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第二章 ゲーム開始前

第51話 10歳になりました

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 一気に13歳まで飛ぶと思ったあなた、残念でした。まだ挟まるのよ。
 ゲーム本編とは違い、すでにフィレン王子ルートかリブロ王子ルートに固定されてしまった私だけれども、相変わらずフリーダムに動いますわ。
 いろいろあって私の義妹となったモモはとても素直。陰口叩くような事もないし、聞き分けもよくてわがままは言わない。淑女教育もしっかりこなしているし、本当に素直ないい子だった。
 それ以外にもお茶会を開いてラム、サクラ、サキの三人にもモモを紹介したわ、自慢の妹だってね。ちなみに三人とも、ハーツ子爵家の顛末を知っていたらしくて、モモの事をかなり気遣っていたわ。ライバル令嬢たちなのに、本当にみんないい子で私、泣けてきちゃう。一番私が捻くれていると言っても過言ではないわね。
 最初の頃は私のいろいろな行動に戸惑っていたモモも、今ではすっかり慣れてしまっていた。
「お姉様ったらおもしろいですわね」
 この一言で済ませてしまうくらいに図太くなっていた。

 さて、10歳の年明けを迎えて、私の誕生日が近くなっていた。その日はライバル令嬢たちを集めて私の誕生会を開く事になっている。
 私の現在のステータスは酷いものだ。
『アンマリア・ファッティ 女性 10歳 72kg』
 体重が70kgを突破していた。一年半で17kg増えているので、一ヶ月でほぼ1kg増えていっている計算だ。でも、本当の地獄はこれから。成長期に突入するので、さらに体重が増えていくはずである。なにせ13歳の時点で120kgが確定なのだから。つまり、ほぼ36か月で48kg増える。一ヶ月1.3kgの増加だよ、コンチクショー。
 適性や属性適性、それと恩恵の項目はまったく変化なし。むしろ『発明の錬金術師』とかいう妙な称号が加わっていた。まぁ詳しく話す必要はないわね。
 パラメータもそれぞれほぼ均等に伸びていっている。普通、これなら『器用貧乏』と呼ばれるようなものだけれど、私の場合は『全方向の化け物』と呼ばれてしまっている。あるぇぇ?!
 まぁ、魔石ペンをはじめとした道具を作っているし、スタンピードも一瞬で治めてしまうようなものだから、そうなっちゃうのかしらね。

 その一方、私とモモが並ぶと、その体格差は明らかだった。私72kgに対して、モモは30kg程度(ステータス鑑定で覗いた)で、でっぷり横に広い私と比べて、本当にすっきりとした体形だ。10歳という事でささやかな膨らみも出てきている。本当に健康優良児。私の自慢の妹よ、もっと愛でなさい、拝みなさい!
「本当に、こんな太った姉でごめんなさいね」
「何を仰いますか、お姉様。どんなお姿でも、お姉様は自慢のお姉様です」
 申し訳なさそうにする私に、笑顔でそう返してくれるんだから。
「それにしても、この撮影機と転写装置は素晴らしいですわ。一瞬で景色を魔石に記録して、紙に写し出す事ができるんですもの。お義父様やお義母様たちのお姿も、あんなに鮮明に残せるなんてすばらしいですわ」
 そう、魔石ペンに続いて私が開発した魔道具はカメラ。これによって、長時間立って写生してもらっていた絵画も、実に一瞬で済んでしまうようになった。
 だけれども、画家さんたちが職を失ったわけではないわ。カメラはそれを紙に写す転写装置がセットで必要で、これがまたとんでもなく高い。子爵や男爵であればちょっと手が届かないので、そういった人にはまだ画家が重宝されているのだ。絵を描く技術というのは残すべきだし、カメラを開発しながらも、私は画家たちが職を失わないように両親を通じて手を打ってもらっている。

 それにしても、年が明けて10日で私は誕生日を迎える。新しい料理を試すような時間はないだろうし、パーティーには親しい者しか呼んでいないので、そこまで用意する必要はないかなと思っている。
 しかし、そうはうまくいかないのが世の中だ。私がその日も寒い中、庭の手入れをしていると、
「アンマリア、大変よ!」
「お母様、それにモモも、一体どうされたのです?」
 母親とモモが私の所に走ってきたのだ。私は庭の手入れの手を止めて二人に何があったのか聞いてみる。
「お姉様、お姉様の誕生日パーティーに、殿下たちもいらっしゃいます!」
「はえっ?!」
 変な声が出た。母親の手には、確かに王家の蜜蝋が付いた封筒が握りしめられているではないか。しかも、殿下たちという言い回しが気になる。私はさらに確認をしてみると、とんでもない事が判明した。
「フィレン殿下とリブロ殿下が揃ってうちに来られるですって?!」
 なんともまぁ、第一王子と第二王子が揃って伯爵家に出向くなど、それは前代未聞とも言える出来事である。城に呼んで揃うというのならまだしも、いくら父親が城の要職に就いているとはいえ、伯爵家に出向くというのは稀なのだ。
 これは庭いじりをしている場合じゃねえ!
 私は庭いじりの道具をセンマイに託すと、慌てて部屋に戻って服を着替える。
「こうなったら、誕生日パーティーの料理は見直しよ」
 パーティーの主役自らが厨房に立つ。予想だにしない、私の戦いが突然始まったのだった。
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