493 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編
第493話 去り行く者
しおりを挟む
アンマリアによって特大の爆弾を投げ込まれたミズーナ王女は、パーティーから戻ってからというものずっと悩んでいた。
「はあ……。なんてものをぶち込んでくるのよ、アンマリアは」
一応パーティー用のドレスから普段着に着替えてベッドに横たわるミズーナ王女。適当に寝返りを打ちながら、布団に顔を半分うずめたままの状態を続けている。
「まったく、本当に不意打ちでしたね、アンマリアは」
飲み物を用意して、部屋に戻ってきたメチルも愚痴を漏らしている。
ベッドの上で伏したまま顔だけをくるりと振り向かせるミズーナ王女。
「いいわね、メチルは」
「なんでですか」
ぼそっと文句を言うミズーナ王女に対して、少し不機嫌そうに反応するメチルである。
「だってそうでしょ。エスカと一緒にミール王国に行って、アーサリー殿下と結婚するのよ?」
ミズーナ王女の愚痴のような言葉に、メチルはつい口を尖らせている。
「それって口約束じゃないですか。アーサリー殿下が婚約者を見つけていたら、その約束はなかったことになるんですよ?」
なんとも険悪な雰囲気である。
ところが、ミズーナ王女には謎の自信があった。
「大丈夫、もう決定事項だから。安心してミール王国に嫁ぎなさいって」
「むむっ?」
腰に手を当てて誇らしげにするミズーナ王女の態度に、メチルは疑いの目しか向けられなかった。どうしてそこまで自信たっぷりに言い切れるのか分からないからだ。
「とりあえず、アンマリアのせいで私はもう数日間サーロイン王国に残らなくてはなりませんからね。メチルは気にせずにミール王国に向かってちょうだい」
「むぅ……仕方ありませんね」
納得のいかないメチルではあるものの、ミズーナ王女の言葉には立場上逆らえない。なので、やむなくその言葉に従うことにした。
ひとまず無事に卒業式を終えたことで、今日のところは安心して床に就くミズーナ王女とメチルなのであった。
翌朝、朝食を済ませると、エスカがミズーナ王女の部屋へとやって来た。
「メチル、準備はできていますか?」
「もうちょっと待って下さい」
そう、メチルをミール王国に連れていくために迎えに来たのだ。
昨夜は遅くまでミズーナ王女と言い争いをしていたので、メチルはその準備が整っていなかった。今も必死に荷物を鞄に詰め込んでいるのだ。
メチルは転生者たちの中では唯一の収納魔法が使えない人物だから仕方がない。
ようやく準備が整い、メチルはエスカと一緒に城門へと向かう。ミール王国行きの馬車に乗るためだ。
二人を見送るために、サーロイン国王夫妻、フィレン王子、リブロ王子、アンマリア、サキ、ベジタリウス王妃、ミズーナ王女と王族とその婚約者が勢ぞろいして見送りである。
「それでは、娘が三年間お世話になりました。ずいぶんと迷惑をお掛けしたようで、その点は心より深くお詫び申し上げますわ」
ミール王妃が小さく頭を下げていた。
「いやいや、なかなかの大活躍で助かったくらいです。迷惑とはいっても些細なこと、そこまで気になさらなくてもよいですぞ」
サーロイン国王はそのように言葉を返していた。
実際、エスカはその闇の魔力で大活躍だったので嘘はない。実質的な迷惑はアンマリアが受けたくらいなので、そちらもまた嘘ではなかった。王族自体に迷惑はほぼかけていないのだから。
「そういって頂けるとこちらとしても気持ちが軽くなりますわ。お気遣い、誠にありがとうございます」
母親にまでこう言われるあたり、エスカは自国でもかなりフリーダムだったのだろう。実際問題、幼少時から妙な魔道具を開発していたのだから。
「ミール王妃殿下」
「なんでしょうか、ミズーナ王女殿下」
サーロイン国王との話が終わったところで、ミズーナ王女がミール王妃に声を掛ける。
「あの、メチルの事をよろしくお願い致します」
真剣な表情で緊張した風にミズーナ王女が発言すると、ミール王妃は優しく微笑み返す。
「もちろんです。アーサリーが婚約者を見つけられているとは思いませんから、娘と思って大事にさせてもらいます」
ミール王妃はしっかりとミズーナ王女に対して約束していた。
すべての挨拶が終わると、エスカとメチルはミール王妃とともにミール王国へと旅立っていった。
城門ではミズーナ王女とアンマリアが呆然とした表情でその後ろ姿を眺めていた。
「全部終わりましたね」
「そうですね。終わりましたわね」
「これで、ミズーナ王女殿下とレッタス殿下の婚約者が見つかれば、無事にハッピーエンドですね」
「見つかればいいですわね」
エスカとメチルを見送った後なので、呆けているせいかミズーナ王女もまるで他人事である。
しかし、いつまでも外にいては冷えてしまうと、二人は慌てて城の中へと戻っていく。
本当はエスカたちと同時に城を発ってベジタリウス王国に戻る予定だったミズーナ王女。アンマリアのごり押しでもうしばらくサーロイン王国に残ることとなってしまった。
わずかな滞在の延長期間ではあるものの、状況に変化は訪れるのだろうか。
ミズーナ王女の憂鬱は続くのである。
「はあ……。なんてものをぶち込んでくるのよ、アンマリアは」
一応パーティー用のドレスから普段着に着替えてベッドに横たわるミズーナ王女。適当に寝返りを打ちながら、布団に顔を半分うずめたままの状態を続けている。
「まったく、本当に不意打ちでしたね、アンマリアは」
飲み物を用意して、部屋に戻ってきたメチルも愚痴を漏らしている。
ベッドの上で伏したまま顔だけをくるりと振り向かせるミズーナ王女。
「いいわね、メチルは」
「なんでですか」
ぼそっと文句を言うミズーナ王女に対して、少し不機嫌そうに反応するメチルである。
「だってそうでしょ。エスカと一緒にミール王国に行って、アーサリー殿下と結婚するのよ?」
ミズーナ王女の愚痴のような言葉に、メチルはつい口を尖らせている。
「それって口約束じゃないですか。アーサリー殿下が婚約者を見つけていたら、その約束はなかったことになるんですよ?」
なんとも険悪な雰囲気である。
ところが、ミズーナ王女には謎の自信があった。
「大丈夫、もう決定事項だから。安心してミール王国に嫁ぎなさいって」
「むむっ?」
腰に手を当てて誇らしげにするミズーナ王女の態度に、メチルは疑いの目しか向けられなかった。どうしてそこまで自信たっぷりに言い切れるのか分からないからだ。
「とりあえず、アンマリアのせいで私はもう数日間サーロイン王国に残らなくてはなりませんからね。メチルは気にせずにミール王国に向かってちょうだい」
「むぅ……仕方ありませんね」
納得のいかないメチルではあるものの、ミズーナ王女の言葉には立場上逆らえない。なので、やむなくその言葉に従うことにした。
ひとまず無事に卒業式を終えたことで、今日のところは安心して床に就くミズーナ王女とメチルなのであった。
翌朝、朝食を済ませると、エスカがミズーナ王女の部屋へとやって来た。
「メチル、準備はできていますか?」
「もうちょっと待って下さい」
そう、メチルをミール王国に連れていくために迎えに来たのだ。
昨夜は遅くまでミズーナ王女と言い争いをしていたので、メチルはその準備が整っていなかった。今も必死に荷物を鞄に詰め込んでいるのだ。
メチルは転生者たちの中では唯一の収納魔法が使えない人物だから仕方がない。
ようやく準備が整い、メチルはエスカと一緒に城門へと向かう。ミール王国行きの馬車に乗るためだ。
二人を見送るために、サーロイン国王夫妻、フィレン王子、リブロ王子、アンマリア、サキ、ベジタリウス王妃、ミズーナ王女と王族とその婚約者が勢ぞろいして見送りである。
「それでは、娘が三年間お世話になりました。ずいぶんと迷惑をお掛けしたようで、その点は心より深くお詫び申し上げますわ」
ミール王妃が小さく頭を下げていた。
「いやいや、なかなかの大活躍で助かったくらいです。迷惑とはいっても些細なこと、そこまで気になさらなくてもよいですぞ」
サーロイン国王はそのように言葉を返していた。
実際、エスカはその闇の魔力で大活躍だったので嘘はない。実質的な迷惑はアンマリアが受けたくらいなので、そちらもまた嘘ではなかった。王族自体に迷惑はほぼかけていないのだから。
「そういって頂けるとこちらとしても気持ちが軽くなりますわ。お気遣い、誠にありがとうございます」
母親にまでこう言われるあたり、エスカは自国でもかなりフリーダムだったのだろう。実際問題、幼少時から妙な魔道具を開発していたのだから。
「ミール王妃殿下」
「なんでしょうか、ミズーナ王女殿下」
サーロイン国王との話が終わったところで、ミズーナ王女がミール王妃に声を掛ける。
「あの、メチルの事をよろしくお願い致します」
真剣な表情で緊張した風にミズーナ王女が発言すると、ミール王妃は優しく微笑み返す。
「もちろんです。アーサリーが婚約者を見つけられているとは思いませんから、娘と思って大事にさせてもらいます」
ミール王妃はしっかりとミズーナ王女に対して約束していた。
すべての挨拶が終わると、エスカとメチルはミール王妃とともにミール王国へと旅立っていった。
城門ではミズーナ王女とアンマリアが呆然とした表情でその後ろ姿を眺めていた。
「全部終わりましたね」
「そうですね。終わりましたわね」
「これで、ミズーナ王女殿下とレッタス殿下の婚約者が見つかれば、無事にハッピーエンドですね」
「見つかればいいですわね」
エスカとメチルを見送った後なので、呆けているせいかミズーナ王女もまるで他人事である。
しかし、いつまでも外にいては冷えてしまうと、二人は慌てて城の中へと戻っていく。
本当はエスカたちと同時に城を発ってベジタリウス王国に戻る予定だったミズーナ王女。アンマリアのごり押しでもうしばらくサーロイン王国に残ることとなってしまった。
わずかな滞在の延長期間ではあるものの、状況に変化は訪れるのだろうか。
ミズーナ王女の憂鬱は続くのである。
15
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる