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第18話 激突! 栞対わっけー
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その週の木曜日を迎える。放課後には以前話をしていた通りに、栞とわっけーのテニス対決が行われる事となった。
「思ったんだけどさ、勝手にコートとか使っていいわけ?」
今さら過ぎる栞の質問。だが、わっけーは底抜けの明るさで笑い飛ばす。
「わーはっはーっ。心配ご無用だぞ、しおりん。ちゃんと顧問の先生と部長には許可を取ってあるのだ」
「……はぁ、意外とちゃんとしてるわね」
わっけーの行動が意外だった栞は、呆れたようにため息を吐いた。ラケットやボールも借りてきており、これでいつでも対決ができる状態になっていた。
栞とわっけーは体操服に着替えてコートに出る。着々と二人が対決の準備をしていると、とある女性が近付いてきた。
「脇田さん、この子が対戦相手の子かしら?」
栞とわっけーが揃って声のした方を見る。そこには、制服姿のショートボブの女性が立っていた。
「おー、部長だ!」
わっけーが叫ぶ。
「ふふっ、脇田さんは面白い反応をするわね。まあ、それはそれとして、なかなか面白そうだし、審判を務めさせてもらっていいかしら」
わっけーの反応に笑っている部長と呼ばれた女性だが、よく見ると目が笑っていない。わっけーの反応にちょっとイラついたようだ。
それはともかくとして、この申し出に栞は頭を下げてお礼を言った。道具の貸し出しまでしてくれたのだから当然だろう。
テニス部の部長は体操着のズボンだけ着用すると、審判席に上がって座る。これだけで随分と空気が変わった。
栞とわっけーはコートの位置に付き、すっと構える。ここでテニス部の部長が栞に一応確認を入れる。
「そこの女子はルールは理解しているかしら」
「一応ひと通りは。なので、問題ないです」
「そう、それならこのまま始めましょう。ちなみに名前は?」
「1年5組、高石栞です」
「脇田さんと同じクラスの子ね。分かったわ、始めましょう」
というわけで、栞とわっけーの対決が始まる。勝ち負けについては、練習なので2ゲーム先取した方が勝ちという設定となった。
「わっけー、サーブは譲るわよ」
「えっ、いいのか?」
「ええ、いいわよ」
「よーし、いっくぞー、しおりん!」
というわけで、第1ゲームのサーブ権はわっけーが持つ。注目の第一サーブが放たれる!
パコンッ!
高いトスを上げて、いい音とともに勢いよく打ち出されたサーブ。栞はあらかじめ下がって弾道を見極めようとしている。思ったよりも緩いサーブだったので、栞が落ち着いて対処しようとした時だった。
急にサーブが伸びたのだ。思わぬサーブに、栞の反応が狂う。
わっけーのサーブはコート内でワンバウンドすると、そのまま栞の横を抜けてフェンスに当たった。
「よし、先制したぞ!」
わっけーは喜ぶ。ところが、
「フォルト!」
非情なるテニス部部長の声が響き渡る。
「えーっ、なんで?! コートに入ってたじゃん!」
決まったと思っていたわっけーは、抗議の声を上げる。
「脇田さん、あなたにはルールの説明はしましたよね? ちゃんと聞いていなかったんですね。サーブを入れなければならないコートの場所は、どこでしたか?」
その抗議にも、さすがにテニス部の部長は落ち着いていた。
「サーブ自体には問題はないですが、あなたの立つ位置から反対側の、ネット寄りの枠に入れなければならないのです。試合に出るんでしたら、最低限のルールはちゃんと押さえて下さい」
「ぶーぶー」
「文句を言ってないで、うち直して下さい。高石さんの点にしますよ?」
ここまで言われてしまえば、いくらわっけーとはいえおとなしく従った。負けず嫌いなのだ。不満ながらも、わっけーは打ち直しのサーブを放つ。二度目のサーブはちゃんと指定の枠内でバウンドする。
今回のサーブもさっきと同じように伸びるが、栞の対応が早かった。
栞が鋭く振り抜き、わっけーが立っている逆サイドへと鋭い球を打ち返す。それは狙いすましたかのように、ポイントになるコートのラインぎりぎりでバウンドした。
