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第七章 3年目前半
第359話 襲撃の翌朝
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パーティーが終わり、参加した貴族たちは城でそのまま一夜を過ごす事となった。これだけの大人数が居ながらも、全員泊まれるだけのキャパシティがあるあたりがさすが王都の城というものね。
もちろん、一人一人に部屋が与えられたわけではなく、何人かはまとまって泊まる事になったけれどね。こればかりは仕方ないかな。
翌朝、ぞろぞろと貴族たちが家路につく中、私たちは国王たちに呼び出しを受けていた。攻略対象やライバル令嬢たちも全員である。なにせ、あの中で侵入者である諜報部隊と戦っていたのだから、国王としても労いたいのでしょうね。
よりにもよって、私たちが集められたのは国王たちが食事を取る食堂だった。
「いやはや、皆の者。昨夜の働き、実に見事であった。改めて礼を申す」
国王が礼を述べるところから朝食が始まる。
それにしても、国王の朝食の席がこんな大人数になるという事があっただろうか。多分、そうそうないと思われる。
「あの、私までここに居ていいんですか?」
おどおどとしながら尋ねているのは、昨夜の事件の主犯であったテトロと同じ魔族であるメチルである。テトロにとどめを刺して事件を解決した立役者なので、この場に呼ばれているというわけなのだった。
「私の侍女だからといっても遠慮しなくてもいいのですよ。私たちがよいと言っているのですから、一緒に食事をしてもよいのです」
「うっ、うう……」
ベジタリウス王妃に言われてしまえば、もう逃げられないメチルである。そのまま座ってじっと固まっていた。
「そうですよ。今回の事件はあなたの言葉があったからこそ、被害は窓ガラスだけで済んだのですからね」
「は、はい……」
フィレン王子にまでそう言われてしまえば、完全に黙り込むしかないメチルだった。
大所帯になった朝食の席だが、話題の中心は昨夜捕まったベジタリウスの諜報部隊の話だった。
それによれば、クガリを除いたほぼ全員に、少なくとも今年に入ってからの記憶が存在していないようだった。
中でも特に酷いのは主犯格であるイスンセだった。彼に至っては3年分くらいの記憶がまったく存在していなかったのである。つまり、そのくらいからずっと体をテトロに乗っ取られていたという事になるのだ。
「3年前ですか……。その頃は、私も聖女まがいとしてベジタリウス王国での活動を始めるように言われた頃ですね」
「言われた?」
メチルがぼそりと漏らすと、何人かが反応している。
「はい。私たちに命令を下したのは、魔王の代わりとして指揮を執る、魔王四天王の頂点である魔族サンカリーです」
「サンカリー……。そいつが私たちの敵というわけか」
フィレン王子は険しい顔をして考え込んだ。
「これでテトロを倒しましたし、私はこちら側につきましたから、残る四天王はそのサンカリーとテリアの二人だけです。とはいえ、二人もかなりの実力の持ち主ですから、正面切って戦って勝てる相手ではありません」
メチルはさらに状況の説明を加えていく。
「一応、柑橘の香りが私たち魔族の弱点だと分かりましたが、あの二人や魔王にも同じように通じるとは限りませんからね。特にサンカリーは知れば必ず対策を講じてくるはずです」
ここまで言うと、メチルはすっかり黙り込んでしまった。朝食を食べる手も同じように止まってしまっているようである。そのくらいには、サンカリーという魔族は特に厳しいのだろう。
「平気ですよ。ご主人様には魔族としての知識以外にもたくさん武器がありますからね」
「ちょっと、アルー?」
急に姿を現したアルーに、メチルがとても驚いている。
だけど、驚いているのは何もメチルだけではなかった。アルーの姿を初めて見る国王たちもまた驚いて目を丸くしていた。
「初めまして、私はメチル様の使い魔である精霊アルーと申します」
「そ、それはどうも丁寧な自己紹介だな」
そう反応するのが精一杯の国王である。
「ご主人様、これは絶好の機会なのですよ。これだけの協力者がいれば、ご主人様の死の運命からきっと逃れられると思うのです。思いきり取り込みましょう」
アルーがメチルにそう持ちかけているものの、すべて丸聞こえである。利用しようという言葉が聞こえたので、私たちは呆れて食事の手を止めてしまうくらいだった。
「まったく、アルーというのは面白い子ですね」
「お、王妃?」
ベジタリウス王妃の笑い声に反応するアルー。振り返った先で見たのは、全員の困ったり失笑したりしている顔だった。それを見て、自分の言葉が全部聞かれていた事に気が付いたのだ。
「ひいいっ! ちゃんと役に立つので、見逃して下さい。私はただ、ご主人様に生きていてもらいたいだけなんですから」
必死に言い訳をするアルー。しかし、それはみんな分かっているので誰も責めようとはしていなかった。
