あいつだけは敵に回さないほうがいい

星上みかん(嬉野K)

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難しい言葉を使って申し訳ありませんでした

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 さて状況判断だ。いかに私でも、状況も見ずに突っ込んだら足をすくわれる可能性がある。

 場所は酒場。相手は酔っ払っているであろうチンピラ5人。
 被害者は……小さな男の子だ。なんでこんな少年が酒場という場所にいるのか気になるが、それは後回しだろう。

 少年はチンピラたちに殴り飛ばされたらしく、大きく頬を腫らして地面に倒れ込んでいた。
 そして、その少年の特徴が一つ。

「ほら見ろよ」チンピラの一人が少年の頭を指差して、「ツノ生えてるぜ……やっぱり噂は本当なんだな」

 指摘されるなり、少年は傍らに落ちていた帽子を拾った。そしてツノを隠すように帽子を被る。どうやら元から被っていた帽子が、殴り飛ばされた拍子に落ちてしまっていたらしい。

「お前さ、なんで人間の街にいるんだよ」チンピラは少年を囲いながら、「悪魔は悪魔の街に帰れよ……って、そっちにも帰れないか。なんつっても混ざり物だもんな」

 混ざり物? なんだか私のよく知らない単語があるが、まぁ今はどうでもいい。
 問題は、このチンピラたちが他のお客様を怖がらせているということだ。少年は明らかに怯えているので、ここは助けなければなるまい。
 そもそも、少年が酒場に来なければいい話かもしれないが、別に年齢制限があるわけじゃないのだ。この少年がどこにいようと、この少年の勝手である。

 ということで、私は少年とチンピラの間に割って入る。

「こんにちは。清掃に参りました」
「清掃?」チンピラは興を削がれたとばかりに顔を歪めて、「掃除なら他の場所やっとけ」
「申し訳ありません。目の前に大きなゴミがあるもので」言ってから、私は付け足す。「ゴミ、というのはあなた方のことですね。他のお客様に迷惑をかける人間のことをゴミと形容したわけです。難しい言葉を使って申し訳ありませんでした」

 一通り挑発し終えた。すると男たちはすぐに顔を赤くする。元から赤かったけれど。

「なんだお前……俺たちに歯向かうのか?」
「その言葉、そっくりそのままお返しいたしますよ」

 この私に歯向かって、タダで済むと思わないほうが良い。というより、やられっぱなしや言われっぱなしは私の気がすまない。大量にお返ししないと、気が晴れない。

「ふぅん……」チンピラたちは私を取り囲んで、「色気のない格好だな……お前、彼氏いないだろ?」
「はい」

 その手の単語には縁がない。そもそも、恋愛というものをしたことがない。私は一人が好きだし、なにより旅についてきてくれる男性がいない。さらに、変な男性と一緒に旅するくらいなら、一人で旅をしていたほうが楽しいだろう。

 にしても……色気のない格好、か。確かにそうだろう。私はTシャツ一枚という適当すぎる格好だった。このお店に制服がないのが悪い。いや、私のファッションセンスが悪い。

 まぁ、という一連の流れがあって、

「そんな色気のない格好してるから、男に襲われないんだよ」

 という言葉につながったわけだ。
 こんなことを言われたら、言い返すしかない。

「そんな中身のない脳みそしてるから、モテないんですよ」

 このチンピラたちがモテないのかどうか、それは完全に私の推測になってしまう。しかも異性に縁がない私が言っても説得力や破壊力には欠けるだろう。

 だが、目の前のチンピラたちには効いてくれたようだ。

「なんだお前……さてはよそ者だな? まさか俺たちカンディール・アルヴァハルを知らないのか?」
「カン……何?」
「カンディール・アルヴァハルだ」

 聞いてもよくわからなかった。

 さて、これで回想は終わり。ここから私のトラブルメーカーとしての本領発揮である。
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