245 / 500
第五章 2年目前半
第245話 メイン会場へ
しおりを挟む
特に問題もなく、建国祭のメインイベントが行われる港町クルスへと到着する。相変わらず街道には、国王一家をひと目見ようと多くの人たちが押しかけていた。
この様子を見る限りは、ミール王国においては国王たちの評判はとても良いようだった。慕われる国王というのはいいものよね。
無事にクルスに入り、この日の建国祭の最大の見せ場の準備に取り掛かる。
最大の見せ場というのは、クルスから少し外れた場所に砂浜があるのだが、そこで海の神に祈りと供物を捧げるというものだ。このために、クルスの街ではひと月前から準備を進めていたのである。
国王と王妃の到着で、その最後の仕上げが進められていった。
「はあ、今年も無事に見られるけれど、この場面は何度見ても感動するわ」
そんな風に語るのは、宿に到着して一緒の部屋を割り当てられた転生者組の一人、ミール王国王女のエスカだった。
エスカ・ミールは拡張版にのみ登場するキャラで、アーサリー攻略の際の最大の障害物となる人物である。唯一知るミズーナ王女の話では、エスカはこんな感じではなかったらしい。これが転生による影響なのである。
ただ、ゲームと目の前のエスカの共通点はあるにはあった。それは……。
「私はゲームのエスカ王女がどんな人物か知らないけれど、このエスカはおてんばでわがままだと思うわね」
「おてんばでわがままというのはゲームでも同じでしたね。でも、全体的に感じる人物像が、やはりゲームとは乖離しているんですよ」
ミズーナ王女の言い分はこうだった。なるほどな。
「本来のエスカ王女がどんな人物か興味がありますが、もうそろそろ準備しないといけないわ。建国祭のメインイベントまでもう少しですから」
エスカがこう言うと同時に、部屋の扉が叩かれる。
「王女殿下、間もなく出発の時間となります。準備はよろしいでしょうか」
エスカの侍女が呼びにやって来た。
「ええ、いつでもよろしいですわ」
エスカはその呼び掛けに答えると、私たちに対して視線を送ってきた。その時の表情は真剣だったので、私たちはただ頷く事しかできなかった。
陽が暮れ始め、辺りは段々と夕やみに染まり始める。
そんな暗くなりかけた中を、建国祭のメインのために歩いて移動する私たち。
クルスの街の宿泊場所から会場となる砂浜までは歩けば1時間くらいだった。その会場までの沿道には多くの見物客が集まっていて、迷う事なく私たちは会場へと向かっていた。
このメインとなるイベント。祈りは王妃が、供物は国王が捧げる事になっている。つまり、将来的にはアーサリーがこの行事を引き継ぐ可能性が大きいわけだ。それだというのにこの王子、去年は理由をつけて国に帰らなかったんだから困る。王子も王女もそれなりに問題のある人物なのである。ミール王国はこんなので大丈夫なのだろうか。
そんな私の気持ちなどまったく関係なく、私たちは建国祭のメインイベントの会場へと到達した。
そこには砂浜に祭壇が組み立てられており、その前にはちょっと広めの舞台が設置されていた。なるほど、これなら1か月ほど準備に取られてしまうの分かるというものだ。なにせ王族が使うのだから、万一があっちゃいけないわけだものね。これを担当した大工たちはさぞかし緊張した事でしょうね。
私たち国賓たちは、祭壇脇の特等席へと案内される。祭壇の右側がミール王国の重鎮たちとアーサリーとエスカ、反対側には私たちサーロイン王国の者とレッタス王子とミズーナ王女が座った。
辺りには魔石で作られた照明が取り付けられ、真っ暗な砂浜の中で、ここだけが煌々と明るく照らされていた。
これだけ明るいと魔物が現れる危険性があるのだが、これまでに魔物が現れた事は一度もないらしい。信じがたいが、本当にないらしい。
周りには警備にあたる兵士たちが多く配備されており、物々しさだけであれば相当なものだわね。
ちなみにこのメインイベントは一般客にも開放されているために、祭壇から陸側には相当の人が集まっていた。普通国家行事というのでここまで一般開放されているのはあまりないんじゃないのだろうか。そのくらいにこの建国祭というものは、ミール王国全体にとって特別視されているのだろう。
「アンマリア、ちょっといいかしら」
「何でしょうか、ミズーナ王女殿下」
隣同士に座るミズーナ王女が、私に声を掛けてきた。
「気が付いてる? 魔物の気配が近付いているわ」
「あっ、やっぱりなの?」
ミズーナ王女の告げてきた内容に、私は正直がっかりとした。なにせ、自分とまったく同じ事を感じていたからだ。
このままではそのうちにここは魔物の襲撃を受ける事になる。まったく、空気くらいは読んでもらいたいものだわ。
「王妃様、私、ちょっとお花摘みに行ってきますね」
「あらあら、これから始まるのにそれは仕方ないわね。早く戻ってきなさいよ」
サーロイン王妃に咎められながらも、私はミズーナ王女と一緒に席を外した。そして、ある程度離れた所で風魔法を使って空へと舞い上がると、改めて魔物の気配を探ったのだった。
この様子を見る限りは、ミール王国においては国王たちの評判はとても良いようだった。慕われる国王というのはいいものよね。
無事にクルスに入り、この日の建国祭の最大の見せ場の準備に取り掛かる。
最大の見せ場というのは、クルスから少し外れた場所に砂浜があるのだが、そこで海の神に祈りと供物を捧げるというものだ。このために、クルスの街ではひと月前から準備を進めていたのである。
国王と王妃の到着で、その最後の仕上げが進められていった。
「はあ、今年も無事に見られるけれど、この場面は何度見ても感動するわ」
そんな風に語るのは、宿に到着して一緒の部屋を割り当てられた転生者組の一人、ミール王国王女のエスカだった。
