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4 新しい仕事
しおりを挟む株式会社『ALL ROUND SPORTS』
私が勤める総合スポーツメーカー。
一般的なスポーツ用品からトレーニングマシンやサプリメントまで幅広く取り扱う我が社。取引先は代理店から販売店、学校法人、スポーツチームまで多岐に渡る。
ただでさえ体育会系の人間が集いやすいこの組織の中で最も熱く厳しく忙しいのはどこの部署か、という問いかけに対して全社員は同じ答えを口にすることができる。
――それは『営業一課』だと。
そう、相変わらず私は忙しかった。
課長の意外すぎるオフモードな姿と、その課長に自らの恥ずかしい場面に居合わせられていた事実を知ってから早1ヵ月。
課長一人に対する印象は以前と大分変ったが、それ以外のところはかつての通り明るい自分に戻れ、課内で変に私に気を使ってくる人もいなくなった。
仕事に集中できる環境が整ったのは6月後半。季節はじめじめした梅雨に突入。まだエアコンを使うことを許されない社内は完全に蒸していた。
皆がみんなネクタイを緩めてジャケットを脱いだ状態でデスクにかじりついている。
私も3時過ぎに外回りを終えて、ネクタイはないのでジャケットを椅子に引っかけてデスクワークに精を出していた。
集中してパソコンと睨めっこしていると、扉が開いて誰かがまた1人戻ってきた。気配を感じ、なんとなく顔を上げた。
課長だった。
そういえば、今日は営業部の会議だったっけ。
デスクにたどり着いて腰を下ろした課長の姿を盗み見る。
先月の一件でかなり親しくなったような気がしてたけど、オンとオフの達人は仕事中はスーパークール。
“二人の秘密”などと言われて妙な気分を味わったせいもあって私は以前より課長のことを気にすることが多くなった。ただ、その後課長が参加する飲み会に誘われる機会もなく、それ以前とまったく変わらない上司と部下の関係が続いている。
デスクに落ち着いた課長は何やら手に持っていた資料を一瞥すると、ふいに顔を上げた。
途端視線がぶつかる。
見ていたことがばれてしまったと、ひとり焦った私だったが課長は気にした様子もなくすぐに私と上原さんを呼び出した。
何だろう?
まあ、どうせ次の仕事に関してなんだろうけど。
私と上原さんは直ぐに課長の元へと向かう。
椅子に深く座った課長は、私たちをいつものように見上げた。
「次の仕事に関して説明する」
やっぱり、新しい仕事だ。
私と上原さんは姿勢を正して次の言葉を待つ。
「お前達、うちが毎年取引しているS社は知ってるな」
「「はい」」と二人で淀みなく返事をするが、私はS社と聞いて内心かなり驚いた。
お得意もお得意で、うちの会社にとって最上級クラスの大手小売りチェーンだ。
かつてS社レベルの仕事に関わったことはない。
「約一月後、毎年のことだが今年の新商品をS社に売り込むことになる。今回は俺と上原・川瀬の三人チームが中心になってこの案件を進める。良いな」
私は内心ドキドキバクバクだった。S社の営業はかなり重要なものになる。
課長は言うまでもなく、上原さんも若手での成績はピカイチなので選ばれるのは頷ける。けれどまだ入社3年目の私が中心に混ざるなんて。
嬉しい反面かなりプレッシャーだ。
それでも、この課に所属する限りできる返事はひとつ。
「はい」
「精一杯頑張ります!」
上原さんに続いて私も承諾の返事をする。
その場で必要資料を渡され、一端解放された。
私の席は課長のデスクから見て右手の端の最後尾。上原さんのデスクは右から二番目の一番前。
渡されたばかりの資料に二人で視線を落としながら席に戻る際、上原さんが珍しくいつも穏やかな表情を崩してぼそりと呟いた。
「まさか、今回は川瀬さんだとは…」
「…どういうことですか?」
私が訝しがって問い返すと、上原さんが慌てて両手を大げさに振った。
「いや、別に川瀬さんがS社の営業に選ばれるのが意外ってわけじゃないんだよ。ただ…」
「ただ、なんですか?」
「んー、そのうち分かると思うけど、かなり特殊な営業になると思うから覚悟しといた方がいいかも…」
そう不穏なことを言い残して上原さんは自分のデスクに戻って資料を読み始めてしまった。
特殊な営業?
覚悟?
いまいちピンと来ないまま私も自らのデスクに戻り資料に目を通した。
その後、幾ら資料を読み込んだところで知ることの出来ない情報によって、私は大変な苦労をすることになる。
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