伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
230 / 500
第五章 2年目前半

第230話 サクラに誕生日プレゼント

しおりを挟む
 激しい戦いに決着がつき、ようやくパーティーの本番が始まった。
 貴族のパーティーなんていうのは基本的にどこも変わり映えはしない。けれど、娯楽が少ないこの世界だと、パーティーは精一杯楽しんでしまうものなのよね。ダンスくらいしか楽しみがないんだもの、仕方ないわね。
 こう思っている私も、適当にダンスを楽しんでいた。まあ、相手はモモとエスカなんだけどね。もちろん国王たちに挨拶をした後にだけど。
「はあ、娯楽増やしたいわね……」
 踊り終わった後のエスカはなんか言っていた。娯楽って何を作るつもりなのかしらね。気にはなるけれど、この場ではあえてツッコミは入れずに放っておいた。
 とりあえずフリーになった私は、ようやくサクラの居る場所へと向かった。
「サクラ様、お誕生日おめでとうございます」
 軽くお辞儀をしてサクラの誕生日を祝う私。
「ありがとうございます、アンマリア様。やっぱり、友人に祝って頂けますと、嬉しいものですね」
 さっきあんなに激しい戦いをしていたとは思えないくらいに爽やかに笑うサクラである。これがバッサーシ辺境伯の一族というものなのだわ。
「アンマリア・ファッティ。姪の誕生日を祝いに来てくれたのか、嬉しく思うぞ」
 そこへ、当然のように登場するミスミ教官である。なので、すかさずそちらにも挨拶をする私なのである。
「本日は、サクラ様のために、ちょっと面白いものを贈らせて頂こうかと思います。こちらをどうぞ」
 私は収納魔法から、エスカやモモと作り上げたトレント木材を使った腕輪を引っ張り出した。
「うわ~、細かい装飾がきれいですね……」
 サクラは驚いたように腕輪を眺めている。
「なんだこれは。材質は木材のようだが、不思議な力を感じる。何なんだ、この腕輪は」
 さすがミスミ教官、鋭いわね。
「これはトレント木材です。魔力を通すと好きな形に変形する変わった木材なんですよ。そのくらい魔力との親和性が高い素材なんです」
 私は淡々と説明している。
 だけども、それよりも実物を見てもらった方がいいだろうと、私はエスカに誕生日プレゼントとしてもらった棒切れを取り出した。
「よろしいですか、見ていて下さいね」
 私が棒切れに魔力を通すと、ただの木の棒がハリセンに変わった。
「なんだ、その珍妙な扇は」
「これはハリセンと申しまして、相手を叩くものでございます。ただ、殺傷能力はありませんし、音の割にケガの心配もほとんどない不思議なものなのですよ。ちなみに『張り倒すための扇子』の略でございます」
 ミスミ教官の質問に淡々と答える私。ちなみにこのハリセンの使い道はほとんどがエスカ相手である。だけど、エスカは隣国ミール王国の王女なので、下手するを国際問題になりかねないので一応内緒である。
「この腕輪も同じような仕組みです。サクラ様の魔力でもうまく発動させられるように調整はしてあります。左腕に身に着けて確認してみて下さいませ」
 私がこう言うと、サクラはその言葉通りに左手首に腕輪を装着したのだった。
「適当な防具の形を思い浮かべながら魔力を流してみて下さい。きっと形が変わってくれるはずです」
 ちょっと自信なさげに私は言ったのだけど、サクラは真面目な顔でこくりと頷くと、目を閉じて集中を始めた。
 サクラがここまで真剣な表情をするのは仕方がない。サクラは魔法が得意ではないのだ。そうはいっても身体能力を向上させる魔法は使えるので、まったく魔法が使えないわけではない。脳筋特化のバッサーシ辺境伯だからこそ、魔法が少々苦手というわけなのである。
 ところが、しばらくすると左手首に着けた腕輪に変化が現れる。
「あっ、すごい……」
 サクラからこんな言葉が漏れ出るくらいだった。
 なんと、腕輪が肘まで覆う籠手に変化したのである。
「ほう、これはすごいな。サクラ、ちょっと触ってみてもいいか?」
「は、はい。おば様、大丈夫です」
 一応サクラに確認をしてから籠手を調べ始めるミスミ教官。眺めてみたり、触ってみたり、拳で叩いてみたり、じっくりと籠手の状態を確認していた。
「ほう、これはずいぶんと強度がありそうだな。とても元々が木とは思えぬな」
 ミスミ教官から合格とも取れる発言が飛び出していた。
「ただ、木材である以上、火に対しての耐性はどうなのだろうな」
「それは何とも言えませんね。防げるようにというのであればサクラ様次第とも言えると思います。トレント木材は元々魔力との親和性が高いですから、魔力を乗せられれば、下手な金属にも劣らないと思います」
 大真面目に答える私である。
「ただ、これの作り方はかなり特殊なので、騎士団で使おうだなんて仰らないで下さいね。これを作ったのは私ではありませんしね」
「ほう……。では、一体誰だというのかな?」
 ミスミ教官がめちゃくちゃ食い気味である。あかん、ダメな人に目をつけられたわ。
 私はちらりとエスカの方を見る。
「ほう、エスカ・ミール王女か。こんな才能があるとはな。ミール王国、油断ならない相手だ」
 私の視線の先をしっかり読み取ってしまうミスミ教官だった。この人もやっぱりバッサーシの一族だわ。悪いわね、エスカ……。
 そんなこんなで、無事にサクラに誕生日プレゼントを渡した私だったのだけれど、厄介な人に目をつけられてしまった。
 ちなみにこの後だけど、籠手を腕輪に戻すのに四苦八苦するサクラの姿に、悪いけれど笑ってしまったわ。本当に魔法苦手なのね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...