「0-15!」
あまりのうち返しの鋭さに、わっけーが呆然としている。どうやらかなり栞の事を甘く見ていたようである。
「ぐぬぬぬ……、やるな、しおりん! こっからが本番じゃーっ!」
わっけーが叫ぶ。その姿に、栞もぐっと力が入る。
初めのうちこそちぐはぐ気味だったわっけーも、進むにつれて動きがよくなっていく。思わぬラリーが起きたりもして、1ゲームをようやく栞が取るが、その時にはすでに20分以上が経過していた。言っておくが1セットではない、1ゲームだ。たった4ポイントの先取に20分以上である。
(脇田さんのこの体力と勘の鋭さ、それと反応……。これは実力的にも即戦力間違いなしね。ただ、ちょっとまだルールを今一つ理解していないのは問題ですね)
この予想外の打ち合いに、テニス部部長からのわっけーの評価はかなり上がったようだ。その一方で、栞の事も気になっているようだ。
(高石さんは体こそ小さいけれど、それを補って余りある体力と技術がありますね。インパクトの瞬間に捻って回転を入れたり、時には意表を突いたロブを上げたりと、小技が多彩ですね)
そういう評価がなされている間も試合は進んでいく。
「アドバンテージ、高石!」
部長のこの声が響き、2ゲーム目もやっと終わりが見えてきた。この2ゲーム目も接戦となり、さらに15分は経っている。予想外に長引く試合だが、そのレベルの高さにテニス部部長は興奮気味に審判をしている。こんな面白い試合を途中で打ち切るなんて選択肢は、とうに消え去っていた。
2ゲーム目のサーブ権は栞にあって、栞が優位に試合を進めるかと思われた。ところが、わっけーの脅威の粘りに、栞の腕は限界を迎えつつあった。
(結構粘るわね、わっけー。手首が痺れ始めてるから、そろそろ終わりにしなきゃ……)
栞はサーブの準備をしながらわっけーを見る。
(見た感じ、わっけーの方は大丈夫そうだけど、集中が切れかかってる。元から集中できるタイプじゃなさそうだったけど、私への対抗心だけで頑張ってる感じね)
栞はこの長い戦いに決着をつけるべく、渾身のサーブを放つのだった。
「思ったんだけどさ、勝手にコートとか使っていいわけ?」
今さら過ぎる栞の質問。だが、わっけーは底抜けの明るさで笑い飛ばす。
「わーはっはーっ。心配ご無用だぞ、しおりん。ちゃんと顧問の先生と部長には許可を取ってあるのだ」
「……はぁ、意外とちゃんとしてるわね」
わっけーの行動が意外だった栞は、呆れたようにため息を吐いた。ラケットやボールも借りてきており、これでいつでも対決ができる状態になっていた。
栞とわっけーは体操服に着替えてコートに出る。着々と二人が対決の準備をしていると、とある女性が近付いてきた。
「脇田さん、この子が対戦相手の子かしら?」
栞とわっけーが揃って声のした方を見る。そこには、制服姿のショートボブの女性が立っていた。
「おー、部長だ!」
わっけーが叫ぶ。
「ふふっ、脇田さんは面白い反応をするわね。まあ、それはそれとして、なかなか面白そうだし、審判を務めさせてもらっていいかしら」
わっけーの反応に笑っている部長と呼ばれた女性だが、よく見ると目が笑っていない。わっけーの反応にちょっとイラついたようだ。
それはともかくとして、この申し出に栞は頭を下げてお礼を言った。道具の貸し出しまでしてくれたのだから当然だろう。
テニス部の部長は体操着のズボンだけ着用すると、審判席に上がって座る。これだけで随分と空気が変わった。
栞とわっけーはコートの位置に付き、すっと構える。ここでテニス部の部長が栞に一応確認を入れる。
「そこの女子はルールは理解しているかしら」
「一応ひと通りは。なので、問題ないです」
「そう、それならこのまま始めましょう。ちなみに名前は?」
「1年5組、高石栞です」
「脇田さんと同じクラスの子ね。分かったわ、始めましょう」
というわけで、栞とわっけーの対決が始まる。勝ち負けについては、練習なので2ゲーム先取した方が勝ちという設定となった。
「わっけー、サーブは譲るわよ」
「えっ、いいのか?」
「ええ、いいわよ」
「よーし、いっくぞー、しおりん!」
というわけで、第1ゲームのサーブ権はわっけーが持つ。注目の第一サーブが放たれる!