こうして、魔王四天王の一人を倒し、ベジタリウス王国の諜報部隊を退けた事で、しばしの平和がサーロイン王国に訪れたのだった。
残る脅威は魔王と四天王のサンカリーとテリア。来る戦いに向けて、私たちの気はまだ緩められないのだった。
もちろん、一人一人に部屋が与えられたわけではなく、何人かはまとまって泊まる事になったけれどね。こればかりは仕方ないかな。
翌朝、ぞろぞろと貴族たちが家路につく中、私たちは国王たちに呼び出しを受けていた。攻略対象やライバル令嬢たちも全員である。なにせ、あの中で侵入者である諜報部隊と戦っていたのだから、国王としても労いたいのでしょうね。
よりにもよって、私たちが集められたのは国王たちが食事を取る食堂だった。
「いやはや、皆の者。昨夜の働き、実に見事であった。改めて礼を申す」
国王が礼を述べるところから朝食が始まる。
それにしても、国王の朝食の席がこんな大人数になるという事があっただろうか。多分、そうそうないと思われる。
「あの、私までここに居ていいんですか?」
おどおどとしながら尋ねているのは、昨夜の事件の主犯であったテトロと同じ魔族であるメチルである。テトロにとどめを刺して事件を解決した立役者なので、この場に呼ばれているというわけなのだった。
「私の侍女だからといっても遠慮しなくてもいいのですよ。私たちがよいと言っているのですから、一緒に食事をしてもよいのです」
「うっ、うう……」
ベジタリウス王妃に言われてしまえば、もう逃げられないメチルである。そのまま座ってじっと固まっていた。
「そうですよ。今回の事件はあなたの言葉があったからこそ、被害は窓ガラスだけで済んだのですからね」
「は、はい……」
フィレン王子にまでそう言われてしまえば、完全に黙り込むしかないメチルだった。
大所帯になった朝食の席だが、話題の中心は昨夜捕まったベジタリウスの諜報部隊の話だった。
それによれば、クガリを除いたほぼ全員に、少なくとも今年に入ってからの記憶が存在していないようだった。
中でも特に酷いのは主犯格であるイスンセだった。彼に至っては3年分くらいの記憶がまったく存在していなかったのである。つまり、そのくらいからずっと体をテトロに乗っ取られていたという事になるのだ。
「3年前ですか……。その頃は、私も聖女まがいとしてベジタリウス王国での活動を始めるように言われた頃ですね」
「言われた?」
メチルがぼそりと漏らすと、何人かが反応している。
「はい。私たちに命令を下したのは、魔王の代わりとして指揮を執る、魔王四天王の頂点である魔族サンカリーです」
「サンカリー……。そいつが私たちの敵というわけか」
フィレン王子は険しい顔をして考え込んだ。
「これでテトロを倒しましたし、私はこちら側につきましたから、残る四天王はそのサンカリーとテリアの二人だけです。とはいえ、二人もかなりの実力の持ち主ですから、正面切って戦って勝てる相手ではありません」
メチルはさらに状況の説明を加えていく。
「一応、柑橘の香りが私たち魔族の弱点だと分かりましたが、あの二人や魔王にも同じように通じるとは限りませんからね。特にサンカリーは知れば必ず対策を講じてくるはずです」
ここまで言うと、メチルはすっかり黙り込んでしまった。朝食を食べる手も同じように止まってしまっているようである。そのくらいには、サンカリーという魔族は特に厳しいのだろう。
「平気ですよ。ご主人様には魔族としての知識以外にもたくさん武器がありますからね」
「ちょっと、アルー?」
急に姿を現したアルーに、メチルがとても驚いている。
だけど、驚いているのは何もメチルだけではなかった。アルーの姿を初めて見る国王たちもまた驚いて目を丸くしていた。
「初めまして、私はメチル様の使い魔である精霊アルーと申します」
「そ、それはどうも丁寧な自己紹介だな」
そう反応するのが精一杯の国王である。
「ご主人様、これは絶好の機会なのですよ。これだけの協力者がいれば、ご主人様の死の運命からきっと逃れられると思うのです。思いきり取り込みましょう」
アルーがメチルにそう持ちかけているものの、すべて丸聞こえである。利用しようという言葉が聞こえたので、私たちは呆れて食事の手を止めてしまうくらいだった。
「まったく、アルーというのは面白い子ですね」
「お、王妃?」
ベジタリウス王妃の笑い声に反応するアルー。振り返った先で見たのは、全員の困ったり失笑したりしている顔だった。それを見て、自分の言葉が全部聞かれていた事に気が付いたのだ。
「ひいいっ! ちゃんと役に立つので、見逃して下さい。私はただ、ご主人様に生きていてもらいたいだけなんですから」
必死に言い訳をするアルー。しかし、それはみんな分かっているので誰も責めようとはしていなかった。
こうして、魔王四天王の一人を倒し、ベジタリウス王国の諜報部隊を退けた事で、しばしの平和がサーロイン王国に訪れたのだった。
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