Promise〜あなたへ

コウ

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最終章

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「私、夏帆との約束破っちゃったの」

急に真剣な口調に夏帆は驚いたのか、お茶を注ごうとしていた手を止めた。

私は横の椅子に置いてある鞄の中を探り、クリアファイルから手紙を取り出す。


「これ」

夏帆に差し出すと、夏帆は無言で受け取った。

変色している花柄の封筒。


「夏帆に渡すよう頼まれたの忘れてて、ずっと実家に置いてあったの。この前これ見つけて、差出人書いてないのに封がしてあったから、何かと思って開けて読んじゃった。ごめんなさい」



夏帆は黙ったまま、封筒から便箋を取り出す。

見えている夏帆の視線が、手紙の内容に向けられた。

決して長くはない文章だが、夏帆はじっくり読んでいるようで随分時間が掛かった気がした。



その内、夏帆はゆっくりと便箋を目線から下げ、「やっぱり」と口にした。


私はドキッとした。

“やっぱり渡してなかった”そう夏帆が思っていると解釈した。



「本当に忘れててごめんなさい」

私は慌てて頭を下げる。


「あぁ、違うの」

すると夏帆は自分の目の前で手を振った。


「優香ちゃんからの手紙で、“約束破った”って何の事かなって思ってて…もしかしてこの手紙の事かなぁって」

夏帆は少し眉毛を上げ、「その予想が当たったって意味」と続けた。


「謝る事ないよ。昔の話なんだから」


夏帆は便箋を封筒に戻した。

それをテーブルの上に置いた。





「本当に気にしないで。私も忘れてた位だし」

夏帆からもらった手紙にも、そんな風に書いてあった。

しかし、私は「うん…」と微妙な心境だった。


「それに、本当に謝らないといけないのは、私の方なの」


夏帆の声のトーンが下がった。

それも手紙に書かれていたが、私には全く謝られる覚えがない。

なので、そのままを告げた。



「私、謝られる事なんてないんだけど」

「ううん」


夏帆は首を振った。



「あのね…そのー…えっと…」


歯切れの悪い夏帆。

私は夏帆の声を聞きながら、なんとなく昔を思い出していた。





夏帆は物事をハッキリ言えない訳ではない。


確かに他人と比べたら、そう見えるかも知れない。

でもそれは、いかに相手を傷つけないようにするか…と言葉を選んでいるのだ。

夏帆は昔もそうだった。


優しい子だった。



「私が千葉に引越しして、少ししてからね…」

やっと夏帆が話を切り出した時、リビングのドアがガチャと開いた。

私は咄嗟にそっちを向く。

すると、小さな男の子が立っていた。



「ママ…」

「あれ?起きたの?」

夏帆は立ち上がると、その男の子の傍へ行った。

「え…」

私は無心で声が出た。

子供を抱く夏帆を見て、「子供いるの?」と答えがわかった質問をした。



「うん…今年4歳になるんだ」

夏帆に抱かれた男の子は、夏帆の胸元に顔を埋めている。


「今日幼稚園休みなの。昨日の夜早く寝ちゃってさ、今日の朝は早く起きて遊びまわってたから、さっき昼寝しちゃってたの」

夏帆は苦笑いしながら、胸にいる子供を宥めるように体を横に揺らした。




私は仲の良い友人で、結婚した人が少ない。


子供がいる友人は、夏帆が初めてだ。



夏帆はきちんとした母親にも見えるが、何故か子供が子供をあやしているようにも見えた。


小学校の友人だからだろうと私は思った。



そして、電話で夏帆が言ってた“あんまり外出も出来ない”発言も消化出来た。

子供がいれば確かにそれはそうだ。



私は立ち上がり、未だに顔を埋めている子に目線を合わせるよう屈んだ。



「こんにちは」

私の声に反応は見せたが、まだご機嫌斜めらしい。


「ほら。こんにちはって言いなさい」

夏帆に言われて、「こん…に…ちは」と小さく男の子は言う。



「ごめんね。今日私の友達来るって言っておいたんだけど…ちょっと驚いたのかな」

「そうだよね。知らない人だもんね。ビックリさせてごめんね」


私は子供が好きだ。

自分に兄しかいないせいか、弟や妹がいる友達が昔から羨ましかった。

もし夏帆に子供がいると知っていたら、手土産の他に、オモチャでも持ってきたのに…。

そう思ったが、今となってはどうしようもない。



「え…って事は、結婚してるの?」

私は屈んでいた体を起こした。

「うん」と目の前で夏帆が答えた。



確かに考えてみればそうだ。

こんな広い部屋に夏帆1人という方がおかしい。



夏帆の両親と暮らしているという選択肢はない。


夏帆に手紙を出した時、千葉の住所を書いてそこに届いたし、夏帆からも“母に転送してもらった”と言われていた。

となると、他に住んでいる人がいると安易に結びついたはず。



旦那と呼ばれる人か彼氏と呼ばれる人かは別としても、普通はそこまではわかる。

何で今までわからなかったんだろうか。

久しぶりの再会への緊張と、この部屋の広さと、何より返さなきゃいけない手紙の事が頭にあり過ぎたのだろうか。



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