パコンッ!
高いトスを上げて、いい音とともに勢いよく打ち出されたサーブ。栞はあらかじめ下がって弾道を見極めようとしている。思ったよりも緩いサーブだったので、栞が落ち着いて対処しようとした時だった。
急にサーブが伸びたのだ。思わぬサーブに、栞の反応が狂う。
わっけーのサーブはコート内でワンバウンドすると、そのまま栞の横を抜けてフェンスに当たった。
「よし、先制したぞ!」
わっけーは喜ぶ。ところが、
「フォルト!」
非情なるテニス部部長の声が響き渡る。
「えーっ、なんで?! コートに入ってたじゃん!」
決まったと思っていたわっけーは、抗議の声を上げる。
「脇田さん、あなたにはルールの説明はしましたよね? ちゃんと聞いていなかったんですね。サーブを入れなければならないコートの場所は、どこでしたか?」
その抗議にも、さすがにテニス部の部長は落ち着いていた。
「サーブ自体には問題はないですが、あなたの立つ位置から反対側の、ネット寄りの枠に入れなければならないのです。試合に出るんでしたら、最低限のルールはちゃんと押さえて下さい」
「ぶーぶー」
「文句を言ってないで、うち直して下さい。高石さんの点にしますよ?」
ここまで言われてしまえば、いくらわっけーとはいえおとなしく従った。負けず嫌いなのだ。不満ながらも、わっけーは打ち直しのサーブを放つ。二度目のサーブはちゃんと指定の枠内でバウンドする。
今回のサーブもさっきと同じように伸びるが、栞の対応が早かった。
栞が鋭く振り抜き、わっけーが立っている逆サイドへと鋭い球を打ち返す。それは狙いすましたかのように、ポイントになるコートのラインぎりぎりでバウンドした。
「0-15!」
あまりのうち返しの鋭さに、わっけーが呆然としている。どうやらかなり栞の事を甘く見ていたようである。
「ぐぬぬぬ……、やるな、しおりん! こっからが本番じゃーっ!」
わっけーが叫ぶ。その姿に、栞もぐっと力が入る。
初めのうちこそちぐはぐ気味だったわっけーも、進むにつれて動きがよくなっていく。思わぬラリーが起きたりもして、1ゲームをようやく栞が取るが、その時にはすでに20分以上が経過していた。言っておくが1セットではない、1ゲームだ。たった4ポイントの先取に20分以上である。
(脇田さんのこの体力と勘の鋭さ、それと反応……。これは実力的にも即戦力間違いなしね。ただ、ちょっとまだルールを今一つ理解していないのは問題ですね)
この予想外の打ち合いに、テニス部部長からのわっけーの評価はかなり上がったようだ。その一方で、栞の事も気になっているようだ。
(高石さんは体こそ小さいけれど、それを補って余りある体力と技術がありますね。インパクトの瞬間に捻って回転を入れたり、時には意表を突いたロブを上げたりと、小技が多彩ですね)
そういう評価がなされている間も試合は進んでいく。
「アドバンテージ、高石!」
部長のこの声が響き、2ゲーム目もやっと終わりが見えてきた。この2ゲーム目も接戦となり、さらに15分は経っている。予想外に長引く試合だが、そのレベルの高さにテニス部部長は興奮気味に審判をしている。こんな面白い試合を途中で打ち切るなんて選択肢は、とうに消え去っていた。
2ゲーム目のサーブ権は栞にあって、栞が優位に試合を進めるかと思われた。ところが、わっけーの脅威の粘りに、栞の腕は限界を迎えつつあった。
(結構粘るわね、わっけー。手首が痺れ始めてるから、そろそろ終わりにしなきゃ……)
栞はサーブの準備をしながらわっけーを見る。
(見た感じ、わっけーの方は大丈夫そうだけど、集中が切れかかってる。元から集中できるタイプじゃなさそうだったけど、私への対抗心だけで頑張ってる感じね)
栞はこの長い戦いに決着をつけるべく、渾身のサーブを放つのだった。
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