姫ティック・ドラマチカ

磨己途

文字の大きさ
22 / 138
第一幕 生存・デートル

21 ローランとの決闘 2

しおりを挟む

「……俺の、負けだ」

 俺たちの果し合いを遠巻きに見ていた男女のギャラリーが、ガヤガヤと沸き立つ中、ローランが俺だけに届くような声でつぶやいた。
 最初の印象こそ最悪だったが、俺はこのローランという男を多少見直す気持ちになっていた。

「随分潔い、のですね……」
「これだけ派手に負けて見苦しい真似ができるか」

 そう言いながら腹をさするローラン。
 そこでようやく自分の服が大きく裂けていることに気付いたようだ。
 「マジか」と、これは独り言のように小さくうめく。
 破れた衣服の下から覗く肌には、線状に赤く腫れあがった痕が浮かんでいた。

「私も謝らなければなりません」
「あん? いいよ、こんなもん」

「自分が女であることを利用しました」
「…………」

「初めから、私の木剣を打ち落として終わりにするおつもりだったのでしょう?」

 ローランがまじまじと俺の顔を見つめ、目をしばたかせた。

「ちっ。お見通しかよ。恰好わりぃなあ」
「いいえ。貴方にとって益のない争いに誘導したのは私です。私は自分の行いが恥ずかしい。ですから、お詫び申し上げます」

「……詫びはいいから聞かせろ。あそこで剣を下したのは狙ってやったことか? 最初に立てて誘ったことも?」
「はい。ですから謝罪をと」

 思ったよりも自分が剣を振れなかったので、なるべく腕の力を使わずに勝つ方法を考え、相手の思惑を利用することにしたのだ。
 もし、ローランの打ち込みを一度でも受けていれば、木剣はこの非力な手の中から簡単に叩き落されていたことだろう。
 どんなコンディションでも相手に立ち向かえるように、という鍛錬の成果を示せたことは自分なりに満足のいくものだった。
 だがその一方で、女性を傷付けたくない、という相手の良心につけ込んでしまったところが俺の負い目だった。

「ったく、何者なんだお前は?」
「えっと……」

 何者かと問われて初めて、自分が今は名乗れぬ身であったことを思い出す。
 まずはお忍びで、という家の言い付けに背いたことだけでも大した失態なのだが、女の身でありながら剣術で貴族の子弟を打ち負かすという目立つことをしてしまったことも不味い。
 それも、つい最近まで病気でせっていたはずの姫君が、だ。
 事情を知る者が見れば、これほど不自然極まることはない。

 ミスティが言っていた俺を狙う敵というのがどこの誰かも知れないというのに、これは迂闊うかつが過ぎた。
 怒りで我を忘れた、ということもあるが、今にして思えば剣を振りたいという衝動に抗えなかっただけなのかもしれない。
 久しぶりに一戦まじえてすっきりしたことで、一連の行いを客観的に思い返せるようになり、後悔の念がジワジワと込み上げてくる。
 そんな俺の後ろから、エミリーがおずおずと声を掛けてきた。

「あの、お姉さま。お怪我はありませんか?」
「ええ。大丈夫です。手加減をしていただけましたから」
「……ふん」

「わたくし、思わず目をつぶってしまって、よく見られなかったのですが、まさかお姉さまが?」
「これを見りゃ分かるだろーが! イチイチしゃくに障る女だな」

 ローランが自分の破れた服と腹の痕を指差し、エミリーに向かってすごむ。
 ヒッと身をすくめるエミリーを見て、俺はローランをにらみつけた。

「っ……。悪かったよ。本当は伯父上からも女には優しく接しろって叱られてるんだ。けど、どうしてもよう……。とにかく、すまん!」
「い、いいえ。ローラン様。お顔をお上げください。皆が見ております」

 エミリーが言うとおり、俺たちの周りには大きな人垣ができていた。
 俺たちの話の成り行きにそば耳を立てようと、勝負が終わったのを見て近づいてきたのだ。
 「お名前をお聞きしてみましょうよ」「貴女から話し掛けて」などと連れ合い同士で喋っているのが聞こえてくる。
 女性たちに釣られるように、男たちもそこに加わり前後の経緯について聞き出そうとしているようだ。
 皆、口々にローランを打ち負かした見知らぬ女性に対し興味津々といった体だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...