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第11話
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泣き叫ぶ仁に芳樹は…。
「さようなら…仁おじさん…。」
芳樹は最後に一礼をしてから仁の執務室を出て行った。
閉じたドアを背にして、これまでの日々を思い返しそうになったが…芳樹は無言で歩き出した。
エトランスに明とその婚約者であろう女性はいなかった…。
だが、明の弟の征が芳樹を待っていた。
「あんた…いつまで此処にいるつもりだ?兄さんはもうすぐ結婚するんだ!あんたは目障りなんだよ!この家から、兄さんの前から出て行け!!…僕は知っているんだ!あんたがしている事…本当に穢らわしい娼婦だよな!」
きゃんきゃん喚く征に今日は芳樹も言い返す事にした。
「ふん…その!娼婦に仕事を取り持って貰って、お前の今がある…お前が身に付けている服も装飾品も…日々食べている美味しい物も…お前が手にしている物全てに…俺の恩恵があってこそだと気が付いていないのか?言わば本城の様々な仕事には娼婦の俺が便宜を図ったからこそある成果がある!征…光には必ず影があるんだって事を、忘れるな!その恩恵で生かされているお前に文句を言われる謂れは無い!」
「!!」
「それに…決定権の無かった俺に言う事でも無いだろう…文句があるならお前の父親に言え!」
「くっ…」
言い負かされた征の悔しそうな顔に芳樹は、ちょっとだけ気分を良くしてエトランスを抜けて正面玄関に出た。
そして、振り向く事もせずに自分の荷物を取りに離れへ歩いて行った。
離れに戻った芳樹は個人的に持って来た物だけを旅行用のバックに入れた…少しの着替えと父の位牌を持つと離れを出ようとしたところで執事の高倉が来た。
「芳樹様、本当に出て行かれるのですか?せめて今夜だけでもこちらに…。」
「高倉…いや、もう俺は本城じゃなくなったのだから高倉さんと言わなければな…。」
「芳樹様…私の事はこれまで通りにお呼び下さい!…本当にこのまま出て行かれるのですか?」
「高倉…もう俺は自由になった…これからは…これからは自分の為に生きていく…やっとそう決心出来た!だから、俺は行くよ…。」
「芳樹様…分かりました…では、今夜の宿を…小早川のご実家はもうありませんから…私がホテルを手配致します。」
「子供では無いのだから、そのくらい自分で出来るよ…。」
「分かっておりますが…どうか、ここまでは私にお任せ下さいませ!」
「…分かった…ありがとう高倉…。」
「では、ホテルまで送らせますので…。」
「ああ…分かった。」
芳樹は昔から高倉には弱かった…この本城の家で唯一芳樹を見下さない、たった1人の人だった。
手配をして貰って、いつもの寡黙な運転手がいつもと同じ様に迎えに来たので大人しく車に乗った。
そして、いつもと同じ様に頭を下げて見送る高倉に目礼した。
静かに走り出した車の中で芳樹はやっと肩の力が抜けていくのを感じた…。
流れる車窓から見える景色を眺めて…ポツンと手に落ちた雫を見た…。
「あ…あれ?」
芳樹の頬を流れる雫は止まる事を忘れた様に、幾つも幾つも流れた…。
「ふふふ…止まらないや……うっ……」
こんな時も泣き叫ばない自分に少し呆れながら…芳樹は流れるままに身を任せ静かに泣き続けた。
そんな芳樹に寡黙な運転手はスピードを落として目的地へ向かった。
ホテルに到着する前に芳樹の涙が落ち着くのを願って…。
「さようなら…仁おじさん…。」
芳樹は最後に一礼をしてから仁の執務室を出て行った。
閉じたドアを背にして、これまでの日々を思い返しそうになったが…芳樹は無言で歩き出した。
エトランスに明とその婚約者であろう女性はいなかった…。
だが、明の弟の征が芳樹を待っていた。
「あんた…いつまで此処にいるつもりだ?兄さんはもうすぐ結婚するんだ!あんたは目障りなんだよ!この家から、兄さんの前から出て行け!!…僕は知っているんだ!あんたがしている事…本当に穢らわしい娼婦だよな!」
きゃんきゃん喚く征に今日は芳樹も言い返す事にした。
「ふん…その!娼婦に仕事を取り持って貰って、お前の今がある…お前が身に付けている服も装飾品も…日々食べている美味しい物も…お前が手にしている物全てに…俺の恩恵があってこそだと気が付いていないのか?言わば本城の様々な仕事には娼婦の俺が便宜を図ったからこそある成果がある!征…光には必ず影があるんだって事を、忘れるな!その恩恵で生かされているお前に文句を言われる謂れは無い!」
「!!」
「それに…決定権の無かった俺に言う事でも無いだろう…文句があるならお前の父親に言え!」
「くっ…」
言い負かされた征の悔しそうな顔に芳樹は、ちょっとだけ気分を良くしてエトランスを抜けて正面玄関に出た。
そして、振り向く事もせずに自分の荷物を取りに離れへ歩いて行った。
離れに戻った芳樹は個人的に持って来た物だけを旅行用のバックに入れた…少しの着替えと父の位牌を持つと離れを出ようとしたところで執事の高倉が来た。
「芳樹様、本当に出て行かれるのですか?せめて今夜だけでもこちらに…。」
「高倉…いや、もう俺は本城じゃなくなったのだから高倉さんと言わなければな…。」
「芳樹様…私の事はこれまで通りにお呼び下さい!…本当にこのまま出て行かれるのですか?」
「高倉…もう俺は自由になった…これからは…これからは自分の為に生きていく…やっとそう決心出来た!だから、俺は行くよ…。」
「芳樹様…分かりました…では、今夜の宿を…小早川のご実家はもうありませんから…私がホテルを手配致します。」
「子供では無いのだから、そのくらい自分で出来るよ…。」
「分かっておりますが…どうか、ここまでは私にお任せ下さいませ!」
「…分かった…ありがとう高倉…。」
「では、ホテルまで送らせますので…。」
「ああ…分かった。」
芳樹は昔から高倉には弱かった…この本城の家で唯一芳樹を見下さない、たった1人の人だった。
手配をして貰って、いつもの寡黙な運転手がいつもと同じ様に迎えに来たので大人しく車に乗った。
そして、いつもと同じ様に頭を下げて見送る高倉に目礼した。
静かに走り出した車の中で芳樹はやっと肩の力が抜けていくのを感じた…。
流れる車窓から見える景色を眺めて…ポツンと手に落ちた雫を見た…。
「あ…あれ?」
芳樹の頬を流れる雫は止まる事を忘れた様に、幾つも幾つも流れた…。
「ふふふ…止まらないや……うっ……」
こんな時も泣き叫ばない自分に少し呆れながら…芳樹は流れるままに身を任せ静かに泣き続けた。
そんな芳樹に寡黙な運転手はスピードを落として目的地へ向かった。
ホテルに到着する前に芳樹の涙が落ち着くのを願って…。
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