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第六章 2年目後半
第321話 エスカとは暴走するものである
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ようやく王都に戻って来た私たちは、久しぶりの王都のファッティ伯爵邸で腰を落ち着けている。
「ふぅ……。久しぶりに馬車に乗ると、かなりお尻が痛くなるわね」
私は馬車の揺れに耐えきれずにベッドに転がっていたのだ。伯爵家の馬車の座席はまだふかふかしているのだけど、それでもあれだけ揺れが続くとひとたまりもなかった。
「お姉様、大丈夫ですか?」
家に戻ってきてからというもの、まだ夕食まで時間があるとはいえずっと部屋に閉じこもっている私にを、モモが心配しているようだ。
私は答えようとして動こうとするけれど、同時に外から聞こえてきた声に動くのをやめてしまった。
「モモ、アンマリアは大丈夫だから。私に任せておいて」
そう、エスカの声だった。しかもなんだか自信たっぷりに言っている。その声を聞いて、思わず身構えてしまう。
「アンマリア、入るわね」
そう言って、答えも聞かずに扉を開けて入ってくるエスカ。
「ぶわっはっはっはっ、なんなのその姿!」
そして、私の姿をひと目見るなり大爆笑のエスカ。失礼にもほどがあるわね。
それにしても、ドレスのままでベッドの上で転がっているだけだというのに、どうしてここまで笑えるのかしらね。エスカの笑いのツボってどこにあるのか、いまいちよく分からないわね。
私は露骨に不機嫌な表情をして、どうにか体を起こして近くの机へと移動する。そして、ソファーに腰掛けてエスカを無言で招き寄せる。エスカを座らせると、私は眉をひそめてエスカを睨んだ。
「エスカ、笑い過ぎよ。まったく、あなたが王女じゃなかったらどうなってたか考えなさいよ」
「まったく、いきなりお小言とは穏やかじゃないわね……」
咎められているのにこののんきな態度。まったくエスカの神経の図太さは感心するわね。
「あなたはもう少し王族としての誇りを持ってちょうだい。アーサリー殿下と大差ないわよ」
私が一歩踏み込んで咎めると、エスカはむっと膨れていた。どうやらアーサリーと同列にされるのは嫌なようだ。こっちからしたら大差ないんだけど……。
「お兄様と一緒にしないでもらいたいわね。私の方が断然役に立っているもの」
「そういうのは、もう少し態度を改めてからにしてちょうだい。なんで隣国の一貴族の令嬢である私がお小言を言わなければならないのよ……」
エスカがどうしても認めそうにないので、正直頭が痛い。私はついつい頭を左右に振ってしまう。
「そんな事よりもアンマリア」
私の態度が頭に来たのか、エスカが突然怒鳴ってくる。
「なんかこう、効率のいいアロマの作り方を考えて欲しいわね。せっかく魔法がある世界なのに、圧搾で油を採るところからだなんて、しんどくて仕方ないんだけど」
私に人差し指を突きつけながら、エスカが凄い剣幕を向けてくる。その行為に驚きはしたものの、私はすぐに何かを思いついてエスカに言い返す。
「なるほど……。だったら魔道具でその圧搾をしてしまえばいいんじゃないかしら。技術的には可能よね?」
「まあ、物を押し潰す魔法だったら、私の闇魔法でもできなくはないけど?」
私が逆に強く出ると、エスカはぼそぼそと言いながら体を引いていた。そして、ドカッと勢いよくソファーに腰を下ろす。仮にも王女なんだから、もっと静かにお淑やかに座りなさいよね。
私は文句を言う代わりに何か飲もうとしたのだけれど、そういえばそこには何もなかったんだった。ため息を吐きながら、土魔法でコップの形を作って火魔法で焼き固める私。そして、収納魔法からファッティ領でお土産にもらったオランを魔法で搾っていた。本当に魔法って便利だわね。
それを見ていたエスカが、指を差しながら何かを言いたそうに口開けている。
「あ、あ、アンマリア。今どうやってオランを搾ったのよ」
「え?」
どうやらエスカが気になったのはそこのようだった。
「どうって、今回は風魔法で捻じるようにして搾っただけだけど?」
私が答えを返すと、エスカはふむふむといいながら考え込み始めてしまった。何なのかしら、この王女様は……。
「今のアンマリアの魔法を見ていたら、いろいろとアイディアが浮かんだわ」
エスカはそう言うと私にずいっと顔を近付けてくる。
「今すぐ紙とペンを寄こしなさい。アイディアを書きまとめるわよ!」
「ええ?!」
いきなりのエスカの発言に、私はひどく驚いてドン引きをする。しかし、疲れた体を引きずって自分の机から紙とペンを引っ張ってくると、それを無言でエスカに渡した。
「サンキュ~。さあ、アイディアが出てきたわよ。これでアロマの野望の実現に一歩近づくわ~」
エスカは舌を出しながら勢いよく紙に何かを書き込んでいく。どうやらさっきの私の魔法が、エスカに何らかのスイッチを入れさせてしまったようだった。こっわ……。
まったく、今年ももう残り1週間だというのに、エスカは一体何を思いついたのだろうか。ただ、その書き込むスピードが尋常じゃないので、私は気を遣って部屋からこっそりと出て行ったのだった。
