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第四章 学園編・1年後半
第172話 商魂たくましく
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「それでは、私は妹のところに行ってきますね」
控室に戻った私は、試合から戻ってきたサクラにそう告げる。
「そうですね。今日はもう試合がありませんものね。うふふ、姉妹仲がよくて羨ましいですね」
「サクラ様、一人っ子じゃありませんか」
「ええ、だからです」
羨むサクラにそう返すと、それが理由だと返された。私はちょっと理解できない感じで首を捻っている。でも、そんな私を見たサクラは、
「さあさあ、早く行ってあげて下さいな。もしかしたら、向こうも同じ気持ちかも知れませんよ」
サクラがぐいぐいと強く背中を押してくるので、
「分かりましたわ。それではサクラ様、また明日お会い致しましょう」
私は挨拶だけして闘技場を後にしたのだった。
そうやってやって来たボンジール商会の出店ブース。そこには思わぬ黒山の人だかりができており、私は何事かと近付いていった。
「はい、押さないで下さい。ああ、落ち着いて下さいってば」
「いやはや、こんなに集まられるとは思ってみませんでしたよ」
モモとギーモが混乱していた。商会長自らやって来ているとは、相当の気の入れようである。
「大変そうですね、モモ、ギーモ商会長」
「あっ、お姉様」
私が声を掛けると、モモがいち早く反応する。
「どうでしたか、お姉様。剣術大会は」
「ええ、無事に1回戦突破ですよ。2回戦と3回戦は明日になりますわ」
「さすがです、お姉様。で、お相手はどんな方でしたか?」
私が答えると、モモは続けて対戦相手の事も聞いてきた。私はちょっとアーサリーの事を一応王族だから気遣おうかと思ったけれど、あそこは兄妹そろって失礼なので考えるのをやめた。
「私の初戦の相手はアーサリー殿下でしたわ。まるで相手になりませんでしたわよ」
「えええっ?!」
隣国のミール王国の王子であるアーサリーに勝ったと聞いて、モモがものすごく大きな声を上げている。
「うるさいですわよ、モモ」
「すみません、お姉様。ちょっと驚きすぎてしまいました」
私が窘めると、モモは素直に謝罪していた。それと同時に、周りでこっちを見ていた客たちも視線を外していた。あれだけ騒いでいれば、どうしても見てしまうわよね。
「正直、私はサクラ様と当たる事が楽しみなのですよ。ただ、トーナメント表を見ると、決勝までは当たらない位置に居ましてね……。負けられない理由ができました」
「お姉様、ファイト、です」
私の言葉に、むんと気合いを入れたポーズを取るモモ。その姿があまりにも可愛かったので、私はついモモの頭を撫でてしまっていた。これにはモモも、つい顔をほころばせてにやらと笑っていた。
「時に、今回のこの人だかりはどういうわけですかね」
私はギーモに質問する。
「それはこれのせいですね」
ギーモが指し示したのは、コンロ、ストーブ、懐炉だった。見事に熱源系の魔道具ばかりである。
「これから寒くなる時期ですから、暖める方法というのは誰しも頭を悩ませるものなんでよ。薪代もバカにはなりませんからね」
確かにその通りである。部屋には暖炉と薪が備えられてはいるものの、臭いだったり煙だったり置き場所だったり、いろいろと問題になる事が多いのだ。
ところが、屋外となるとその問題はさらに顕著だった。たくさん着込んだとしても、やはり寒いものは寒いのである。それゆえに、この携帯型暖房である懐炉には注目が集まったというわけである。
もちろん、この懐炉もここまで来るまでは試行錯誤があった。
火の魔法を扱うがゆえに、危険極まりない研究がなされたのである。
それで、どうやってこの開発がなされたのかというと、私には断られたので、妹のモモに泣きついたというわけである。モモは火属性魔法が得意なのだから、うってつけなのである。しかも、モモにとっては魔法の練習にもなる。互いのメリットがあってこそ、この懐炉の開発に着手できたのだった。
あとで聞いた話、最初の頃は発火したり熱くなりすぎたりして、調整がとても難しかったそうな。でも、私が教えていた事も思い出したのか、ちょっとずつ調整に成功して、程よい暖かさの懐炉が完成したという事らしい。なるほど、それでここひと月の間は、モモが私に絡んでこなかったのね。
この懐炉は魔力を通せば暖かくなり、暖かい間にもう一度魔力を作用させれば効果が切れるという仕組みになっている。
それにしても、これだけの注目度があるという事は、みんなそれだけ冬の間は寒い思いをしてきたという事なのだろう。さすがにストーブは学生に手の出せる値段じゃないけれど、懐炉くらいならばなんとかなるといった価格になっている。
「商売上手だわねえ」
「いえいえ、これもすべてアンマリア嬢のおかげでございますよ。私はそのヒントを元に頑張っただけで、それさえなければ思いつく事はありませんでしたから」
「それでも、思いついて作ってしまったのはすごいですわよ」
本当に、商人たちの情熱には頭が下がる思いである。
「お褒め頂き光栄でございます。ぜひ、これからも良き隣人でいられますよう、精一杯努めさせて頂きます」
ギーモはそう言って、私に頭を下げていた。
ちなみにこの間もボンジール商会の出店は大盛況を続けていたのだった。
控室に戻った私は、試合から戻ってきたサクラにそう告げる。
「そうですね。今日はもう試合がありませんものね。うふふ、姉妹仲がよくて羨ましいですね」
「サクラ様、一人っ子じゃありませんか」
「ええ、だからです」
羨むサクラにそう返すと、それが理由だと返された。私はちょっと理解できない感じで首を捻っている。でも、そんな私を見たサクラは、
「さあさあ、早く行ってあげて下さいな。もしかしたら、向こうも同じ気持ちかも知れませんよ」
サクラがぐいぐいと強く背中を押してくるので、
「分かりましたわ。それではサクラ様、また明日お会い致しましょう」
私は挨拶だけして闘技場を後にしたのだった。
そうやってやって来たボンジール商会の出店ブース。そこには思わぬ黒山の人だかりができており、私は何事かと近付いていった。
「はい、押さないで下さい。ああ、落ち着いて下さいってば」
「いやはや、こんなに集まられるとは思ってみませんでしたよ」
モモとギーモが混乱していた。商会長自らやって来ているとは、相当の気の入れようである。
「大変そうですね、モモ、ギーモ商会長」
「あっ、お姉様」
私が声を掛けると、モモがいち早く反応する。
「どうでしたか、お姉様。剣術大会は」
「ええ、無事に1回戦突破ですよ。2回戦と3回戦は明日になりますわ」
「さすがです、お姉様。で、お相手はどんな方でしたか?」
私が答えると、モモは続けて対戦相手の事も聞いてきた。私はちょっとアーサリーの事を一応王族だから気遣おうかと思ったけれど、あそこは兄妹そろって失礼なので考えるのをやめた。
「私の初戦の相手はアーサリー殿下でしたわ。まるで相手になりませんでしたわよ」
「えええっ?!」
隣国のミール王国の王子であるアーサリーに勝ったと聞いて、モモがものすごく大きな声を上げている。
「うるさいですわよ、モモ」
「すみません、お姉様。ちょっと驚きすぎてしまいました」
私が窘めると、モモは素直に謝罪していた。それと同時に、周りでこっちを見ていた客たちも視線を外していた。あれだけ騒いでいれば、どうしても見てしまうわよね。
「正直、私はサクラ様と当たる事が楽しみなのですよ。ただ、トーナメント表を見ると、決勝までは当たらない位置に居ましてね……。負けられない理由ができました」
「お姉様、ファイト、です」
私の言葉に、むんと気合いを入れたポーズを取るモモ。その姿があまりにも可愛かったので、私はついモモの頭を撫でてしまっていた。これにはモモも、つい顔をほころばせてにやらと笑っていた。
「時に、今回のこの人だかりはどういうわけですかね」
私はギーモに質問する。
「それはこれのせいですね」
ギーモが指し示したのは、コンロ、ストーブ、懐炉だった。見事に熱源系の魔道具ばかりである。
「これから寒くなる時期ですから、暖める方法というのは誰しも頭を悩ませるものなんでよ。薪代もバカにはなりませんからね」
確かにその通りである。部屋には暖炉と薪が備えられてはいるものの、臭いだったり煙だったり置き場所だったり、いろいろと問題になる事が多いのだ。
ところが、屋外となるとその問題はさらに顕著だった。たくさん着込んだとしても、やはり寒いものは寒いのである。それゆえに、この携帯型暖房である懐炉には注目が集まったというわけである。
もちろん、この懐炉もここまで来るまでは試行錯誤があった。
火の魔法を扱うがゆえに、危険極まりない研究がなされたのである。
それで、どうやってこの開発がなされたのかというと、私には断られたので、妹のモモに泣きついたというわけである。モモは火属性魔法が得意なのだから、うってつけなのである。しかも、モモにとっては魔法の練習にもなる。互いのメリットがあってこそ、この懐炉の開発に着手できたのだった。
あとで聞いた話、最初の頃は発火したり熱くなりすぎたりして、調整がとても難しかったそうな。でも、私が教えていた事も思い出したのか、ちょっとずつ調整に成功して、程よい暖かさの懐炉が完成したという事らしい。なるほど、それでここひと月の間は、モモが私に絡んでこなかったのね。
この懐炉は魔力を通せば暖かくなり、暖かい間にもう一度魔力を作用させれば効果が切れるという仕組みになっている。
それにしても、これだけの注目度があるという事は、みんなそれだけ冬の間は寒い思いをしてきたという事なのだろう。さすがにストーブは学生に手の出せる値段じゃないけれど、懐炉くらいならばなんとかなるといった価格になっている。
「商売上手だわねえ」
「いえいえ、これもすべてアンマリア嬢のおかげでございますよ。私はそのヒントを元に頑張っただけで、それさえなければ思いつく事はありませんでしたから」
「それでも、思いついて作ってしまったのはすごいですわよ」
本当に、商人たちの情熱には頭が下がる思いである。
「お褒め頂き光栄でございます。ぜひ、これからも良き隣人でいられますよう、精一杯努めさせて頂きます」
ギーモはそう言って、私に頭を下げていた。
ちなみにこの間もボンジール商会の出店は大盛況を続けていたのだった。
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