494 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編
第494話 とんでもない置き土産
しおりを挟む
エスカを見送った日の午後、城にアンマリアを訪ねてモモとタミールの二人がやって来た。
モモとタカーの婚約が決まってからというもの、実に初めての登城なのである。
「あら、二人ともどうしたのかしら」
部屋までやって来た二人を出迎え、アンマリアはにこやかに用事を確認していた。
アンマリアの様子もそうだが、部屋の中にいた人物を見てモモとタミールは驚きを隠せなかった。
「えっと、お姉様」
「何かしら、モモ」
気になって仕方のないモモは、戸惑いつつもアンマリアに質問をぶつける。
「あの、どうしてミズーナ王女殿下はいらっしゃるのでしょうか」
そう、アンマリアのいる部屋の奥で、ミズーナ王女がくつろいでいたのだ。
「本当ですね。卒業パーティーが終われば国に帰られるのではなかったのですか?」
タミールもこの驚きようである。
本来いないはずの人物が部屋にいれば、そりゃ驚くというものだ。
二人の驚きの声を聞いて、ミズーナ王女がゆっくりと振り返る。
「いたら悪いみたいに言わないで下さいな。大体、私がこうやって残っている原因はそこのアンマリアなんですからね」
「お姉様が?」
驚きを隠せないモモが、くるりとアンマリアへと視線を向けている。モモに視線を向けられてもまったく動じないアンマリア。
「一体何があったのですか、姉上」
タミールもたまらず尋ねてしまう。その反応を見て、アンマリアはにやりと笑っている。その表情に、思わずタミールは警戒をしてしまう。
「なにって、ミズーナ王女殿下の婚約者候補として、タミールを推しただけですよ」
「姉上?!」
アンマリアから告げられた現実に、タミールは思い切り驚いていた。どうやらタミールとしてはまったく予想していなかったようだ。
それも無理はない。アンマリアという共通項があるものの、交流自体はたかが知れていたのだから。寝耳に水にもなるものである。
「ぼ、ボクがミズーナ王女殿下と婚約ですって? お、おそれ多すぎますよ」
タミールとしては辞退したいようだ。だが、そんなタミールに対してアンマリアは追撃を繰り出し始める。
「私はいとことしてタミールの将来を案じているのよ。タミールはどことなく引っ込み思案だし、おじ様もおば様もどことなく動きが遅そうなんですから。となったら、私がやるしかないでしょう?」
「どういう理論なんですか、姉上」
アンマリアの言い分が理解できないと、タミールは珍しく大声で反抗の姿勢を見せている。
だが、そんなタミールの反抗も、実に虚しく終わってしまう。
「あらあら、これは確かにいい候補かもしれませんね」
「えっ?!」
アンマリアでもないミズーナ王女でもない声が部屋に響き渡り、タミールが思いきり固まっている。
陰に隠れるようにして座っていた人物が立ち上がり、アンマリアたちの前に姿を見せる。
姿を見せたのは、なんとベジタリウス王妃だった。最初から罠にかける気満々で待機してもらっていたのである。
「血縁関係としてはちょっと遠いですけれど、サーロイン王家とつながりが持てるのは、悪くはありませんね」
「あ、あわわわわわ……」
思わぬ王族の登場に、タミールは完全に震え上がっている。モモの方はまだ耐性があるらしく、どうにか耐えていた。大体はエスカのせいである。
「おじ様たちには改めて確認をしなければなりませんが、私たちのお父様とお母様は喜んで受け入れて下さりましたよ」
「おじ様、おば様……」
アンマリアが笑顔で告げると、タミールは完全に顔を青ざめさせていた。
「陛下に嬉しい報告ができて、実に喜ばしい限りです。タミール、一応はまだ候補者の一人に過ぎませんのでご安心なさい。決まりましたら、こちらから使者を送って報告しますのでね」
「は、はい……」
なんとも気の抜けた返事になるタミールである。驚きすぎて、意識が半分飛んでしまっているのだ。致し方ないのだ。
「ミズーナが決まれば、残すはレッタスだけです。こちらは国内で探しますゆえ、これ以上はご遠慮頂きますよ」
「承知致しました、ベジタリウス王妃殿下」
アンマリアは王妃に向けて頭を下げていた。
「では、もしもの時はよろしくお願いしますね、タミール」
「はい……」
にこりと微笑むミズーナ王女だが、なんとも気の抜けた返事しかできないタミールなのであった。
こうして、ミズーナ王女の婚約者騒ぎに巻き込まれてしまったタミール。
普通であれば隣国とはいえど王女の婚約者となれば大変名誉なことである。
ところが、今回最初に告げてきたのが自分のいとこであるアンマリアであった上に、当人とその母親からもお願いをされるというとんでも展開だったのだ。そのために、タミールの理解がまったく追いつかなかったわけなのだ。
モモからも祝福はされたものの、タミールの心境は複雑である。
はたして、ミズーナ王女の婚約者は誰になるのだろうか。
最後の最後に波乱を巻き起こされつつ、この翌日にベジタリウス王国に向けて戻ることとなったミズーナ王女たちなのであった。