エスカ・ミールは拡張版にのみ登場するキャラで、アーサリー攻略の際の最大の障害物となる人物である。唯一知るミズーナ王女の話では、エスカはこんな感じではなかったらしい。これが転生による影響なのである。
ただ、ゲームと目の前のエスカの共通点はあるにはあった。それは……。
「私はゲームのエスカ王女がどんな人物か知らないけれど、このエスカはおてんばでわがままだと思うわね」
「おてんばでわがままというのはゲームでも同じでしたね。でも、全体的に感じる人物像が、やはりゲームとは乖離しているんですよ」
ミズーナ王女の言い分はこうだった。なるほどな。
「本来のエスカ王女がどんな人物か興味がありますが、もうそろそろ準備しないといけないわ。建国祭のメインイベントまでもう少しですから」
エスカがこう言うと同時に、部屋の扉が叩かれる。
「王女殿下、間もなく出発の時間となります。準備はよろしいでしょうか」
エスカの侍女が呼びにやって来た。
「ええ、いつでもよろしいですわ」
エスカはその呼び掛けに答えると、私たちに対して視線を送ってきた。その時の表情は真剣だったので、私たちはただ頷く事しかできなかった。
陽が暮れ始め、辺りは段々と夕やみに染まり始める。
そんな暗くなりかけた中を、建国祭のメインのために歩いて移動する私たち。
クルスの街の宿泊場所から会場となる砂浜までは歩けば1時間くらいだった。その会場までの沿道には多くの見物客が集まっていて、迷う事なく私たちは会場へと向かっていた。
このメインとなるイベント。祈りは王妃が、供物は国王が捧げる事になっている。つまり、将来的にはアーサリーがこの行事を引き継ぐ可能性が大きいわけだ。それだというのにこの王子、去年は理由をつけて国に帰らなかったんだから困る。王子も王女もそれなりに問題のある人物なのである。ミール王国はこんなので大丈夫なのだろうか。
そんな私の気持ちなどまったく関係なく、私たちは建国祭のメインイベントの会場へと到達した。
そこには砂浜に祭壇が組み立てられており、その前にはちょっと広めの舞台が設置されていた。なるほど、これなら1か月ほど準備に取られてしまうの分かるというものだ。なにせ王族が使うのだから、万一があっちゃいけないわけだものね。これを担当した大工たちはさぞかし緊張した事でしょうね。
私たち国賓たちは、祭壇脇の特等席へと案内される。祭壇の右側がミール王国の重鎮たちとアーサリーとエスカ、反対側には私たちサーロイン王国の者とレッタス王子とミズーナ王女が座った。
辺りには魔石で作られた照明が取り付けられ、真っ暗な砂浜の中で、ここだけが煌々と明るく照らされていた。
これだけ明るいと魔物が現れる危険性があるのだが、これまでに魔物が現れた事は一度もないらしい。信じがたいが、本当にないらしい。
周りには警備にあたる兵士たちが多く配備されており、物々しさだけであれば相当なものだわね。
ちなみにこのメインイベントは一般客にも開放されているために、祭壇から陸側には相当の人が集まっていた。普通国家行事というのでここまで一般開放されているのはあまりないんじゃないのだろうか。そのくらいにこの建国祭というものは、ミール王国全体にとって特別視されているのだろう。
「アンマリア、ちょっといいかしら」
「何でしょうか、ミズーナ王女殿下」
隣同士に座るミズーナ王女が、私に声を掛けてきた。
「気が付いてる? 魔物の気配が近付いているわ」
「あっ、やっぱりなの?」
ミズーナ王女の告げてきた内容に、私は正直がっかりとした。なにせ、自分とまったく同じ事を感じていたからだ。
このままではそのうちにここは魔物の襲撃を受ける事になる。まったく、空気くらいは読んでもらいたいものだわ。
「王妃様、私、ちょっとお花摘みに行ってきますね」
「あらあら、これから始まるのにそれは仕方ないわね。早く戻ってきなさいよ」
サーロイン王妃に咎められながらも、私はミズーナ王女と一緒に席を外した。そして、ある程度離れた所で風魔法を使って空へと舞い上がると、改めて魔物の気配を探ったのだった。
7
あなたにおすすめの小説
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。
八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。
彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。
しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。
――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。
その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……
妹と歩く、異世界探訪記
東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。
そんな兄妹を、数々の難題が襲う。
旅の中で増えていく仲間達。
戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。
天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。
「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」
妹が大好きで、超過保護な兄冬也。
「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」
どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく!
兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる