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第五章 2年目前半
第238話 念には念を
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そして、いよいよ迎えたフィレン王子の14歳の誕生日パーティーの日。
私はエスカやモモ、それとサキを連れて一緒に会場入りをしていた。本来ならエスカは王族なのでフィレン王子たちと同時の入場のはずなのだが、ここは私とエスカのわがままによって貴族客と同時の入場となったのだった。さすがは王女、こういう要求も押し通せてしまうのである。
「一般用の入口には、結構な数の鑑定士が居ましたね」
「そりゃまあ、毒物だとか刃物だとか、身体チェックは必須ですもの」
「来客をチェックするのはいいですけれど、食材の方は調べたのですかね?」
「うん? ああ、そっちにもちゃんと鑑定できる人間を回していますよ。そこには抜かりはありません」
ホールに出た私たちは、対策についていろいろと話をしている。毒物とか物騒な単語が聞こえてきた、モモとサキはちょっと顔を青くしていた。
「ああっと、モモ、サキ様。そういえば二人には知らせていませんでしたね。今日はフィレン殿下の誕生日パーティーですので、警戒しているのですよ。なんでも隣国のベジタリウス王国内では物騒だとか聞きますので、そちらの王族も揃うこの場で何か起こすのではないかという予測を立てているんです」
「な、なるほど、そういうわけなのですね」
小声で行った私の説明に、サキは納得がいったようだった。
そう、物々しい警備にはちゃんと理由があったのである。
(まあ、今頃城の外に居る暗殺者たちは、城の中に入れなくてあたふたしてるでしょうね。とっととお縄に付きなさいな)
それと同時に、私はミズーナ王女と一緒に張った防壁に手こずっているだろう暗殺者たちの姿を思い浮かべて、つい笑ってしまうのだった。
「お姉様? 何がそんなにおかしいのです?」
「えっ。ちょ、ちょっと思い出し笑いをしていただけよ。気にしないで」
モモにツッコミを入れられて、笑っていた事に気が付いた私。慌ててモモに弁明をしておいた。まったく、油断できないわね。
「アンマリア様、私を同伴させた理由をお伺いしてよろしいでしょうか」
モモと受け答えをしたと思ったら、今度はサキから質問が飛んでくる。
確かに、そう思われても仕方がないだろう。通常は家族ごとに入ってくるのだから、一人だけぽつんと他家に紛れて入ってきたのは理由を聞きたくなるわよね。
「単純に万一に備えてですわ。これだけ警戒していても、するりと抜けてくる事はあります。あり一匹通さないなんていう事は不可能ですからね」
私の答えに、サキはごくりと息を飲んだ。
そう、私の言葉はこれから何かが起こるかも知れないという緊張感を生んでしまったのだ。
「ですから、サキ様」
「はい」
「先んじて行動します。怒ってからでは遅いですからね」
「はい!」
元気よく返事をしたサキは、私とエスカの手を握る。そう、これは先日の食堂で呪いを解除した時と同じ要領である。万一持ち込まれているかも知れない毒物への浄化魔法である。
王族の登場前とあって、会場内は歓談の真っ只中だ。食べ物や飲み物が運ばれてきているが、現状では誰かが倒れたというような事は起きていない。しかし、毒物となれば遅効性のものだってある。私とエスカはそれを警戒していたのだ。
サキが集中する。
私とエスカはサキに魔力を供給するだけだ。
「サキ様、毒物を無害なものに変えるイメージです。私たちでもイメージは魔力と共に送り込みますが、重要なのはサキ様ですからね」
「分かりました。頑張ります」
私やミズーナ王女もゲームではヒロインではあるものの、こういう大規模な浄化魔法に関しては聖女であるサキの専売特許なのだ。外敵の侵入を防ぐ防壁であれば、ヒロインである私たちだって使える。この2つの魔法こそが、ヒロインと聖女との明確な区別をつける魔法となっているのよ。
その専売特許たる浄化魔法を使い始めたサキは、じわじわとその体を光らせ始める。
しかし、それに気が付く者は誰も居ない。念のために光を隠す隠ぺい魔法を使っているからだ。さすがにこんな目立つところで聖女をお披露目する気はないもの。
だが、その隠ぺいをも貫く一瞬にきらめきが放たれると、さすがに会場が騒めいてしまった。しかし、その光が放たれたという事は、浄化魔法が発動したという事になる。今回の効果範囲は防壁の内側全体だけ。そこは私とエスカの二人でうまく調整しておいた。サキの魔力のコントロールも今回は完璧だった。
「これでひと安心ね」
「うまくいったと思います」
「うんうん、まったく問題ないわ」
ほっと胸を撫で下ろすサキに、よしよしと安心させる私とエスカである。
「一体今何をしたんだ?」
大臣である父親が私たちに尋ねてくる。
「念のための毒物の無毒化です。今回は三国の王子王女が初めて一堂に会するパーティーですから、ちょっとサキ様に頑張って頂きました」
「はい、頑張りました」
私の言葉を受けて、両手の拳を握って構えるサキである。可愛いわね。
「そうか。これでパーティーは安心できそうだね」
「そうですわね。アンマリアたちが優秀で誇らしい限りですわね、おほほほほ」
両親も鼻高々のようである。
そして、この浄化がちょうど行われたところで、突然音楽が鳴りやんだ。
いよいよ王族たちの登場のようである。
私はエスカやモモ、それとサキを連れて一緒に会場入りをしていた。本来ならエスカは王族なのでフィレン王子たちと同時の入場のはずなのだが、ここは私とエスカのわがままによって貴族客と同時の入場となったのだった。さすがは王女、こういう要求も押し通せてしまうのである。
「一般用の入口には、結構な数の鑑定士が居ましたね」
「そりゃまあ、毒物だとか刃物だとか、身体チェックは必須ですもの」
「来客をチェックするのはいいですけれど、食材の方は調べたのですかね?」
「うん? ああ、そっちにもちゃんと鑑定できる人間を回していますよ。そこには抜かりはありません」
ホールに出た私たちは、対策についていろいろと話をしている。毒物とか物騒な単語が聞こえてきた、モモとサキはちょっと顔を青くしていた。
「ああっと、モモ、サキ様。そういえば二人には知らせていませんでしたね。今日はフィレン殿下の誕生日パーティーですので、警戒しているのですよ。なんでも隣国のベジタリウス王国内では物騒だとか聞きますので、そちらの王族も揃うこの場で何か起こすのではないかという予測を立てているんです」
「な、なるほど、そういうわけなのですね」
小声で行った私の説明に、サキは納得がいったようだった。
そう、物々しい警備にはちゃんと理由があったのである。
(まあ、今頃城の外に居る暗殺者たちは、城の中に入れなくてあたふたしてるでしょうね。とっととお縄に付きなさいな)
それと同時に、私はミズーナ王女と一緒に張った防壁に手こずっているだろう暗殺者たちの姿を思い浮かべて、つい笑ってしまうのだった。
「お姉様? 何がそんなにおかしいのです?」
「えっ。ちょ、ちょっと思い出し笑いをしていただけよ。気にしないで」
モモにツッコミを入れられて、笑っていた事に気が付いた私。慌ててモモに弁明をしておいた。まったく、油断できないわね。
「アンマリア様、私を同伴させた理由をお伺いしてよろしいでしょうか」
モモと受け答えをしたと思ったら、今度はサキから質問が飛んでくる。
確かに、そう思われても仕方がないだろう。通常は家族ごとに入ってくるのだから、一人だけぽつんと他家に紛れて入ってきたのは理由を聞きたくなるわよね。
「単純に万一に備えてですわ。これだけ警戒していても、するりと抜けてくる事はあります。あり一匹通さないなんていう事は不可能ですからね」
私の答えに、サキはごくりと息を飲んだ。
そう、私の言葉はこれから何かが起こるかも知れないという緊張感を生んでしまったのだ。
「ですから、サキ様」
「はい」
「先んじて行動します。怒ってからでは遅いですからね」
「はい!」
元気よく返事をしたサキは、私とエスカの手を握る。そう、これは先日の食堂で呪いを解除した時と同じ要領である。万一持ち込まれているかも知れない毒物への浄化魔法である。
王族の登場前とあって、会場内は歓談の真っ只中だ。食べ物や飲み物が運ばれてきているが、現状では誰かが倒れたというような事は起きていない。しかし、毒物となれば遅効性のものだってある。私とエスカはそれを警戒していたのだ。
サキが集中する。
私とエスカはサキに魔力を供給するだけだ。
「サキ様、毒物を無害なものに変えるイメージです。私たちでもイメージは魔力と共に送り込みますが、重要なのはサキ様ですからね」
「分かりました。頑張ります」
私やミズーナ王女もゲームではヒロインではあるものの、こういう大規模な浄化魔法に関しては聖女であるサキの専売特許なのだ。外敵の侵入を防ぐ防壁であれば、ヒロインである私たちだって使える。この2つの魔法こそが、ヒロインと聖女との明確な区別をつける魔法となっているのよ。
その専売特許たる浄化魔法を使い始めたサキは、じわじわとその体を光らせ始める。
しかし、それに気が付く者は誰も居ない。念のために光を隠す隠ぺい魔法を使っているからだ。さすがにこんな目立つところで聖女をお披露目する気はないもの。
だが、その隠ぺいをも貫く一瞬にきらめきが放たれると、さすがに会場が騒めいてしまった。しかし、その光が放たれたという事は、浄化魔法が発動したという事になる。今回の効果範囲は防壁の内側全体だけ。そこは私とエスカの二人でうまく調整しておいた。サキの魔力のコントロールも今回は完璧だった。
「これでひと安心ね」
「うまくいったと思います」
「うんうん、まったく問題ないわ」
ほっと胸を撫で下ろすサキに、よしよしと安心させる私とエスカである。
「一体今何をしたんだ?」
大臣である父親が私たちに尋ねてくる。
「念のための毒物の無毒化です。今回は三国の王子王女が初めて一堂に会するパーティーですから、ちょっとサキ様に頑張って頂きました」
「はい、頑張りました」
私の言葉を受けて、両手の拳を握って構えるサキである。可愛いわね。
「そうか。これでパーティーは安心できそうだね」
「そうですわね。アンマリアたちが優秀で誇らしい限りですわね、おほほほほ」
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いよいよ王族たちの登場のようである。
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