あいつだけは敵に回さないほうがいい

星上みかん(嬉野K)

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まだやれますよ

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 少年――アルの指導をして、思った。

 なるほど、これは規格外だと。

 正直言って、今現在のアルは弱い。とてもじゃないけれど強いなんて言えないレベルの強さである。
 だが、動きの節々から成長性が感じ取れる。無限とも思える伸びしろが見えるのだ。

 おそらくアルの奥底に眠っているであろう強大な力。それは悪魔の血と呼べばいいのか天性の才能と呼べばいいのか、私にはわからない。
 わかるのは、私が最高級の素材を手に入れたということである。この素材を殺すも活かすも私次第だと思うと、なんだか重圧があるな……責任ある立場にはなりたくないのだけれど……

 なんにせよ、この子の素質は凄い。そして素直である。だからこそ、変なことまで簡単に吸収してしまう。下手なことは教えられないな、なんてことを思った。

「その友達のことが、本当に大切なんですね」

 休憩がてら、私は問いかけてみる。アルはだんだんと警戒心を解いてくれているようで、少しずつだが会話がスムーズになってきた。

「はい……はじめての友達だったから……しかも優しいし、強いんですよヴェロスは」
「強い、ですか」
「運動神経が凄いんです。何をやっても上手だし、たぶんケンカをしても強いと思います」

 ふむ……ならばなぜそのロス君はいじめられているのだろうか。運動神経が優れていて、かつ強ければ、人気者になれそうなものだけれど。
 性格的な問題か、あるいはいじめの標的選びに理由などないのか。やはり武力はいじめられやすさとは関係がないのか。
 わからないな。私は人間関係が苦手だ。築くのも紡ぐのも苦手だ。だから、人間関係上の問題はどう解決したらよいかわからない。

 だが、その人間関係に重きをおいている人がいることも理解している。だから、アルにとって友達のロスが大切なのは承知している。

 できることなら、その問題を解決したいけれど……なかなか難しいな。だがやらなければならないだろう。アルのためにも、私のためにも。

「さて……」だんだんと夜も更けてきた。子供を連れ回すには遅い時間になってしまったと反省しながら、「今日はこの辺にしましょうか」
「え……まだやれますよ」

 底なしの体力だな。結構動き回らせたつもりだったけれど。

生憎あいにくですが、私の宿取りがあるので」

 師匠役をやっていたせいで、今日の宿が決まっていない。このまま野宿も悪くないが、とりあえず宿候補をあたってみよう。

 宿候補、と言っても現在は一つしかないけれど。そこに断られたら……まぁ野宿かな。幸い夜空はキレイだし、悪くない夜になるだろう。
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