伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
357 / 500
第七章 3年目前半

第357話 魔族と魔族

しおりを挟む
 スパーン!

 テトロの短剣と柑橘魔石がぶつかり合う。柑橘魔石は真っ二つとなり、辺りに強烈な柑橘の香りが充満する。
「むおっ! このにおいは……!」
 感情の昂っていたテトロは、鼻を押さえて仰け反る。ただ、完全にタイミングが遅れてしまう。
「ぐおおおっ、このままでは耐えられぬ。こんなもので死んでたまるか!」
 テトロはそのまま逃げようとするけれど、逃がしてなるものですか。
「ぐおっ!」
 その瞬間、テトロの体に何かが走ったようだ。急に動けなくなってその場に倒れ込んだ。
 何が起きたのか確認すると、フィレン王子とリブロ王子が二人掛かりで雷の魔法を使っていた。
「逃がすわけにはいかないよ。そのまま痺れていてもらおうか」
「く、くそう! 俺はこのままでは終わらぬぞ。あの方のために、一人でも多く人間を殺してやる!」
 倒れたイスンセの体から、どす黒いオーラが立ち上る。それと同時に会場内で暴れる他の侵入者たちからもどす黒いオーラが立ち上り、侵入者たちは気を失って倒れていく。
「な、なんだ? 一体何が起きたんだ」
「あれを!」
 サクラが指差す先に、どす黒いオーラが集まっていく。
 ひとところに集まったどす黒いオーラが何かの形を作っていく。
「いけない!」
 叫んだメチルがアルーに声を掛ける。
 そして、メチルを抱えてアルーは一気に私のところへと飛んできた。体格差があるのに力ありすぎでしょ。
 そうやって私のところまでやって来たメチルは、私とサキに声を掛ける。
「アンマリア、そっちの聖女、私と一緒にすぐ結界を」
「一体何を……」
「いいから早く。あの黒いもやを覆わないと、大惨事になるわ!」
 メチルがものすごい剣幕で言うものだから、私とサキはこくりと頷いた。
 そして、私とサキはメチルと一緒に黒いもやを包み込むように防護魔法を展開する。
 その瞬間だった。
 防護魔法の中で黒いもやが弾け飛んだ。
 しかし、私たち三人で必死に張った防護魔法のおかげで、被害は外部に及ばなかったものの、代わりに防護魔法は粉々に砕け散ってしまった。
「けっ、裏切者のくせにやってくれるじゃねえか」
 黒いもやがしっかりと形を取り始める。
「うるさいわね。どうせ殺される運命にあるっていうのなら、抗いたくなるってものでしょう。違うの?」
 メチルが険しい表情で声を荒げている。その目の前で、黒いもやがしっかりとした人型となった。
「久しぶりね、テトロ」
「久しぶりだなぁ、メチル。そして、死ね!」
 テトロがメチルに襲い掛かってくる。だけど、そこへ私が割って入る。
「これでも食らいなさい」
「むぉっ、それは……」
 鼻を押さえた影響で、メチルへの攻撃を空振りするテトロ。
「女ぁ、お前か!」
 テトロの形相が凄まじい事になっている。
「メチル、なんでお前は平気なんだ」
 その形相のままメチルへと顔を向けるテトロ。
「あなたに素直に答えてると思っているの? 死ぬのはあなたの方よ。だから、答えないわ」
「くそっ、このでき損ないの裏切者が!」
 さらに表情を険しくしたテトロが、メチルへと襲い掛かってくる。
「ディヴァインサークル!」
「ホーリーレイン!」
 次の瞬間、テトロを捕らえるように光の魔法が放たれる。ミズーナ王女とフィレン王子による連携だった。そういえば、ミズーナ王女も8属性すべてに適性があったんだったわね。
「くそっ、こんな魔法ごとき!」
 だが、テトロは必死に抗う。
「ホーリーサークル!」
「レイ!」
 逃がすものかと、私とサキも魔法を放つ。
 さすが聖女たるサキ。魔法としてはミズーナ王女の下位の魔法なのに威力は逆に上だった。テトロは苦悶の声を上げながら、その場に縛り付けられている。
「くそっ、なぜ光魔法の使い手がこんなに居るのだ。この俺がここまで封じられるなど、ありえない。くそっ、このにおいさえなければ、この程度の拘束などっ!!」
 床へと縛り付けられたテトロが必死に抵抗するが、もはやどうにもできない状況だった。
「ええい、呪具よ。ここに居る連中を狂わせろ!」
 かすかに動く手に魔力を込めて抵抗を見せるテトロ。だが、それも非情に打ち据えられる。
「ジャッジメントエッジ」
「がはっ!」
 魔法を振るおうとした手に、冷たい声で魔法が放たれる。
「てめえ、メチル。なんでお前が光の魔法を使えるんだ」
「私は聖女まがいですからね。光魔法はお手の物なんですよ」
 実に冷め切った視線を投げつけるメチル。
「私の平穏と、この世界の平和のために、おとなしく討たれなさい。魔族たちの思い通りにはさせませんよ、テトロ」
 メチルはテトロへと近付く。
「ふふっ、ここが何だか分かるかしら」
「てめえ……、この俺を完全に滅する気か」
「そうよ。私が失敗していれば、あなたが私のそこを貫いて殺すんですからね。まったく、人を殺すっていうのにこんなに落ち着いているなんて、私もやっぱり魔族なんですね」
 そう言いながら、メチルはテトロの急所に向けて指を突き出す。
「おい、やめろ。俺を殺すとお前がどうなるか分かっているのか?」
「殺しても殺さなくても、結果は変わらないでしょうに。下手くそな命乞いですね」
 次の瞬間、メチルはアルーに命じて魔法を放ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...