モモとタカーの婚約が決まってからというもの、実に初めての登城なのである。
「あら、二人ともどうしたのかしら」
部屋までやって来た二人を出迎え、アンマリアはにこやかに用事を確認していた。
アンマリアの様子もそうだが、部屋の中にいた人物を見てモモとタミールは驚きを隠せなかった。
「えっと、お姉様」
「何かしら、モモ」
気になって仕方のないモモは、戸惑いつつもアンマリアに質問をぶつける。
「あの、どうしてミズーナ王女殿下はいらっしゃるのでしょうか」
そう、アンマリアのいる部屋の奥で、ミズーナ王女がくつろいでいたのだ。
「本当ですね。卒業パーティーが終われば国に帰られるのではなかったのですか?」
タミールもこの驚きようである。
本来いないはずの人物が部屋にいれば、そりゃ驚くというものだ。
二人の驚きの声を聞いて、ミズーナ王女がゆっくりと振り返る。
「いたら悪いみたいに言わないで下さいな。大体、私がこうやって残っている原因はそこのアンマリアなんですからね」
「お姉様が?」
驚きを隠せないモモが、くるりとアンマリアへと視線を向けている。モモに視線を向けられてもまったく動じないアンマリア。
「一体何があったのですか、姉上」
タミールもたまらず尋ねてしまう。その反応を見て、アンマリアはにやりと笑っている。その表情に、思わずタミールは警戒をしてしまう。
「なにって、ミズーナ王女殿下の婚約者候補として、タミールを推しただけですよ」
「姉上?!」
アンマリアから告げられた現実に、タミールは思い切り驚いていた。どうやらタミールとしてはまったく予想していなかったようだ。
それも無理はない。アンマリアという共通項があるものの、交流自体はたかが知れていたのだから。寝耳に水にもなるものである。
「ぼ、ボクがミズーナ王女殿下と婚約ですって? お、おそれ多すぎますよ」
タミールとしては辞退したいようだ。だが、そんなタミールに対してアンマリアは追撃を繰り出し始める。
「私はいとことしてタミールの将来を案じているのよ。タミールはどことなく引っ込み思案だし、おじ様もおば様もどことなく動きが遅そうなんですから。となったら、私がやるしかないでしょう?」
「どういう理論なんですか、姉上」
アンマリアの言い分が理解できないと、タミールは珍しく大声で反抗の姿勢を見せている。
だが、そんなタミールの反抗も、実に虚しく終わってしまう。
「あらあら、これは確かにいい候補かもしれませんね」
「えっ?!」
アンマリアでもないミズーナ王女でもない声が部屋に響き渡り、タミールが思いきり固まっている。
陰に隠れるようにして座っていた人物が立ち上がり、アンマリアたちの前に姿を見せる。
姿を見せたのは、なんとベジタリウス王妃だった。最初から罠にかける気満々で待機してもらっていたのである。
「血縁関係としてはちょっと遠いですけれど、サーロイン王家とつながりが持てるのは、悪くはありませんね」
「あ、あわわわわわ……」
思わぬ王族の登場に、タミールは完全に震え上がっている。モモの方はまだ耐性があるらしく、どうにか耐えていた。大体はエスカのせいである。
「おじ様たちには改めて確認をしなければなりませんが、私たちのお父様とお母様は喜んで受け入れて下さりましたよ」
「おじ様、おば様……」
アンマリアが笑顔で告げると、タミールは完全に顔を青ざめさせていた。
「陛下に嬉しい報告ができて、実に喜ばしい限りです。タミール、一応はまだ候補者の一人に過ぎませんのでご安心なさい。決まりましたら、こちらから使者を送って報告しますのでね」
「は、はい……」
なんとも気の抜けた返事になるタミールである。驚きすぎて、意識が半分飛んでしまっているのだ。致し方ないのだ。
「ミズーナが決まれば、残すはレッタスだけです。こちらは国内で探しますゆえ、これ以上はご遠慮頂きますよ」
「承知致しました、ベジタリウス王妃殿下」
アンマリアは王妃に向けて頭を下げていた。
「では、もしもの時はよろしくお願いしますね、タミール」
「はい……」
にこりと微笑むミズーナ王女だが、なんとも気の抜けた返事しかできないタミールなのであった。
こうして、ミズーナ王女の婚約者騒ぎに巻き込まれてしまったタミール。
普通であれば隣国とはいえど王女の婚約者となれば大変名誉なことである。
ところが、今回最初に告げてきたのが自分のいとこであるアンマリアであった上に、当人とその母親からもお願いをされるというとんでも展開だったのだ。そのために、タミールの理解がまったく追いつかなかったわけなのだ。
モモからも祝福はされたものの、タミールの心境は複雑である。
はたして、ミズーナ王女の婚約者は誰になるのだろうか。
最後の最後に波乱を巻き起こされつつ、この翌日にベジタリウス王国に向けて戻ることとなったミズーナ王女たちなのであった。
14
あなたにおすすめの小説
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる