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第七章 3年目前半
第363話 パワーアップ
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「で、私たち全員が呼ばれたわけか」
城の牢を前に、ミズーナ王女に呼ばれた私とサキが居る。今回はエスカは役に立たないということで、ただの立会人である。
「闇と水じゃ、呪いに対抗できないものね。仕方ないわ」
エスカは納得しているようだった。
呪いは基本的に闇属性であるがために、エスカの魔力では呪いが活性化しかねないのだ。
今回私たちがこうやってミズーナ王女の呼び掛けに応じたのは、友人だからというだけではない。捕まっている諜報部の人間たちは、魔族の被害者なのだ。だったら助けるしかないでしょというわけである。
イスンセをはじめとした諜報部隊たちは、かなり衰弱している。長時間にわたって呪具の呪いにさらされていた効果が出始めているのだ。
大部分はテトロが実体化した時に奪ってくれたようだけれど、それでも呪具の力は強大。寒気に顔面蒼白という、この世界の夏場ではまず見る事のない状態に陥っていたのだ。
鑑定魔法で状態を調べてみたけれど、結果は大体さっき述べた通り。ただ、かなり状態は悪いので、急いで解呪する必要がありそうだった。
こういう時こそメチルでも居てくれれば、だいぶ楽だったろうなと思う。彼女は魔族というだけあって魔力量が私たちよりもかなり多かったもの。しかも治癒系が得意ときてる。
だけど、そんな彼女はベジタリウス王妃の専属メイド。王妃が戻るといえば、一緒に戻らざるを得なかったのだ。
「はあ……。とりあえず、私たちだけで頑張りましょう」
「そうですね」
「はい、頑張ります」
改めて私たちはイスンセたちを見る。横では一人自由でいるクガリが心配そうに見ている。
本来ならば対象を取り囲むようにして魔法を使うのがいいのだけど、なんといっても場所が牢屋の中なので、鉄格子のために取り囲む事が不可能だった。仕方なく私たちは鉄格子を前に扇状に陣取って魔法を使うことにした。
私たちが解呪のための魔法を使おうとすると、右手の甲に刻まれた女神の印も光り出す。それは見ているだけのはずのエスカの手でも起きていた。
私たちの魔力が牢屋の中に広がっていくと、それまで漂っていた辛気臭い空気が洗われていっている。
「おお、これは……」
付き添っている兵士たちが驚いて、辺りをきょろきょろと見回している。そのくらいに、牢屋の空気は一変してしまっていた。
これが私たち光属性に長けた者だけが使える浄化の魔法。聖女であるサキはもちろん、ゲームのヒロインたる私やミズーナ王女も当然ながら使いこなせる高等魔法なのだ。
この魔法も既に何回か使っている。ダイエットドーピング事件に、夏合宿でのテールの暴走、ロートント男爵の暴走とかなり回数を重ねている。ここまでくれば慣れたものというわけなのよ。
魔法がほぼ完成したところで、私はエスカに声を掛ける。
「エスカ王女殿下、柑橘魔石を中へ投げ入れて下さい」
「えっ? わ、分かったわ」
収納魔法からアロマを作った時の副産物である柑橘魔石を取り出したエスカ。それを呪いのど真ん中へと投げ入れた。
するとどうだろうか。イスンセたちの体の中に残っていた呪いの黒いもやが、体から追い出されるように浮かび上がってきた。
「うはっ……。テトロにあれだけ吸われたっていうのに、まだこんなに残ってたわけ……?」
その様子を見ていたエスカが思わず顔をしかめるくらいだった。そのくらいに黒いもやの量はおびただしいものだったのだ。
「魔族の弱点の柑橘の香りで弱体化しているはず。ミズーナ王女殿下、サキ様、一気に浄化してしまいましょう」
「分かりました」
私が呼びかけると、二人からは力強い返事があった。
女神の刻印に魔力を集中させ、増幅させながら浄化の魔法を使う私たち。大して説明も聞いていないのに、どういうわけか揃って使い方がよく分かっている。
もやに対して浄化の魔法を使うと、イスンセたちの上方で浄化の魔法に追いやられるかのように集まっていく。
黒いもやはまるで激しく抵抗するかのように、もぞもぞと動いている。しかし、柑橘の香りと増幅した私たちの浄化の魔法の前になす術はなかった。
浄化の魔法に少しずつ押し込まれていき、段々と小さくなっていく黒いもや。最終的には、浄化の魔法の光に押しつぶされるようにして、パンッと弾けて消えてしまっていた。
「な、何が起きたんだ……?」
一部始終を見ていたはずのクガリがまったく理解できていない。そのくらいに目の前で起きた事が信じられなかったのだ。
「ふぅ、やはりだいぶ以前に比べれば浄化が楽ですね。テトロがほとんど呪いを吸い取って自分の力に変えていただけに、ずいぶんと楽でした」
「はい、テール様の時くらいの覚悟はしたのですけれどね」
「とりあえず、これでイスンセたちもじきに目を覚ますでしょう」
私たちが安心したように話している姿を見て、クガリもまたその場に座り込んでしまうくらいに安心したようだった。
それにしても、柑橘魔石と女神の刻印の力、恐るべしといった感じだわね。
