伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
22 / 500
第一章 転生アンマリア

第22話 甘い衝撃

しおりを挟む
 あっという間に茶会の日が来てしまった。天気がいいために、無事にファッティ家の庭園で行う屋外の茶会となったのだ。
 私はというと、初めての主催による茶会とだけあって、もの凄く緊張していた。母親であるフトラシア・ファッティ伯爵夫人も居るとはいえ、なかなかのプレッシャーなのだ。私は手の平に人の文字を書いてごくりと飲み込んでいる。
 この日の私の体重は56kg。緊張で食事が喉が通らないとかそんな事はなかった。むしろ普通に食べていたのだけど、いやはや、2kgも増えるなんて思ってみなかったわよ。スーラに合わせてもらった服も危うくパツパツになるところだったわ。でも、今回ばかりは太る理由ははっきりと分かっていた。
「ようこそおいで下さいました。今回の主催である、アンマリア・ファッティでございます」
 来客を目の前に、挨拶をする私。地味に足が緊張と体重で震えている。
 目の前にずらりと集まっている少女たち。私と同い年か少し上の令嬢たちから一斉に視線を浴びており、私は思わず吐血しそうなくらいに緊張しているのだ。
 それにしても、集まってくれた中にはラム・マートン公爵令嬢の姿がしっかりあった。そのおかげで、私のこのまん丸ボディとぶよぶよほっぺが笑われる事はない。正直これだけでも心強かったのだ。
「おほほほ、本日は皆さんお集まり頂き、誠に光栄でございますわ。娘のアンマリアは初めての主催で緊張しておりますので、ここは母親である私が代わって進行させて頂きますわね」
 私がガッチガチに固まっていると、横から母親が出てきて仕切り始めた。ナイス、お母様。
「さて、今回皆様にお集まり頂きました庭園でございますが、実は特殊な庭園でございますのよ」
 母親は実に上機嫌で話し始める。何を話すのか想像がついた私は、正直恥ずかしくなってきていた。心の中でやめてと、つい叫んでしまう。
「実はこの庭園、アンマリアが丹精込めて手入れをした庭になりますの。さあさ、みなさん。しっかりと見ていって下さいまし」
 母親がこう言うと、庭園の中が騒がしくなる。そりゃもう、貴族令嬢が庭いじりなんて聞いた事ないのだから仕方がない事よね。でも、普通に運動したところで私には続かないだろうから庭をいじる事にしただけなのに、なんか趣味・特技にされちゃってるわね。私はにこにこしながら母親に心の中でツッコミを入れておく。
 しかし、集まっている令嬢の反応は思ったより悪くなかった。正直バカにされると思ったけれど、予想外に好印象のようだった。丹精込めてお手入れしたかいがあったというものだ。
 つかみはオッケーという事で、私はすぐさま次の手を投入する。お茶会に向けて作ったお菓子をここで披露させてもらう事にしたのだ。
 私は母親に目で合図をすると、それに伴って私の侍女であるスーラたちメイド勢が一斉に動く。そうやってお茶会の場に出されたお菓子はチョコレートだったのだが、このチョコレートをただのチョコレートだと思ってくれるなという話なのだ。
 こうして茶会の席に出されたチョコレートは2種類である。1つは普通のチョコレート。もう1つが私が手を加えたチョコレートになる。見た目には色が違っている。
 この世界ではまだカカオの生産はほどほどの量である。そして加工されてできるチョコレートもやはり流通が少なく、貴族の間では高級菓子として通っているのだ。庶民にはとても手の出る代物ではなかった。ただ、普通のチョコレートでは甘みを加えるための砂糖が多かったのだ。単体では苦いチョコレートは敬遠されていたので、どうしてもお砂糖多めなチョコレートが好まれてしまう。だが、そうなるとカロリーが多くなってしまうので、ひとつ違ってた手を加えたのが、今回出した色の違うチョコレートだった。
 見た事のない色のチョコレートに、令嬢たちはざわざわとしている。未知との遭遇なのだ。騒ぐのは当然の流れよね。
「今回お出ししたのは、普通のチョコレートと蜂蜜を使ったチョコレートになります。基本的な作り方は変わりませんが、お砂糖代わりにはちみつを使ったのが黄色い方のチョコレートとなります」
 チョコレートというだけで令嬢には刺激が強いのだが、同じような攻撃力を持ったはちみつを使っているチョコレート出てきて、茶会に集まった令嬢たちには思わず倒れてしまいそうなくらいの衝撃となってしまったようだった。本当にここまでだけで情報量が多い。
 前世ではクソゲーハンターだったとはいえど、料理は嗜みの一つでひと通りこなせるのよ。さあ、私にひれ伏しなさい!
 内心でドヤ顔を決める私に対し、令嬢たちからの反応は様々だった。素直に感動している令嬢が多いようには見えるものの、厳しい目を向ける令嬢も居た。まあ、少なくとも令嬢は庭いじりはしないものね。私はしみじみとしながら令嬢たちの反応を楽しんでいた。まあ、さすがに同伴していた令嬢の母親たちは一様に厳しい表情だし、なんかダメ出ししていそうな雰囲気だわね。
 あとの話題にしたかった庭園の手入れを秒で母親にばらされはしたものの、こうして私が主催となる初めてのお茶会はスタートしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...