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悪魔の血
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さて初日のバイトを終えて主人とは別れた。酒場を離れて、ある程度開けた広場に足を運んだ。
人も少ないし障害物も少ないし、少し歩けば森にたどり着く。まぁ修行場としては悪くないだろう。
……ソラさんと接触したかったなぁ……なんて後悔を心の奥底に押し込めてから、私は少年に聞く。
「少年。あなたはなんのために強くなりたいんですか?」
「えっと……」
また少年は下を向く。どうやら回答するのにいちいち時間をかけるタイプの人間らしい。慎重派で素晴らしいだろう。そしてすぐに解答を出せる大胆な人も嫌いじゃない。
ただ、人それぞれタイプがあるというだけ。どちらを否定するものでも肯定するものでもない。
だが、この少年のようなタイプを相手にする場合、待っている時間が存在するのは確かだ。
ということで、いろいろ考えてみる。
この年頃の男の子が強さを求める理由は何が考えられるだろうか。おそらく少年は10歳にも満たないような少年である。気弱そうで怖がりであろう少年が、強さを求める理由はなんだろうか。
純粋に強さへの憧れだろうか。それが一番多い気がする。強い=かっこいいという直結の思考回路によって、強くなりたいと思う人もいるだろう。
あるいはモテたいから、とかだろうか。強い=モテるという思考のプロセスによって導き出された結論が、強くなりたい、というものだったのだろうか。
あるいは自分を変えたい、とかもあるだろう。他には――
「あの……」私の思考の途中で、少年が言う。「友達を……守りたくて……」
ああ、なるほど……そういうのもあるか。
友達……友達か……私には友達なんていないから、友達を守りたいという気持ちはわからない。だが、この少年にとっては大事な理由なのだろう。
「友達、ですか」
「はい……」
「その友達は……何かしらの危機にいるんですか?」
「はい……えっと……いじめ、られていて……」
「いじめですか……」
私の嫌いな言葉である。
「それが……その……」少年は涙声になりながら、「僕……僕と友達になったから……その子はいじめられ始めて……」
「あなたと……?」
ふむ……ちょっと複雑な話になりそうだな。ゆっくりと腰を据えて話してもらおう。
☆
「ちょっと時間をかけて話を聞きますね。まず、あなたと、
そのお友達の名前を教えて下さい」
「あ……僕がアルミュールで、友達がヴェロスです」
「なるほど……じゃあ、『アル』と『ロス』って呼びますね」
「はぁ……」
長い名前は覚えられないのだ。二文字くらいしか覚えられない。頑張っても三文字だ。ソラさんが二文字で良かった。私の名前も二文字で良かった。
「それで……もともといじめられていたのは僕のほうだったんです。原因は……これで……」
そう言って、少年は頭の帽子を外した。その下からは、さっき酒場で見たツノが生えていた。
「旅人さんは……悪魔の存在を信じていますか?」
「信じてるも何も……直接会いましたよ」
「え……本当ですか?」
「はい。気の良い酒飲みでした」
唯一腹が立つのは、私にお酒を飲ませようとしてくることである。私はお酒は飲まないようにしているというのに。
「ホントにいたんだ……悪魔って……」少年は感嘆の声を漏らしてから、「じゃあ信じてもらえると思うんですけど、僕は悪魔の子孫らしいんです」
「子孫……」
それで混ざり物か。
「はい。僕の遠いご先祖様が悪魔だったらしくて……その血が僕には色濃く出たみたいで……それで……ツノが生えてきて……」
「それがいじめの原因、ですか」
「……はい……」
くだらない理由だ。自分と違うからという理由で他者を迫害するなんて、暇人のやることだ。
そんなことをしている暇があれば、自己研鑽の一つでもすればいい。
「キッカケは学校の魔力検査で……そこで異常な数値が出たらしくて……」
「ちょっと待って下さい。魔力検査とは?」
「あ、教育機関で行われる魔力の測定です。量とか質とか、そういったものが調べられます」
ふむ……私は魔力を持ち合わせていないのでよくわからんな。
「そこでいろいろ言われたんです。『バケモノ』とか『やっぱり人間じゃないんだな』とか」
なるほどねぇ……そこまで異常な魔力の数値だったのか。そしてそれを恐れるがあまり、愚かな人間たちがいじめという行為に走ったと。怖がるなら関わらなければいいのに。なんでわざわざいじめるのだろう。
「でも……同級生が怖がっちゃうのもわかるんです……」少年は自分の手を見つめる。「先生から言われました。あんまり感情を高ぶらせたらダメだって。そうしたら、悪魔の血が暴走するからって」
悪魔の血の暴走……ちょっと面白そう、だと思ってしまう私は性格が悪いのだろう。あるいは頭が悪いのだろう。
にしても……なんでそんな力を秘めている人をいじめるかなぁ……怖がるなら、逃げたほうがいいだろうに。やっぱり頭が悪いんだろうな。私と同じように。
それにしても……この街面白いなぁ……敵に回してはいけない存在と、暴走したらおそらく強大な力を発揮するであろう少年までいる。