そのエスカの書き進める手は、食事に呼ばれてもしばらく止まる事がなかったそうな。はてさて、何をやらかしてくれるのでしょうね。
「ふぅ……。久しぶりに馬車に乗ると、かなりお尻が痛くなるわね」
私は馬車の揺れに耐えきれずにベッドに転がっていたのだ。伯爵家の馬車の座席はまだふかふかしているのだけど、それでもあれだけ揺れが続くとひとたまりもなかった。
「お姉様、大丈夫ですか?」
家に戻ってきてからというもの、まだ夕食まで時間があるとはいえずっと部屋に閉じこもっている私にを、モモが心配しているようだ。
私は答えようとして動こうとするけれど、同時に外から聞こえてきた声に動くのをやめてしまった。
「モモ、アンマリアは大丈夫だから。私に任せておいて」
そう、エスカの声だった。しかもなんだか自信たっぷりに言っている。その声を聞いて、思わず身構えてしまう。
「アンマリア、入るわね」
そう言って、答えも聞かずに扉を開けて入ってくるエスカ。
「ぶわっはっはっはっ、なんなのその姿!」
そして、私の姿をひと目見るなり大爆笑のエスカ。失礼にもほどがあるわね。
それにしても、ドレスのままでベッドの上で転がっているだけだというのに、どうしてここまで笑えるのかしらね。エスカの笑いのツボってどこにあるのか、いまいちよく分からないわね。
私は露骨に不機嫌な表情をして、どうにか体を起こして近くの机へと移動する。そして、ソファーに腰掛けてエスカを無言で招き寄せる。エスカを座らせると、私は眉をひそめてエスカを睨んだ。
「エスカ、笑い過ぎよ。まったく、あなたが王女じゃなかったらどうなってたか考えなさいよ」
「まったく、いきなりお小言とは穏やかじゃないわね……」
咎められているのにこののんきな態度。まったくエスカの神経の図太さは感心するわね。
「あなたはもう少し王族としての誇りを持ってちょうだい。アーサリー殿下と大差ないわよ」
私が一歩踏み込んで咎めると、エスカはむっと膨れていた。どうやらアーサリーと同列にされるのは嫌なようだ。こっちからしたら大差ないんだけど……。
「お兄様と一緒にしないでもらいたいわね。私の方が断然役に立っているもの」
「そういうのは、もう少し態度を改めてからにしてちょうだい。なんで隣国の一貴族の令嬢である私がお小言を言わなければならないのよ……」
エスカがどうしても認めそうにないので、正直頭が痛い。私はついつい頭を左右に振ってしまう。
「そんな事よりもアンマリア」
私の態度が頭に来たのか、エスカが突然怒鳴ってくる。
「なんかこう、効率のいいアロマの作り方を考えて欲しいわね。せっかく魔法がある世界なのに、圧搾で油を採るところからだなんて、しんどくて仕方ないんだけど」
私に人差し指を突きつけながら、エスカが凄い剣幕を向けてくる。その行為に驚きはしたものの、私はすぐに何かを思いついてエスカに言い返す。
「なるほど……。だったら魔道具でその圧搾をしてしまえばいいんじゃないかしら。技術的には可能よね?」
「まあ、物を押し潰す魔法だったら、私の闇魔法でもできなくはないけど?」
私が逆に強く出ると、エスカはぼそぼそと言いながら体を引いていた。そして、ドカッと勢いよくソファーに腰を下ろす。仮にも王女なんだから、もっと静かにお淑やかに座りなさいよね。
私は文句を言う代わりに何か飲もうとしたのだけれど、そういえばそこには何もなかったんだった。ため息を吐きながら、土魔法でコップの形を作って火魔法で焼き固める私。そして、収納魔法からファッティ領でお土産にもらったオランを魔法で搾っていた。本当に魔法って便利だわね。
それを見ていたエスカが、指を差しながら何かを言いたそうに口開けている。
「あ、あ、アンマリア。今どうやってオランを搾ったのよ」
「え?」
どうやらエスカが気になったのはそこのようだった。
「どうって、今回は風魔法で捻じるようにして搾っただけだけど?」
私が答えを返すと、エスカはふむふむといいながら考え込み始めてしまった。何なのかしら、この王女様は……。
「今のアンマリアの魔法を見ていたら、いろいろとアイディアが浮かんだわ」
エスカはそう言うと私にずいっと顔を近付けてくる。
「今すぐ紙とペンを寄こしなさい。アイディアを書きまとめるわよ!」
「ええ?!」
いきなりのエスカの発言に、私はひどく驚いてドン引きをする。しかし、疲れた体を引きずって自分の机から紙とペンを引っ張ってくると、それを無言でエスカに渡した。
「サンキュ~。さあ、アイディアが出てきたわよ。これでアロマの野望の実現に一歩近づくわ~」
エスカは舌を出しながら勢いよく紙に何かを書き込んでいく。どうやらさっきの私の魔法が、エスカに何らかのスイッチを入れさせてしまったようだった。こっわ……。
まったく、今年ももう残り1週間だというのに、エスカは一体何を思いついたのだろうか。ただ、その書き込むスピードが尋常じゃないので、私は気を遣って部屋からこっそりと出て行ったのだった。
そのエスカの書き進める手は、食事に呼ばれてもしばらく止まる事がなかったそうな。はてさて、何をやらかしてくれるのでしょうね。
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