あいつだけは敵に回さないほうがいい

星上みかん(嬉野K)

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出番だぜ

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「ふむ……こんなものですか」

 掃除を終えて、自身の成果を確認する。

 完璧としか言いようがない。この薄暗い部屋が生まれ変わったよう……というのは言いすぎだな。すでにこの部屋はキレイだった。
 おそらくあの無口な先輩が、この部屋を掃除してくれていたのだろう。だから、私がやることはほとんどなかったのだ。

 これで給料もらえて嬉しいけど……ちょっと罪悪感もあるな。何かお店でトラブルでも起きないかな。そうすればそれを解決して、ある程度仕事した気になれるのに。

 さて……裏の掃除は終わったが、その後はどうすればいいのだろうか。勝手に他の場所も掃除しておこうか。それとも主人に指示を聞きに行こうか。

 あるいは、このままサボってしまうか……なんてことを考えていたときだった。

「お……」

 ホールの方向から、大きな物音。ちょうど人間が吹き飛ばされて、椅子や机を巻き込みながらふっとばされたような音だった。というより、まさしくその音だろう。
 
 つまり……トラブルか。おそらくお店で荒くれ者でも暴れているのだろう。荒くれ者だから暴れるのは当然のことなのだ。むしろ暴れなかったら荒くれ者ではないのだ。

 ほほう。これは楽しそうなイベント……じゃなくて働きがいがある。あの主人も腕っぷしには自信があるようだったが、もしかしたら他の客の対応で忙しいかもしれない。

 そうだ。だから私が行かないとな。というかトラブルには首を突っ込みたい。首を突っ込んで、そのトラブルがつまらなければ、逃げればいいのだ。

 ということで、私は掃除道具を元の位置に戻してから、ホールの扉を開けた。

「何事でしょうか」

 私の呑気のんきな声は、ホールの喧騒にかき消された。
 ホールでは顔を赤くしたチンピラ(おそらく酔っ払い)の集団が椅子を蹴り飛ばして暴れていた。
 そして……散乱した机と椅子のガレキに埋もれている少年一人。

「おう用心棒。出番だぜ」

 カウンターの中から、店の主人がそう言ってきた。

「用心棒は間に合ってるのでは?」
「悪かった。じゃあゴミを片付けてきてくれ。それなら清掃員の仕事だろ?」
「承知しました」騒ぎの渦中に向かいかけて、私は振り返る。「そういえば『いざという時だけ頼りになる』という人はどこへ?」
「ああ……さっき買い出し頼んだ」

 ならば仕方がない。雇用主の頼みなら断れないだろうから。
 ……それと、あの清掃員の先輩……無口な先輩の姿が見当たらない。どこかへ行っているのか……

 あるいは……

 いや、ここで考えても仕方がないな。答えが出るわけじゃないし、もしも私の想像が正しければ、考えなくても答えは出る。
 
 それならば、今の私にできることは一つだけだ。

 この場所で暴れているチンピラたちを退治する……じゃなくて、ゴミ掃除である。
 ホールをキレイにするのも、清掃員の仕事だ。だから、そこを汚すゴミを追い出すのも清掃員の仕事の一環である。
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