諜報部隊の呪いを解除し終えた私たちは、念のためそのまま城の中でゆっくりと休んだのだった。
城の牢を前に、ミズーナ王女に呼ばれた私とサキが居る。今回はエスカは役に立たないということで、ただの立会人である。
「闇と水じゃ、呪いに対抗できないものね。仕方ないわ」
エスカは納得しているようだった。
呪いは基本的に闇属性であるがために、エスカの魔力では呪いが活性化しかねないのだ。
今回私たちがこうやってミズーナ王女の呼び掛けに応じたのは、友人だからというだけではない。捕まっている諜報部の人間たちは、魔族の被害者なのだ。だったら助けるしかないでしょというわけである。
イスンセをはじめとした諜報部隊たちは、かなり衰弱している。長時間にわたって呪具の呪いにさらされていた効果が出始めているのだ。
大部分はテトロが実体化した時に奪ってくれたようだけれど、それでも呪具の力は強大。寒気に顔面蒼白という、この世界の夏場ではまず見る事のない状態に陥っていたのだ。
鑑定魔法で状態を調べてみたけれど、結果は大体さっき述べた通り。ただ、かなり状態は悪いので、急いで解呪する必要がありそうだった。
こういう時こそメチルでも居てくれれば、だいぶ楽だったろうなと思う。彼女は魔族というだけあって魔力量が私たちよりもかなり多かったもの。しかも治癒系が得意ときてる。
だけど、そんな彼女はベジタリウス王妃の専属メイド。王妃が戻るといえば、一緒に戻らざるを得なかったのだ。
「はあ……。とりあえず、私たちだけで頑張りましょう」
「そうですね」
「はい、頑張ります」
改めて私たちはイスンセたちを見る。横では一人自由でいるクガリが心配そうに見ている。
本来ならば対象を取り囲むようにして魔法を使うのがいいのだけど、なんといっても場所が牢屋の中なので、鉄格子のために取り囲む事が不可能だった。仕方なく私たちは鉄格子を前に扇状に陣取って魔法を使うことにした。
私たちが解呪のための魔法を使おうとすると、右手の甲に刻まれた女神の印も光り出す。それは見ているだけのはずのエスカの手でも起きていた。
私たちの魔力が牢屋の中に広がっていくと、それまで漂っていた辛気臭い空気が洗われていっている。
「おお、これは……」
付き添っている兵士たちが驚いて、辺りをきょろきょろと見回している。そのくらいに、牢屋の空気は一変してしまっていた。
これが私たち光属性に長けた者だけが使える浄化の魔法。聖女であるサキはもちろん、ゲームのヒロインたる私やミズーナ王女も当然ながら使いこなせる高等魔法なのだ。
この魔法も既に何回か使っている。ダイエットドーピング事件に、夏合宿でのテールの暴走、ロートント男爵の暴走とかなり回数を重ねている。ここまでくれば慣れたものというわけなのよ。
魔法がほぼ完成したところで、私はエスカに声を掛ける。
「エスカ王女殿下、柑橘魔石を中へ投げ入れて下さい」
「えっ? わ、分かったわ」
収納魔法からアロマを作った時の副産物である柑橘魔石を取り出したエスカ。それを呪いのど真ん中へと投げ入れた。
するとどうだろうか。イスンセたちの体の中に残っていた呪いの黒いもやが、体から追い出されるように浮かび上がってきた。
「うはっ……。テトロにあれだけ吸われたっていうのに、まだこんなに残ってたわけ……?」
その様子を見ていたエスカが思わず顔をしかめるくらいだった。そのくらいに黒いもやの量はおびただしいものだったのだ。
「魔族の弱点の柑橘の香りで弱体化しているはず。ミズーナ王女殿下、サキ様、一気に浄化してしまいましょう」
「分かりました」
私が呼びかけると、二人からは力強い返事があった。
女神の刻印に魔力を集中させ、増幅させながら浄化の魔法を使う私たち。大して説明も聞いていないのに、どういうわけか揃って使い方がよく分かっている。
もやに対して浄化の魔法を使うと、イスンセたちの上方で浄化の魔法に追いやられるかのように集まっていく。
黒いもやはまるで激しく抵抗するかのように、もぞもぞと動いている。しかし、柑橘の香りと増幅した私たちの浄化の魔法の前になす術はなかった。
浄化の魔法に少しずつ押し込まれていき、段々と小さくなっていく黒いもや。最終的には、浄化の魔法の光に押しつぶされるようにして、パンッと弾けて消えてしまっていた。
「な、何が起きたんだ……?」
一部始終を見ていたはずのクガリがまったく理解できていない。そのくらいに目の前で起きた事が信じられなかったのだ。
「ふぅ、やはりだいぶ以前に比べれば浄化が楽ですね。テトロがほとんど呪いを吸い取って自分の力に変えていただけに、ずいぶんと楽でした」
「はい、テール様の時くらいの覚悟はしたのですけれどね」
「とりあえず、これでイスンセたちもじきに目を覚ますでしょう」
私たちが安心したように話している姿を見て、クガリもまたその場に座り込んでしまうくらいに安心したようだった。
それにしても、柑橘魔石と女神の刻印の力、恐るべしといった感じだわね。
諜報部隊の呪いを解除し終えた私たちは、念のためそのまま城の中でゆっくりと休んだのだった。
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