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第四章 学園編・1年後半
第182話 剣術大会も大詰め
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ショックのあまり、4日目はひたすら肉体労働に徹してみようとした私だったのだが、昨日の今日でうどんを要求される始末だった。昨日来ていなかった人たちが口コミで聞きつけたらしく、困り果てた私はやむなくうどんを振る舞う事になってしまったのだった。なんでこうなるのよ。
出店スペースの脇でひたすらうどんを捏ねて切って茹でる私。一人だったのは言うまでもない。だって、誰も作れないんですから。
「まったく、今日だけですからね……」
私の愚痴が、その場にこだましたのだった。
そして、迎えた学園祭5日目。この日は私はエスカとアーサリーと一緒に剣術大会の見物となった。リブロ王子も同席している。
「楽しみですね、今日で優勝者が決定するんですもの」
エスカがわくわくしまくりである。
午前中は準々決勝だ。フィレン王子、タン、サクラの誰もがここでは直接当たらない。だが、ここまで勝ち残ってきた面々なので、それにふさわしいだけの試合が見れると観客の多くがかなり興奮しているようだった。
フィレン王子の相手は、ヤクミー・アラジオーネ子爵令息だ。なんなのかしら、このふざけた名前は。薬味に粗塩とか、名前を考えた責任者出てきなさいよ、ぷんぷん。
そんな意味不明な私の怒りなんてさておき、試合の行われる結界の中ではフィレン王子とヤクミーが睨み合っている。さすがに三年生であるヤクミーは体がでかい。フィレン王子も大きいはずなのだが、それでも見上げているのだから相当だわ。
「いくらフィレン殿下相手とはいえ、剣術大会は我が家にとっては重要なもの。手加減致しませんので、ご理解を頂きたく存じます」
「構いませんよ。私とて、手加減されたとあっては納得できませんから」
170cmはあるフィレン王子を上から見下ろすヤクミーは威圧感が凄い。2mはある大男から見下ろされても動じないフィレン王子は度胸が据わっている。やはり、これくらいでないと王族というのは務まらないのだろう。
フィレン王子からの返答を聞いたヤクミーは、にやりと笑みを浮かべている。
「さすがはフィレン殿下。その度胸に俺としてはとても感動致します」
こめかみを押さえながら笑うヤクミーだったが、顔を隠した手からちらりと目を覗かせると、その目をギラリと光らせる。
「そうこなくては面白くありません。フィレン殿下、大変申し訳ございませんが、殿下にはここで敗退して頂きます」
「そう簡単に負けるつもりはないよ。逆に先輩が泣きを見なければいいですけどね」
不敵な笑みを浮かべるフィレン王子と大きく目を見開くヤクミー。両者が睨み合う中、ついに試合が始まった。
「始め!」
開始の合図と同時に、互いに距離を詰め合う。そして、ガキンと激しく剣をぶつけ合った。
(くっ、なんて重い剣なんだ)
ヤクミーの剣を受け止めたフィレン王子は、その威力に驚いた。一撃で手が痺れてしまいそうな、重い攻撃だったのである。
それでも、毎日とまではいかないが、頻繁に騎士団たちと剣を交えるフィレン王子にとって、対処できないような攻撃ではなかった。
「ぬおっ?!」
ヤクミーの体勢が崩れる。それというのも、フィレン王子が剣の角度を変えて滑らせるように動いたからだ。受け流しのような動作だった。
フィレン王子は城での鍛錬で、自分たちより大きな騎士をしょっちゅう相手にしている。だからこそ、こういういなしの様な動作は結構自然とできてしまうのである。
一方のヤクミーの方はというと、体格もあってか力技でねじ伏せるようなところがある。なので、こういった急な変化というものには対処ができないようなのだ。
「私の勝ちですね」
次の瞬間、勝負は決していた。余裕の表情で剣をヤクミーの首筋に当てるフィレン王子。ヤクミーはあまりの事にまだ頭がついて来ていないようである。
「……こんな負け、ありか……?」
まだ信じられないような顔で手をついているヤクミー。
「はっはっはっはっ、これは鍛え直しだな、ヤクミーよ!」
突如として大声が響き渡る。そこには口ひげが立派な、バッサーシ辺境伯にも負けない筋肉の貴族が立っていた。
「ペッパー辺境伯……様」
ペッパー辺境伯。サーロイン王国の御三家辺境伯の一つで北東部を守護する家である。なんでバッサーシ辺境伯もだけど、北側ってこうも筋肉なのかしらね。もしかしてまだ見た事のない南方のサングリエ辺境伯もそういう筋肉タイプなのかしら?
