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未羊

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第279話 大晦日の夜

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 年内最後の配信を無事に終わらせた満は、両親に誘われて年越しをお寺で迎えることになった。
 そんなわけで、母親の手によってお着替えが待っていた。

「ちょっと、お母さん。目が怖いんだけど?」

「ふふっ、今年もまさか娘の晴れ着を見ることができるなんて思わなかったわ」

「お母さん? 僕は男だよ?」

 迫ってくる母親の姿に、満は恐怖を感じている。
 母親の様子を見ても分かる通り、今の満は女の子である。なので、母親は早く満に振袖を着せたくて仕方ないというわけだ。

「覚悟を決めなさい、満。こんな日に女の子になっていたのが運の尽きよ」

「もう、お母さんってばーっ!」

 満の抵抗虚しく、母親に振袖を着せられてしまう満だった。

 着替えた満は、母親に連れられて父親のところに戻ってくる。

「おお、似合ってるな。銀髪だと何色が似合うか分からなかったが、赤色もよく合うな」

 父親が手放しで褒めてきている。
 女性となった状態なのだから嬉しいと思いきや、やはり元が男の子だけに複雑な気持ちになる満だった。

「着物ってこんなに着るのに時間がかかるんだ」

「そりゃね。今だと時間のかからないセパレートにマジックテープの帯というのもあるらしいけど、やっぱり日本人ならちゃんと着付けた着物よね」

「うむ、そうだな。満だったら元の姿でも似合いそうな気がするな」

「ちょっと、お父さんまで僕に女装をさせるつもり?!」

「はははっ、冗談だ。さあ、年越しそばも食べたし、お寺に向かおうじゃないか」

 父親の言い分に怒る満を目の前に、父親は笑ってごまかしていた。
 自分の子どもで遊ばないでと思いつつも、自分の姿を見て似合っていると思う満は、実に複雑な気持ちになっていた。

 外に出ると、冬の寒さに思わず身震いしてしまう。

「やはり年末の夜中は寒いな」

「満。しっかりと襟巻を着けておくのよ」

「わ、分かってるって」

 もこもことした襟巻でがっつり首周りをガードする。
 真夜中の街に繰り出すと、お寺からは除夜の鐘が聞こえてくる。

「これを迷惑だというけしからんやつがいるらしいが、やっぱりこれを聞くと大晦日だって感じがしていいものだ」

「まあ、生活のリズムは人それぞれですからね。この時間が睡眠になっている人にとっては、それはうるさいでしょうね」

「確かにそうかもな」

 満の両親は除夜の鐘の話で盛り上がっているようだ。
 ただ、満は黙り込んでいた。

(うーん、半分吸血鬼なせいか、やっぱり少し体にむずむずとした感覚が走るなぁ)

 なんとも言えない気持ち悪さのようなものを感じているようだった。
 今の満は吸血鬼であるルナ・フォルモントの影響をかなり強く受けている。だからなのか、除夜の鐘の音に体が少し拒否反応を示しているようだった。

(寒さのせいってことにしておこう。今は親と一緒にいるんだ。心配させたくないな)

 満はそう思って、ぐっと我慢することにした。
 しかし、お寺が近付くにしたがって、満は我慢が効かなくなってきた。

「どうしたの、満」

「な、なんでもないよ。それよりお寺で初もうでをするんでしょ? 早く行こうよ」

「顔色が悪いぞ。無理するな」

 両親が慌てた様子を見せている。

「おやおや、ジャパンの厄払いの効果が出ているようね」

 そこに聞いたことのある声が聞こえてきた。
 満が顔を上げると、そこにいたのはグラッサだった。

「ダーリン、ドーター、ちょっと待ってて」

「うん、ママ」

 グラッサは夫と小麦を待たせると、満に近付いていく。

「うむ、やはり吸血鬼との同化が進んできているようね。とりあえず、これを飲んでちょうだい」

「こ、これは?」

「退治屋特製の聖水よ。この程度でルナ・フォルモントは死にやしない。一時的に力を弱めるだけよ」

 グラッサの言葉を聞いて、満はぐっと聖水を飲み干す。さっきまで苦しかったのが嘘のように楽になってしまった。

「テンプルだけなら大丈夫だったでしょうけれど、原因はこの厄払いのベルの音ね。これがルナ・フォルモントの力と相性が悪かったみたいね。それだけ、ルナ・フォルモントが力を取り戻してきているということよ」

「そっかぁ、ルナさん、復活の時が近いんですね」

 グラッサの話を聞いて、満は安心したような、どこか寂しいような複雑な表情を浮かべていた。

「満、もう大丈夫なのか?」

「うん、グラッサさんのおかげでもうこの通り大丈夫だよ」

 振り袖姿でぴょんぴょんと飛び跳ねてみせる満である。
 元気になった満の姿に、両親はほっとひと安心である。

「どなたか知りませんが、助かりました」

「いやいや、私たちはこの子とは知り合いですからね。知り合いが苦しんでいたら助ける、ジャパンとはそういうものなのでしょう?」

 満の両親が頭を下げてお礼を言っていると、グラッサはさも当然という感じで笑っていた。

「せっかくですから、初詣、ご一緒しませんか? 私、家族と年越しをするのがものすごく久しぶりですし、テンプルへ行くのは初めてなのですよ」

「て、てんぷる?」

「お寺っていう意味です。ママ、中途半端に英語交えるのやめてよ」

「ふふっ、すまないね、ドーター。いや、小麦」

 喋り方を娘に注意されるグラッサである。
 なりゆきで一緒にお寺に向かうことになった満と小麦とその家族。
 その間も、除夜の鐘はひとつ、またひとつと響き渡ったのだった。
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