……私が訪れた街の中でも、トップクラスに面白い。
人も少ないし障害物も少ないし、少し歩けば森にたどり着く。まぁ修行場としては悪くないだろう。
……ソラさんと接触したかったなぁ……なんて後悔を心の奥底に押し込めてから、私は少年に聞く。
「少年。あなたはなんのために強くなりたいんですか?」
「えっと……」
また少年は下を向く。どうやら回答するのにいちいち時間をかけるタイプの人間らしい。慎重派で素晴らしいだろう。そしてすぐに解答を出せる大胆な人も嫌いじゃない。
ただ、人それぞれタイプがあるというだけ。どちらを否定するものでも肯定するものでもない。
だが、この少年のようなタイプを相手にする場合、待っている時間が存在するのは確かだ。
ということで、いろいろ考えてみる。
この年頃の男の子が強さを求める理由は何が考えられるだろうか。おそらく少年は10歳にも満たないような少年である。気弱そうで怖がりであろう少年が、強さを求める理由はなんだろうか。
純粋に強さへの憧れだろうか。それが一番多い気がする。強い=かっこいいという直結の思考回路によって、強くなりたいと思う人もいるだろう。
あるいはモテたいから、とかだろうか。強い=モテるという思考のプロセスによって導き出された結論が、強くなりたい、というものだったのだろうか。
あるいは自分を変えたい、とかもあるだろう。他には――
「あの……」私の思考の途中で、少年が言う。「友達を……守りたくて……」
ああ、なるほど……そういうのもあるか。
友達……友達か……私には友達なんていないから、友達を守りたいという気持ちはわからない。だが、この少年にとっては大事な理由なのだろう。
「友達、ですか」
「はい……」
「その友達は……何かしらの危機にいるんですか?」
「はい……えっと……いじめ、られていて……」
「いじめですか……」
私の嫌いな言葉である。
「それが……その……」少年は涙声になりながら、「僕……僕と友達になったから……その子はいじめられ始めて……」
「あなたと……?」
ふむ……ちょっと複雑な話になりそうだな。ゆっくりと腰を据えて話してもらおう。
☆
「ちょっと時間をかけて話を聞きますね。まず、あなたと、
そのお友達の名前を教えて下さい」
「あ……僕がアルミュールで、友達がヴェロスです」
「なるほど……じゃあ、『アル』と『ロス』って呼びますね」
「はぁ……」
長い名前は覚えられないのだ。二文字くらいしか覚えられない。頑張っても三文字だ。ソラさんが二文字で良かった。私の名前も二文字で良かった。
「それで……もともといじめられていたのは僕のほうだったんです。原因は……これで……」
そう言って、少年は頭の帽子を外した。その下からは、さっき酒場で見たツノが生えていた。
「旅人さんは……悪魔の存在を信じていますか?」
「信じてるも何も……直接会いましたよ」
「え……本当ですか?」
「はい。気の良い酒飲みでした」
唯一腹が立つのは、私にお酒を飲ませようとしてくることである。私はお酒は飲まないようにしているというのに。
「ホントにいたんだ……悪魔って……」少年は感嘆の声を漏らしてから、「じゃあ信じてもらえると思うんですけど、僕は悪魔の子孫らしいんです」
「子孫……」
それで混ざり物か。
「はい。僕の遠いご先祖様が悪魔だったらしくて……その血が僕には色濃く出たみたいで……それで……ツノが生えてきて……」
「それがいじめの原因、ですか」
「……はい……」
くだらない理由だ。自分と違うからという理由で他者を迫害するなんて、暇人のやることだ。
そんなことをしている暇があれば、自己研鑽の一つでもすればいい。
「キッカケは学校の魔力検査で……そこで異常な数値が出たらしくて……」
「ちょっと待って下さい。魔力検査とは?」
「あ、教育機関で行われる魔力の測定です。量とか質とか、そういったものが調べられます」
ふむ……私は魔力を持ち合わせていないのでよくわからんな。
「そこでいろいろ言われたんです。『バケモノ』とか『やっぱり人間じゃないんだな』とか」
なるほどねぇ……そこまで異常な魔力の数値だったのか。そしてそれを恐れるがあまり、愚かな人間たちがいじめという行為に走ったと。怖がるなら関わらなければいいのに。なんでわざわざいじめるのだろう。
「でも……同級生が怖がっちゃうのもわかるんです……」少年は自分の手を見つめる。「先生から言われました。あんまり感情を高ぶらせたらダメだって。そうしたら、悪魔の血が暴走するからって」
悪魔の血の暴走……ちょっと面白そう、だと思ってしまう私は性格が悪いのだろう。あるいは頭が悪いのだろう。
にしても……なんでそんな力を秘めている人をいじめるかなぁ……怖がるなら、逃げたほうがいいだろうに。やっぱり頭が悪いんだろうな。私と同じように。
それにしても……この街面白いなぁ……敵に回してはいけない存在と、暴走したらおそらく強大な力を発揮するであろう少年までいる。
……私が訪れた街の中でも、トップクラスに面白い。
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