変な考えが頭の中をめぐる。
「さすがはフィレン殿下、お見事ですな。いずれ私とも一度剣を交えて頂きたいものですぞ」
ペッパー辺境伯は観客席から飛び降りてくる。
「ははは……、それはちょっと勘弁して頂きたいですね」
「そうか、それは残念ですな」
そう言いながら、2mはあるヤクミーを片手でひょいと担ぎ上げるペッパー辺境伯である。私は目の前の光景が信じられなくて固まってしまう。横ではエスカとアーサリーも固まっているので、私の反応は正しいようである。
「さて、ヤクミーはこれから鍛え直しですので、これにて失礼致しますぞ。うちの部下の子息を倒したのです。バッサーシに負けるような事はおやめ下さいよ? では!」
ペッパー辺境伯は言うだけ言い残して、ヤクミーを小脇に抱えたまま退場していったのだった。
あまりに唐突な事すぎて、審判も勝者宣言をするのを忘れて一緒に呆けていたのであった。
出店スペースの脇でひたすらうどんを捏ねて切って茹でる私。一人だったのは言うまでもない。だって、誰も作れないんですから。
「まったく、今日だけですからね……」
私の愚痴が、その場にこだましたのだった。
そして、迎えた学園祭5日目。この日は私はエスカとアーサリーと一緒に剣術大会の見物となった。リブロ王子も同席している。
「楽しみですね、今日で優勝者が決定するんですもの」
エスカがわくわくしまくりである。
午前中は準々決勝だ。フィレン王子、タン、サクラの誰もがここでは直接当たらない。だが、ここまで勝ち残ってきた面々なので、それにふさわしいだけの試合が見れると観客の多くがかなり興奮しているようだった。
フィレン王子の相手は、ヤクミー・アラジオーネ子爵令息だ。なんなのかしら、このふざけた名前は。薬味に粗塩とか、名前を考えた責任者出てきなさいよ、ぷんぷん。
そんな意味不明な私の怒りなんてさておき、試合の行われる結界の中ではフィレン王子とヤクミーが睨み合っている。さすがに三年生であるヤクミーは体がでかい。フィレン王子も大きいはずなのだが、それでも見上げているのだから相当だわ。
「いくらフィレン殿下相手とはいえ、剣術大会は我が家にとっては重要なもの。手加減致しませんので、ご理解を頂きたく存じます」
「構いませんよ。私とて、手加減されたとあっては納得できませんから」
170cmはあるフィレン王子を上から見下ろすヤクミーは威圧感が凄い。2mはある大男から見下ろされても動じないフィレン王子は度胸が据わっている。やはり、これくらいでないと王族というのは務まらないのだろう。
フィレン王子からの返答を聞いたヤクミーは、にやりと笑みを浮かべている。
「さすがはフィレン殿下。その度胸に俺としてはとても感動致します」
こめかみを押さえながら笑うヤクミーだったが、顔を隠した手からちらりと目を覗かせると、その目をギラリと光らせる。
「そうこなくては面白くありません。フィレン殿下、大変申し訳ございませんが、殿下にはここで敗退して頂きます」
「そう簡単に負けるつもりはないよ。逆に先輩が泣きを見なければいいですけどね」
不敵な笑みを浮かべるフィレン王子と大きく目を見開くヤクミー。両者が睨み合う中、ついに試合が始まった。
「始め!」
開始の合図と同時に、互いに距離を詰め合う。そして、ガキンと激しく剣をぶつけ合った。
(くっ、なんて重い剣なんだ)
ヤクミーの剣を受け止めたフィレン王子は、その威力に驚いた。一撃で手が痺れてしまいそうな、重い攻撃だったのである。
それでも、毎日とまではいかないが、頻繁に騎士団たちと剣を交えるフィレン王子にとって、対処できないような攻撃ではなかった。
「ぬおっ?!」
ヤクミーの体勢が崩れる。それというのも、フィレン王子が剣の角度を変えて滑らせるように動いたからだ。受け流しのような動作だった。
フィレン王子は城での鍛錬で、自分たちより大きな騎士をしょっちゅう相手にしている。だからこそ、こういういなしの様な動作は結構自然とできてしまうのである。
一方のヤクミーの方はというと、体格もあってか力技でねじ伏せるようなところがある。なので、こういった急な変化というものには対処ができないようなのだ。
「私の勝ちですね」
次の瞬間、勝負は決していた。余裕の表情で剣をヤクミーの首筋に当てるフィレン王子。ヤクミーはあまりの事にまだ頭がついて来ていないようである。
「……こんな負け、ありか……?」
まだ信じられないような顔で手をついているヤクミー。
「はっはっはっはっ、これは鍛え直しだな、ヤクミーよ!」
突如として大声が響き渡る。そこには口ひげが立派な、バッサーシ辺境伯にも負けない筋肉の貴族が立っていた。
「ペッパー辺境伯……様」
ペッパー辺境伯。サーロイン王国の御三家辺境伯の一つで北東部を守護する家である。なんでバッサーシ辺境伯もだけど、北側ってこうも筋肉なのかしらね。もしかしてまだ見た事のない南方のサングリエ辺境伯もそういう筋肉タイプなのかしら?
変な考えが頭の中をめぐる。
「さすがはフィレン殿下、お見事ですな。いずれ私とも一度剣を交えて頂きたいものですぞ」
ペッパー辺境伯は観客席から飛び降りてくる。
「ははは……、それはちょっと勘弁して頂きたいですね」
「そうか、それは残念ですな」
そう言いながら、2mはあるヤクミーを片手でひょいと担ぎ上げるペッパー辺境伯である。私は目の前の光景が信じられなくて固まってしまう。横ではエスカとアーサリーも固まっているので、私の反応は正しいようである。
「さて、ヤクミーはこれから鍛え直しですので、これにて失礼致しますぞ。うちの部下の子息を倒したのです。バッサーシに負けるような事はおやめ下さいよ? では!」
ペッパー辺境伯は言うだけ言い残して、ヤクミーを小脇に抱えたまま退場していったのだった。
あまりに唐突な事すぎて、審判も勝者宣言をするのを忘れて一緒に呆けていたのであった。
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