伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
326 / 500
第六章 2年目後半

第326話 エスカの圧力

しおりを挟む
 翌朝、目覚めはすっきりだった。
 エスカの言う通りに、アロマキャンドルは枕に近い場所で使ったのだけれど、火をつけるとほんのりと柑橘の香りが広がったのが印象深かった。
 正直なところ、効果については半信半疑どころか、毛ほどにも信じていなかった。それでも、今回の結果だけでもなんともよさげな感じだったのだ。
「どうだったかしら」
 朝食の後、エスカの部屋に集まった私とモモが質問を受けている。ちなみにテールとタミールは後で聞く予定らしい。
「なんていうのかしらね、今までの中ではすっきり眠れた方かしら」
「はい、よく眠れました」
「ふむふむ……」
 私とモモの答えを聞いて、メモを取り始めるエスカ。その後も寝付くまでの時間とか、目覚めた時の状態とかを聞かれた。
「そういう情報は必要なの?」
 私が疑問をぶつけると、さも当然という顔をしてくるエスカ。
「アロマをリラックスアイテムとして売り出すのなら、使用時の感触を事細かくチェックするのは当然でしょう? これでも営業経験あるんだから」
 しれっと飛び出るエスカの前世情報。どうやらエスカも社会人経験者だったようだ。どのくらいまで生きてたのかしらね。
 それはさておいて、エスカの質問には仕方なく全部答えておいた。
「ふむふむ、二人はいい感じだったのね。これなら量産化のめどをつけられればいい感じに売れそうだわ。他のアロマも作って確かめてみなきゃね」
 私たちから感想を貰ったエスカは、ものすごくご機嫌なようだった。
「それじゃ、テールとタミールにも話を聞いてみるわ。それじゃ、姉妹で仲良くしててちょうだい」
 エスカはそう言って部屋を出て行った。いや、ここエスカに割り当てられた部屋なんだけど?!
 部屋に残された私とモモは、お互いの顔を見合わせながら困惑している。部屋を勝手に出て行ってもいいのかも判断できず、仕方なく部屋の中で話をして過ごす事にした。

 しばらくすると、エスカが戻ってきた。部屋の中には私とモモが座っていたので、それに対してかなり驚いていたようだった。
「なんで二人が居るのよ」
 まさかまだ部屋に居座っているとは思っていなかったようだ。
「だって、部屋に戻ってもいいとも言われなかったもの。判断できなかったから、ずっと待ってたっていうわけ」
 私の言い訳に、エスカは額を押さえて首を振っていた。そんな反応するんだったら、言ってから行けばよかったのにね。
「仕方ないわね。言わなかった私が悪かったわ……」
 指摘を受けたエスカはやむなく受け入れていた。そして、私の真向かいに腰掛けて、じっと私を見てきた。
「一応テールとタミールにも聞いていたわ。二人も同じような答えが返ってきたわね。柑橘に囲まれた生活をしていたはずのタミールも同じような感想だったから、これはかなり効果があると言えるわね」
 エスカは肘をついて手を組みながら私たちに話している。
「これは、本格的に製造する価値がありそうだわ」
 エスカが気合いの入った顔をするので、私たちもつられて意気込んでしまう。
「ただ、問題は皮から油を搾り取る装置ね。手で搾るのは不可能だし、魔法もよろしくない。となると、搾油装置を作るしかないけど、頼んだ分はいつできるか分からないときたものよ」
 肘を解いたかと思うと、今度は椅子にもたれながら天井を見上げるエスカ。まったく忙しいわね。
「道具の専門家が居るから、図面は理解できるでしょうけれどね。搾るために圧力をかける部分が、どこまで理解できるかというのが問題ね。あと、その動力をどう確保するかもだけど」
 エスカは思った以上にしっかりと考えているようだった。私たちが口を挟む間もなく、次々と喋っていた。ドン引きするくらいに喋りまくっていた。
「年明けにはファッティ伯爵領を尋ねて、アンマリアのおば様とお話しませんとね。……って、あら?」
 ようやくエスカの話が止まる。
 それもそうだろう。私とモモが話について行けずに飽きてきていたのだ。ふと私たちに視線を向けてその状態に気が付いたので、エスカは喋るのをやめたというわけだった。
「もう、まったく二人揃って……」
 エスカが怒りだした。
「いい? アンマリアは王子の婚約者だからといっても、それが必ずしも領地にプラスに働くとは限らないの。領地にもそれなりに力を持たせないといけないのよ、分かる?」
 語気を強めて話すエスカ。
 その言わんとする意味はなんとなく分からなくはない。
 このままだとファッティ家は、王子の婚約者という威光だけでのし上がったとする連中が出てくるだろうというのがエスカの見解だ。
 そもそも父親が国の大臣を務めているというのに、それを無視して言い掛かりをつける危険性は確かにある。
 私はうーんと腕を組んで唸り始める。
「分かったでしょう? だからこそ、領地の影響力は強める必要があるのよ」
 人差し指を立てて顔を近付けてくるエスカ。
「分かった。分かったから、それ以上顔を近付けないでちょうだい」
 最終的にエスカの圧力に屈した私。エスカの提案に沿って、モモを巻き込みながらいろいろと策を練る事になったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...