?」
「それはもういい」
傍らに浮かせた魔法道具のランプが、行く手を照らし出している。
あれだけひっきりなしにイシュアを襲ってきた骸骨たちは、まるでただの悪い夢だったようにその姿を消していた。
「あの骸骨たちも……どこに行ったのだ……?」
「天才賭事師シルヴァ様の登場にびびって……」「だからそれはもういい」
通ってきたルートをそのままさくさくと進み、浮遊の魔法で縦穴を上へと飛んで、第三階層へと降り立つ。
横の部屋からは、ざわざわと何かの気配はするものの、蝙蝠が飛び出してくる様子はなかった。
「あの蝙蝠たちも……」「天才賭事師シルヴァ様の……」
二人して互いの台詞に被せ合う。
うぬう、と、うなると、二人して互いに反撃を始めた。
「だからそれはもういいと言っている!」「まだ何も言ってねえし! つか全部言わせろ!」「先に遮ったのはあなたの方ではないか!」
「これはこれは、イシュア殿下ではありませんか」
二人ははっと振り向いた。
それほど狭くない廊下に、ずらりと隊列を組んだ一行が足を止めていた。
先頭の騎士が、慇懃であからさまに無礼な笑みを浮かべている。
「このような浅い階層で遊んでおられたのですね。
せっかく大過なくグラータにたどり着けたのですから、お怪我をなさる前にさっさと田舎にお帰りになったほうがよろしいかと……。
おや失礼、もうお怪我をなさったのですか?」
別の騎士も声高に挑発してくる。
「ご自分の足で歩くことも出来ぬとはなんと情けない!
だが、さすがはイシュア殿下ですな、そのような小者の背に乗せられて恥じることもないとは……。
我らがルーファス殿下なら考えられぬ醜態だ」
隊列から笑いが起こる。
背に負ったイシュアの表情は判らない。だがシルヴァの上衣を掴んだ両手は小刻みに震えている。
シルヴァはごきりと首を鳴らした。
「王子、なんだこの連中は」
のんびりした口調に、低く絞り出すような答えが返ってくる。
「兄上の……長兄ルーファスの家臣たちだ」
「左様、我らは次代のルドマン王、ルーファス様の名代だ。
そこをどけ、小物ども」
「どもって……なあ。
俺はともかく、王子は君らの主じゃないのか?」
シルヴァの素朴な疑問に、先程とは比べものにならない爆笑が返ってきた。
こちらを指さし、腹を抱えて笑うものすらいる。
「……なんだあ? 失礼な奴らだな」
シルヴァのむくれた声にイシュアは応えない。
息を潜めてシルヴァの背にしがみついている。
声にならない痛みを感じ取ったか、セトラがイシュアの肩に乗り移ると、耳元で心配そうに鳴いた。
「我らの主でなぞあるものか。
そこの小者は、偉大なるユリウス五世陛下のお情けを受けただけの、田舎貴族の娘の子だ。
本来、聖なる継承の儀に参加するのもはばかられるものを、陛下の計らいで名を連ねたに過ぎぬ」
後ろの騎士が、勝ち誇ったようにたたみかける。
「我らはすでに第七階層まで攻略を進めた。
遊んでいたあなたと違って、疲れての帰還なのだ。どいてはくれないか?」
先頭の騎士が、凍り付くように冷ややかな声で宣言した。
「さあ道を空けろ、小者」
王国でも精鋭の騎士なのだろう。投げつけられた圧は相当のものだったが、シルヴァの様子は変わらなかった。
軽く息をついて、のんびりとした口調で背のイシュアに問う。
「どうする、王子?」
意外なほどあっさりと、背から低くかすれた声が返ってきた。
「仕方ないのだ……道を、譲ってくれ」
壁際に避けたシルヴァ達に、騎士たちは次々と失笑を浴びせ通り過ぎていく。
背のイシュアは、ずっと一言も発することはなかった。
まるで屍のように、ただシルヴァに背負われていた。
「ああ、あれ?
天才賭事師シルヴァ様の登場に、びびって逃げ出したんじゃね?」
「それはもういい」
傍らに浮かせた魔法道具のランプが、行く手を照らし出している。
あれだけひっきりなしにイシュアを襲ってきた骸骨たちは、まるでただの悪い夢だったようにその姿を消していた。
「あの骸骨たちも……どこに行ったのだ……?」
「天才賭事師シルヴァ様の登場にびびって……」「だからそれはもういい」
通ってきたルートをそのままさくさくと進み、浮遊の魔法で縦穴を上へと飛んで、第三階層へと降り立つ。
横の部屋からは、ざわざわと何かの気配はするものの、蝙蝠が飛び出してくる様子はなかった。
「あの蝙蝠たちも……」「天才賭事師シルヴァ様の……」
二人して互いの台詞に被せ合う。
うぬう、と、うなると、二人して互いに反撃を始めた。
「だからそれはもういいと言っている!」「まだ何も言ってねえし! つか全部言わせろ!」「先に遮ったのはあなたの方ではないか!」
「これはこれは、イシュア殿下ではありませんか」
二人ははっと振り向いた。
それほど狭くない廊下に、ずらりと隊列を組んだ一行が足を止めていた。
先頭の騎士が、慇懃であからさまに無礼な笑みを浮かべている。
「このような浅い階層で遊んでおられたのですね。
せっかく大過なくグラータにたどり着けたのですから、お怪我をなさる前にさっさと田舎にお帰りになったほうがよろしいかと……。
おや失礼、もうお怪我をなさったのですか?」
別の騎士も声高に挑発してくる。
「ご自分の足で歩くことも出来ぬとはなんと情けない!
だが、さすがはイシュア殿下ですな、そのような小者の背に乗せられて恥じることもないとは……。
我らがルーファス殿下なら考えられぬ醜態だ」
隊列から笑いが起こる。
背に負ったイシュアの表情は判らない。だがシルヴァの上衣を掴んだ両手は小刻みに震えている。
シルヴァはごきりと首を鳴らした。
「王子、なんだこの連中は」
のんびりした口調に、低く絞り出すような答えが返ってくる。
「兄上の……長兄ルーファスの家臣たちだ」
「左様、我らは次代のルドマン王、ルーファス様の名代だ。
そこをどけ、小物ども」
「どもって……なあ。
俺はともかく、王子は君らの主じゃないのか?」
シルヴァの素朴な疑問に、先程とは比べものにならない爆笑が返ってきた。
こちらを指さし、腹を抱えて笑うものすらいる。
「……なんだあ? 失礼な奴らだな」
シルヴァのむくれた声にイシュアは応えない。
息を潜めてシルヴァの背にしがみついている。
声にならない痛みを感じ取ったか、セトラがイシュアの肩に乗り移ると、耳元で心配そうに鳴いた。
「我らの主でなぞあるものか。
そこの小者は、偉大なるユリウス五世陛下のお情けを受けただけの、田舎貴族の娘の子だ。
本来、聖なる継承の儀に参加するのもはばかられるものを、陛下の計らいで名を連ねたに過ぎぬ」
後ろの騎士が、勝ち誇ったようにたたみかける。
「我らはすでに第七階層まで攻略を進めた。
遊んでいたあなたと違って、疲れての帰還なのだ。どいてはくれないか?」
先頭の騎士が、凍り付くように冷ややかな声で宣言した。
「さあ道を空けろ、小者」
王国でも精鋭の騎士なのだろう。投げつけられた圧は相当のものだったが、シルヴァの様子は変わらなかった。
軽く息をついて、のんびりとした口調で背のイシュアに問う。
「どうする、王子?」
意外なほどあっさりと、背から低くかすれた声が返ってきた。
「仕方ないのだ……道を、譲ってくれ」
壁際に避けたシルヴァ達に、騎士たちは次々と失笑を浴びせ通り過ぎていく。
背のイシュアは、ずっと一言も発することはなかった。
まるで屍のように、ただシルヴァに背負われていた。
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