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第二章 ゲーム開始前

第52話 お茶会で済ませるつもりでしたのに

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 というわけで、自分の誕生日だというのに、そのバースデーケーキを自分で作る羽目になりそうである。
「うーん、卵がないのよねぇ。卵無しでもスポンジケーキは作れるんだけど、うーん」
「ケーキでしたら私どもも作れますよ」
「あっ、本当に?!」
 悩んでいる私に、アラブミが声を掛けてきた。どうやらこの世界はケーキが普通に存在するらしい。そこで私は絵で描いてみせてアラブミに確認を取ってみる。
「これでしたら可能ですね。しかし、殿下たちがいらっしゃるとなると、確かに料理は全体的に見直しでございますね」
「でしょう? だから私は頭を悩ませているのよ」
 そう、貴族だけの交流ならそれほどまでに頭を悩ませる事はない。だけど、フィレン王子とリブロ王子が来るとなると話は別だ。料理に求められるグレードが高くなる。下手な料理を出すと王家に対して失礼なのだ。私とアラブミは頭を抱えていた。
「もう、少しは空気読んでよね、王子たちはっ!!」
 主役であるはずの私の叫び声が、伯爵邸の厨房に響き渡っていた。
「でも、やるからにはやってやるわよ。アラブミ、今ある食材を教えて!」
「はっ、アンマリアお嬢様」
 アラブミに教えてもらった食材を確認する私。すると、ある料理が思い当たったので、それを作ってみる事にした。
「うまくいったら材料を仕入れてちょうだい。魔道具の売上があるんですもの、惜しまなくていいわ」
「畏まりました、アンマリアお嬢様」
 さあ、王子たちを一泡吹かせてやろうじゃないの!

 というわけで迎えた私の誕生会。知り合いだけの小さな茶会の予定が、規模が大きいガーデンパーティーとなってしまった。これも全部王子たちのせいだ。
 私も関わった誕生会の料理が徐々に庭園に運ばれてくる。ちなみにこの場所は、私が普段手を入れている庭園よ。立食形式なので、運ばれてくる料理は基本的に切り分けの要らない一口サイズのものばかりだ。ただ、ケーキなどの甘い物だけではなく、どういうわけか肉や野菜といったおかず系のものも並んでいた。それこそパーティーといった料理の選定である。
「アンマリア様、お誕生日おめでとうございますわ」
「アンマリア様、おめでとうございます」
「アンマリア様、お誕生日おめでとう!」
 ラム、サキ、サクラが私の所にやって来て祝ってくれている。それが終わると、今度は男性陣も来て一様にお祝いの言葉を私に掛けていった。
「それにしてもお姉様」
「なにかしら、モモ」
「なんとなくですけれど、皆様の様子がおかしくありませんか?」
 まあ確かに、周りの使用人はおろか来客すらもどことなく落ち着きがない。王子たちが来るとなればそうなってしまうものなのだ。
 そう言えば、モモには伝えていませんでしたね。サプライズというものです。教えていたら今頃はきっと落ち着きがありませんでしたでしょうからね。意外と面食いなんですよ、モモは。
「しかし、お茶会の予定でしたのに、さながらパーティーですわね」
「まったくですよ。料理を用意し直す事になったこちらの身にもなって頂きたいですわ」
 ラムの言葉に、私は愚痴を漏らしていた。
「本当に大変ですね。日も差し迫っていたというのに、これだけの急な変更に対応できるとは、さすがはファッティ伯爵家ですね」
 サクラも私を慰めつつ、家の事を褒めてくれていた。
「うーん、私の時もこうなるのですかね?」
 サキは頭を悩ませていた。確かに、サキも王子たちの婚約者である以上、私と同じように王子たちが乱入する可能性がある。それこそテトリバー男爵の胃に穴が開きそう。
 だが、私たちの会話に、モモはひたすら首を傾げている。だって、王子たちが来る事はあえて伝えていませんもの。フィレン王子だけならいざ知らず、リブロ王子までとは誰が予想できただろうか。まあ、私とサキはどちらがどちらの王子と正式な婚約をするのかまだ決まっていませんものね。両方が来るのも納得がいくといったら納得がいく。
 私たちがそうやって話をしていると、何やら門の方が騒がしくなる。かすかに聞こえてくる声から判断するに、どうやら王子たちが到着したらしい。そりゃ騒がしくもなるわけだわ。
 しばらくすると、護衛の騎士たちが庭園へとやって来る。全員が入口の方に向き直る中、事情を知らないモモだけが慌てたように私たちを見回している。
「モモ、これから起きる事に、一切声は出さないでね」
「えっ、お姉様、それってどういう……?」
 モモが動揺する中、敬礼をする騎士たちの間を通って、庭園に今回のパーティーの主役以上の貴賓が現れる。フィレン王子とリブロ王子の登場である。そのサプライズに、モモは声ならぬ声を上げるのだった。
「モモ、ごめんなさいね。モモに話しちゃうと周りにも広がっちゃってお客が増えると思ったから、黙っていたの」
 口をパクパクさせていたモモだったが、私が謝罪するとすっと落ち着いてカーテシーをしていた。うん、教育の賜物ね。
 こうして、若干のトラブルがあったものの、殿下たちを迎えての私の10歳の誕生日パーティーが始まったのである。
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