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昔話2

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「今度は何だァ? まーた正義マンのご登場か?」

 銃を俺たちに向けていた盗賊はその先を、いきなり現れた小汚い格好の中年男性に向ける。だが、中年の男は銃口を向けられても恐れる素振りは見せず、少しずつこちらに近寄ってきた。

「確かに、そのガキの言う通りだな。お前らのような物の価値もわからんカス共にくれてやる物はない。失せろ」

「……オッサン、死にてぇのか?」

 その野盗の問いに、男はフッと嘲笑する。と、次の瞬間その行為が気に障ったのか、野盗は躊躇うことなく、男の頭に銃弾を撃ち込んだ。

 パンという乾いた破裂音が採掘現場に響き渡る。俺は目の前で人が撃たれた光景に戦慄する。だが、この後それ以上に驚くべきことが起きた。

「痛ってぇ! テメェ本当に撃ちやがったな!」

 頭を撃たれたハズの男は仰け反った体を無理矢理起こし、自分を撃った野盗に文句を言った。

 このあり得ない光景にその場にいた全員の開いた口が塞がらなかった。

「な、何なんだテメェは……化け物め!」

 男の頭を撃った野盗は銃を構え直すと、今度は単発ではなく、男の全身に銃を乱射した。だが、

「誰が化け物だって?」

「え?」

 困惑の声を上げたのは銃を乱射していた野盗だった。それもその筈、男は野盗から五メートル程離れた位置に立っていた。しかし、銃を撃った次の瞬間には何故か野盗の隣に移動し、銃が撃てないよう片手で引き金を押さえ付けていた。

「そんで、コイツはさっき頭を撃ってくれた礼だ。受け取れ」

 そう言って男は空いたもう片方の手で野盗の顔面を思い切りぶん殴った。野盗は数メートル吹っ飛ばされ仰向けに倒れると、ピクピクと痙攣していた。

「なっ、コイツ!」

 仲間がやられたことで、呆けていた他の野盗達は我に返ると、男に銃を向け、発砲しようとする。だが、それよりも男の瞬間移動のような動きの方が速く、銃を撃たれる前に間合いを詰めると次々に野盗をのしてしまった。

恐らく、この場にいた誰もが、何が起きているのか理解できなかった事だろう。実際、この後、作業員の人達の話やバーグさんの話を聴いても「気が付いたら終わっていた」と口を揃えて言っていた。しかし、俺の眼にはその男の動きがはっきりと見えていた。まるで時間が止まってしまった世界で、男だけが自由に動いているような感じだった。そして、もう一つ気になったのが、男が戦い出してから、その体の周りを淡く白い光が包んでいた。小汚い格好をしているはずの男だったが、この時のその姿は何だか美しくさえ思えた。

「ふぅ、こんなもんか……おい! そこのお前!」

 男は粗方野盗を倒すと最後の一人になった野盗に話しかけた。素手で銃を持った相手を圧倒した相手に残った野盗は完全に戦意を喪失し、その呼びかけに「は、はい」と素直に応じていた。

「動けるならこの伸びている連中を連れてここから消えろ。次に俺の目の前に現れるようなことがあったら本当に殺すぞ」

 そう凄まれると、残った野盗の一人は気絶して這いつくばっている仲間を引きずり、この場から去っていった。

「大丈夫か? あんた等」

 男は、野盗達が去ったことを確認すると、俺とバーグさんのもとにやってきた。

「あ、ありがとうごぜぇます。本当に助かりました」

 バーグさんは頭を深々と下げ、感謝の言葉を述べていた。

「そっちのボウズ。立てるか?」

 今度は俺の方にそう話しかけてきた。俺は「大丈夫」と言って立ち上がった……次の瞬間、

「イテッ!」

 男は俺の頭にゲンコツを落とした。

「ボウズ、お前がさっきとった行動がどれだけ軽率な事かわかっているのか?」

 男は腰を屈め、俺と同じ目線になってそう言う。

「確かに、お前の言い分もわかる。だが、周りにいる仲間の命を危険に晒してまで押し通す事か良く考えてから行動しろ」

 真剣な眼差しで、諭すようにそう言った。まさにその通りだ。何も言い返す事は出来ない。何もできないから悔しくて、ある言葉が思わず口から出た。

「……どうすればいいの?」

「何?」

「どうすれば、皆を危ない目に遭わせずに済むの?」

 俺は目の前にいる男の眼をまっすぐ見てそう問うた。すると男は、

「強くなれ。それしかない」と即答した。

「それっておじさんみたいに、身体から変な光を出せれば強くなれるの?」

 俺がそう質問した時だった。バーグさんをはじめ、周りの皆は俺の話した言葉の意味がわからず怪訝な表情になるが、目の前にいた男は「変な光」というワードに反応し、その眼つきが鋭くなった。

「ボウズ、お前『ウィス』が見えているのか?」

「ウィス? よくわかんないけど、あんな光をたまに見かけたりするよ」

 俺がそう答えると、男は黙り込み少しの間思案した後、口を開いた。

「ボウズ、強くなりたいか?」

「え?」

「みんなを守れる力が欲しいか? と訊いている」

 真剣で、鋭い眼差しの男に俺は思わず気圧されてしまいそうになるが、グッと耐えるとその目を見返し、「強くなりたいです」と答えた。

「よしいいだろう。ただし、一つ条件がある」

「条件?」

「これから俺が教える事は無闇に使うな。必ず、大切な誰かを守る時、大切な物を守る時にだけ使うと約束しろ」

 男は、今までよりもより一層厳しい表情で誓約を求めた。しかし、俺は最初からそのつもりだったので、特に考える事無く「はい! 約束します!」と力強く同意した。

 男は俺の返事を聴くと、フッと笑って立ち上がった。

「俺はしばらくバハマに滞在するつもりだ。その間だけお前を鍛えてやる。ああ、それと俺の事をおじさんと呼ぶのはやめろ。俺の事は……そうだな、先生とでも呼べ。ボウズ」

「はい! 先生!」

「うむ、元気があってよろしい」

「先生一つだけいいですか」

「ん? 何だ?」

「俺の事もボウズじゃなくて、サヴェロって呼んでよ」

「……了解だ。よろしくなサヴェロ」

 これが俺の人生を大きく変えるであろう先生との出会いだった。
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