伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
492 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編

第492話 ミズーナ王女編、卒業パーティーにて

しおりを挟む
 ついに迎えてしまったミズーナ編の最終日。
 ゲームであるなら、卒業式から卒業パーティーへ移り、告白からのハッピーエンドとなる流れである。なので、ゲーム内であるなら、一歳年上の攻略対象もみんな卒業パーティーに集まってくるようになっていた。
 だが、現実はそうとはいかず、参加しているのはフィレン王子と警備担当のタン・ミノレバーだけである。
 むしろ、ライバル令嬢たちの方がほぼ全員参加しているという状況だった。ミズーナ王女とエスカは同級生だから当然だし、王子たちそれぞれの婚約者であるアンマリアとサキももちろん来ている。サクラ・バッサーシも警備担当での来場である。
 それ以外のラム・マートンとモモ・ハーツ改めモモ・ファッティも姿を見せていた。
「はあ、ついにこの時を迎えちゃったわね」
 パーティー会場の片隅でジュースを飲みながら、けらけらと楽しそうにミズーナ王女に話し掛けるエスカ。真冬の寒い時だというのに、肩出しのビスチェドレスでパーティーに参加している。
 一方のミズーナ王女は肌の露出の少ない格好だ。肩にはストールまで羽織っているので、ここでも二人はとても対照的なようである。
「そうですね。これでサーロイン王国も見納めですか。転生者たちともお別れですし、寂しくなりますね」
「まったくね」
 両手を前で組んでいるミズーナ王女がしんみりと呟くと、エスカの方は頭の後ろで腕を組みながら同意していた。ビスチェタイプの服で取る姿勢ではない。
 とはいえ、卒業パーティーなので厳かではあるものの、多少の無作法には目をつぶるミズーナ王女だった。
 そうやってエスカと話すミズーナ王女の元に、何人か近付いてくる気配が感じられた。思わず視線を向けると、そこにはアンマリアたち一年先輩の令嬢たちの姿があった。おまけにアンマリアのいとこのタミールの姿もあった。
「卒業おめでとうございます。ミズーナ王女殿下、エスカ王女殿下」
 代表して挨拶をしたのはアンマリアだった。
「はい、ありがとうございます。アンマリア、それとみなさん」
 にこやかにお礼を言うミズーナ王女である。
「やあ、二人とも卒業おめでとう」
 そこへ、今度はリブロ王子を連れたフィレン王子までがやって来る。これでミール王国に戻っているアーサリーと、会場の警備にあたっているサクラとタンの二人、それとそもそもやって来ていないタカーとカービルの計五人を除いた乙女ゲームの主要メンバーが一堂に会することとなった。
 この豪華な顔合わせに、思わず最後の最後で感動をしてしまうミズーナ王女とエスカなのである。
「ああ、このスチル、写真に収めたいわ……」
 部外者なのにミズーナ王女に呼ばれて紛れていたメチルが、感動のあまりに涙を流している。
「あら、メチルまで居ましたのね。まあ、これだけ人数が集まっていれば、部外者の一人や二人問題ありませんものね」
 思わず笑ってしまうアンマリアである。
「いや、笑い事じゃないぞ、アンマリア。その部外者がたまたま私たちの知り合いだから問題ないようなものだ。本当なら警備の責任を問われてもおかしくない事態だぞ」
 笑いながら言うアンマリアに苦言を呈するフィレン王子である。さすがは未来の国王らしい真面目な反応である。
「そういえば、ミズーナ王女殿下」
「なんでしょうか、アンマリア」
「王女殿下は婚約者が決まっていませんでしたよね」
「ええ、そうですけれど。国に戻ったらお母様たちと婚約者探しを始める予定です」
 アンマリアの質問に正直に答えていくミズーナ王女。それを聞いたアンマリアは、自分のいとこであるタミールへと視線を向ける。
「あ、アンマリア姉さん?」
 急に視線を向けられて、困惑の隠せないタミールである。
「どうかしら、うちのタミールは」
 扇を広げて口元に当てながら、ミズーナ王女へと提案をするアンマリア。
 あまりにも急な提案に、目を丸くして固まってしまうミズーナ王女。だが、固まってしまったのは何もミズーナ王女だけではなかった。他の全員ほぼすべてだ。動いていたのは食い意地を発揮していたエスカくらいである。
「ね、姉さん、それ本気なのですか?!」
 タミールが大きな声でアンマリアに問い詰める。
「冗談に思えまして?」
 ところが、アンマリアは本気のようだ。見下ろすような視線をタミールの方へと向ける。まるで悪役令嬢みたいなムーブをかますアンマリアである。
「ぼ、僕に王族の伴侶など荷が重すぎます。どうか考え直して下さい、姉さん」
 必死に事態をしようとするタミールだが、アンマリアの考えがそうそう覆ることはなかった。
 一方、提案を持ちかけられたミズーナ王女も真剣に考えている。
 タミールはゲームの攻略対象どころかモブとしても出てこない人物だ。だが、王太子の婚約者のいとこという、なかなかに悪くない物件。なによりも、サーロイン王国に対する影響力を持つことができる。ミズーナ王女は本気で悩んだ。
「すぐに結論を出す必要はありません。私の方も最近悩んだ上での提案ですからね。こちらとしてもタミールの両親にも話をつけてみなければなりませんから」
 平穏に終わるかと思われた卒業パーティーだったが、最後の最後で本来のヒロインであるアンマリアの手によって特大の爆弾が投げ込まれた。
 はたして、拡張版ミズーナ王女の物語は、どんなエンディングを迎えるというのだろうか……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...