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第九章 拡張版ミズーナ編
第464話 学園祭への悩み
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あっという間に後期に入ると、すぐさま学園祭の時期となる。
ミズーナ王女たちは揃って魔法型であるので、剣術大会にはまったく関係がない。リブロ王子とレッタス王子、それとタミールの三人が出場するのでその応援をするくらいだ。
もちろん、剣術大会に出ない学生たちも、それぞれで出し物をする事になっている。そのため、ミズーナ王女たちも一生懸命知恵を絞っていた。
後期が始まってひと月の間は準備期間で知恵を絞れるので、ぎりぎりまで何かやるつもりらしい。しかし、アンマリアたちが抜けた今とあっては、思ったよりアイディアは思い浮かばないようだった。
「私たちってば、思ったよりイベント向きのではないのかしらね」
「そうかも知れないわね。王女としての締め付けが強くなってきたせいで、なんかこう、面白いことが思い浮かばなくなってきたわ……」
すっかりお手上げのミズーナ王女とエスカのようである。
「あの……、学園の友人にご相談されたらどうなのですかね」
メチルが困った表情で提案をしてみる。
そう、メチルが居るということは、ここは城の中のミズーナ王女の部屋なのだ。
だが、この提案にミズーナ王女たちは表情を曇らせていた。
「メチル、もちろん学園で話をしようとしましたよ」
「だけどね、よその国の王女である私たちには、思ったより誰も話し掛けてこなかったのよ。アンマリアたちがいなくなったらこのざまよ。悲しいわね」
不満を漏らすエスカだが、それは友人を作ろうとしなかった二人にも問題があるのではとツッコミを入れそうになるメチルだった。もちろん、ぐっと言葉を飲み込んだが。
しばらくすると、ガチャリと扉が開いて予想外な人物が顔を覗かせた。
「ミズーナ王女殿下、エスカ。ずいぶんと悩んでいるようね」
「こんにちは、ミズーナ王女殿下、エスカ王女殿下」
アンマリアとサキだった。
なぜこの二人が来たかというと、ずっと唸ってばかりだという話をメチルがぶちまけたためである。
「アンマリア、サキ。わざわざ相談に乗ってくれるっていうのかしら」
ミズーナ王女が問い掛ければ、こくりと二人は頷いていた。
ミズーナ王女とエスカに向き合うようにして座るアンマリアとサキ。そして、座るなりアンマリアが話を切り出した。
「対魔族で活躍した柑橘を使った商品、これを学園祭に出せないかしら」
アンマリアがミズーナ王女たちに提案している。
「でも、あれ。商会で実用化していなかったかしら」
ところが、それにすぐ指摘を入れたのはサキだった。実家がお抱えにしているボンジール商会でのアロマキャンドルや柑橘魔石は、今や商会の主力商品なのである。
アンマリアはこれに動じることなく、涼しげな表情で人差し指を左右に振っている。
「でも、それだけでしょう?」
不敵な笑みを浮かべるアンマリア。なんとも怖い表情である。
「転生したこの世界を見てきて、まだまだ柑橘の使い方が甘いのよね。あまり見かけなかったせいで気が付かなかったけど、まさかファッティ領にあるとは思わなかったわ」
腕を組んでうんうんと一人頷くアンマリアである。
「確認してみたところ、飲み物とお菓子っていうのが一般的かしらね。においに着目したのは私たちが初めてというところね」
こう続けるアンマリア。
「におい……?」
すると、エスカが何かを思いついたらしく、急に手をポンと叩いていた。
「そうだわ、せっけんよ」
「せっけんですか?」
唯一の現地人であるサキが、不思議そうに反応している。
この世界にも一応せっけんは存在している。それがあるからこそ、貴族たちは清潔感を保てているといっても過言ではない。
「柑橘系のアロマもそうだけど、カモミールとかミントとかのハーブ系で香りづけをしてやれば、受けると思うのよ」
「それはいいわね。なら、早速聞き込みをしなきゃ。時間がなさすぎるわ」
エスカの意見にミズーナ王女も賛成する。その様子をにこにこと見守るアンマリアである。現地人のサキと残りの転生者であるメチルはどうしたものかと困惑しているようだった。
「そ、それでしたら、ぜひボンジール商会に。サーロイン国内の流通は大体把握していますので」
困惑しながらも、サキは自分のところの商会を強く推している。肝心なところで力を発揮するサキなのだ。
このサキの思わぬ行動に、アンマリアたちはついつい笑ってしまう。
「そうですね。では、早速ボンジール商会に出かけましょうか。メチル、馬車の手配をお願いします」
「承知致しました」
ぱたぱたと駆けて部屋を出ていくメチル。途中でアンマリアの侍女であるスーラと合流して、二人で馬車の手配へと向かっていった。
その様子を見送ったミズーナ王女たちも、しっかりと出かける準備をする。そして、残ったエスカとサキの侍女に付き添われて城の外へと出ていく。
ボンジール商会へと向かったミズーナ王女たちだが、無事にエスカの目論見通りに事が運ぶのだろうか。
そして、学園祭で注目を集めることはできるのだろうか。
ミズーナ王女たちの新たな挑戦が、ここに始まろうとしていた。
ミズーナ王女たちは揃って魔法型であるので、剣術大会にはまったく関係がない。リブロ王子とレッタス王子、それとタミールの三人が出場するのでその応援をするくらいだ。
もちろん、剣術大会に出ない学生たちも、それぞれで出し物をする事になっている。そのため、ミズーナ王女たちも一生懸命知恵を絞っていた。
後期が始まってひと月の間は準備期間で知恵を絞れるので、ぎりぎりまで何かやるつもりらしい。しかし、アンマリアたちが抜けた今とあっては、思ったよりアイディアは思い浮かばないようだった。
「私たちってば、思ったよりイベント向きのではないのかしらね」
「そうかも知れないわね。王女としての締め付けが強くなってきたせいで、なんかこう、面白いことが思い浮かばなくなってきたわ……」
すっかりお手上げのミズーナ王女とエスカのようである。
「あの……、学園の友人にご相談されたらどうなのですかね」
メチルが困った表情で提案をしてみる。
そう、メチルが居るということは、ここは城の中のミズーナ王女の部屋なのだ。
だが、この提案にミズーナ王女たちは表情を曇らせていた。
「メチル、もちろん学園で話をしようとしましたよ」
「だけどね、よその国の王女である私たちには、思ったより誰も話し掛けてこなかったのよ。アンマリアたちがいなくなったらこのざまよ。悲しいわね」
不満を漏らすエスカだが、それは友人を作ろうとしなかった二人にも問題があるのではとツッコミを入れそうになるメチルだった。もちろん、ぐっと言葉を飲み込んだが。
しばらくすると、ガチャリと扉が開いて予想外な人物が顔を覗かせた。
「ミズーナ王女殿下、エスカ。ずいぶんと悩んでいるようね」
「こんにちは、ミズーナ王女殿下、エスカ王女殿下」
アンマリアとサキだった。
なぜこの二人が来たかというと、ずっと唸ってばかりだという話をメチルがぶちまけたためである。
「アンマリア、サキ。わざわざ相談に乗ってくれるっていうのかしら」
ミズーナ王女が問い掛ければ、こくりと二人は頷いていた。
ミズーナ王女とエスカに向き合うようにして座るアンマリアとサキ。そして、座るなりアンマリアが話を切り出した。
「対魔族で活躍した柑橘を使った商品、これを学園祭に出せないかしら」
アンマリアがミズーナ王女たちに提案している。
「でも、あれ。商会で実用化していなかったかしら」
ところが、それにすぐ指摘を入れたのはサキだった。実家がお抱えにしているボンジール商会でのアロマキャンドルや柑橘魔石は、今や商会の主力商品なのである。
アンマリアはこれに動じることなく、涼しげな表情で人差し指を左右に振っている。
「でも、それだけでしょう?」
不敵な笑みを浮かべるアンマリア。なんとも怖い表情である。
「転生したこの世界を見てきて、まだまだ柑橘の使い方が甘いのよね。あまり見かけなかったせいで気が付かなかったけど、まさかファッティ領にあるとは思わなかったわ」
腕を組んでうんうんと一人頷くアンマリアである。
「確認してみたところ、飲み物とお菓子っていうのが一般的かしらね。においに着目したのは私たちが初めてというところね」
こう続けるアンマリア。
「におい……?」
すると、エスカが何かを思いついたらしく、急に手をポンと叩いていた。
「そうだわ、せっけんよ」
「せっけんですか?」
唯一の現地人であるサキが、不思議そうに反応している。
この世界にも一応せっけんは存在している。それがあるからこそ、貴族たちは清潔感を保てているといっても過言ではない。
「柑橘系のアロマもそうだけど、カモミールとかミントとかのハーブ系で香りづけをしてやれば、受けると思うのよ」
「それはいいわね。なら、早速聞き込みをしなきゃ。時間がなさすぎるわ」
エスカの意見にミズーナ王女も賛成する。その様子をにこにこと見守るアンマリアである。現地人のサキと残りの転生者であるメチルはどうしたものかと困惑しているようだった。
「そ、それでしたら、ぜひボンジール商会に。サーロイン国内の流通は大体把握していますので」
困惑しながらも、サキは自分のところの商会を強く推している。肝心なところで力を発揮するサキなのだ。
このサキの思わぬ行動に、アンマリアたちはついつい笑ってしまう。
「そうですね。では、早速ボンジール商会に出かけましょうか。メチル、馬車の手配をお願いします」
「承知致しました」
ぱたぱたと駆けて部屋を出ていくメチル。途中でアンマリアの侍女であるスーラと合流して、二人で馬車の手配へと向かっていった。
その様子を見送ったミズーナ王女たちも、しっかりと出かける準備をする。そして、残ったエスカとサキの侍女に付き添われて城の外へと出ていく。
ボンジール商会へと向かったミズーナ王女たちだが、無事にエスカの目論見通りに事が運ぶのだろうか。
そして、学園祭で注目を集めることはできるのだろうか。
ミズーナ王女たちの新たな挑戦が、ここに始まろうとしていた。
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