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第19話 試合、決着す!
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栞のラケットから、勢いよく決死のサーブが打ち出される。
しかし、そのサーブの弾道はしっかりわっけーに見破られていた。
「はっはっはっ! しおりん、まだあたしは負けんぞーっ!」
わっけーがラケットを振り抜き、サーブを打ち返そうとした。だが、その時だった。
ぎゅるん!
ボールがガットの上で激しく回転している。そして、そのままわっけーのラケットからこぼれ、ポーンと跳ね上がったボールはわっけーの後ろへと飛んでいった。
「ゲーム! アンド、マッチウォンバイ、高石!」
ようやく長い戦いが終わった。
テニス部部長の決着宣言が聞こえると、栞は疲れ果ててその場に膝をついた。それと同時に、結果に納得のいかないわっけーが、ネットを飛び越えて栞に突っ掛かってきた。
「しおりん! 今のはどういう事だーっ!」
「どういうって、普通のサーブよ」
両手を上げて叫ぶわっけーに、栞はしれっと答える。
「あの回転のどこが普通だーっ!」
わっけーは更に叫んでいる。今にも掴みかかりそうだったので、審判席から降りてきたテニス部の部長がわっけーと栞の間に入る。
「ええ、あれは立派なスピンサーブですね。あれくらいなら普通に使いますから、普通のサーブですよ。脇田さんも筋はいいですから、練習すればできるようになると思いますよ」
部長は説明しながら、わっけーを持ち上げるような事を言う。するとわっけーは「ホントか?」と目を輝かせながら言っていた。うん、さっきまで怒っていたのはどこ行った?
何はともあれ、わっけーから助けられた栞である。一応お礼を言ったが、やんわりと返された。
「ところで、高石さん」
さっきのやり取りから続けて声を掛けられる栞。これが何を意味するのか勘付いた栞は、すっと内心身構える。
「あれだけの技術と体力、逃す手はないですね。どうでしょう、テニス部に入ってみませんか?」
予想通りの言葉が飛んできた。分かっていたので、栞は、
「お誘いはありがたいのですが、私はすでに陸上部と新聞部に入部していまして、さすがに今回のお誘いはお断りさせて頂きます」
と丁重にお断りをする。この時、栞がちらっとわっけーの方を見たので、テニス部部長は別な理由も悟ったようである。
「そう、それは残念ね」
テニス部部長は少し笑いながら言う。
「そういえば、私の自己紹介がまだでしたね。私はテニス部部長の『丹羽球子と申します」
「私はわっけー……、じゃなかった脇田さんのクラスメイトで『高石栞』と申します」
丹羽部長の自己紹介を受けて、改めて自己紹介をする栞。
「なるほど、栞だから脇田さんは『しおりん』と呼ぶのですね。納得できました」
さっきまで試合の事で頭がいっぱいだったようで、丹羽部長は今その事に気が付いたようである。
この時、栞と丹羽部長が笑っているものだから、わっけーも負けじと笑い出した。ただ、わっけーの笑い声は騒音である。
笑いが落ち着くと、丹羽部長は栞に話し掛ける。
「今日はとても良いものを見させて頂きました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、わざわざ審判をして頂いてありがとうございます」
「そろそろ下校時間が近付いてきましたので、速やかに片づけて帰りましょうか」
「そうですね」
栞と丹羽部長は言葉を交わすと、わっけーもしっかり逃がさずに片付けをする。そして、それが終わると挨拶をして栞とわっけーは下校していった。
二人が居なくなって、丹羽部長は一人自主練を始める。下校時間にはなっているのに帰らないのには理由があった。
しばらく自主練に打ち込んでいた丹羽部長に、一人の男性が近付いてきた。
「遅かったですね」
「いや、待たせてしまったようだね。すまない」
言葉を交わす二人は、どうやら知り合いのようだ。
「それで、そちらはどうでしたか、お父さん」
どうやら、男性は丹羽部長の父親のようだ。この問い掛けに父親はあまりいい感じの顔をしなかった。
「これといった収穫はなかったよ。そっちはどうだったんだ?」
答えてから逆に質問を返す父親。自主練を止めた丹羽部長は、ゆっくりと顔を上げて答える。
「こっちも進展はないけれど、今日は面白い人発見してしまいました。大の大人が中学生の中に紛れているんですもの」
「な、なんだと?! それってまさか……」
父親は驚き、娘である丹羽部長の肩を掴む。しかし、その掴む力が強かったのか、丹羽部長が痛そうな顔をしたので父親は慌てて手を離した。
「す、すまん」
父親は謝る。
「もう、お父さん、慌てすぎですよ」
丹羽部長は右手を腰に当て、左手人差し指を立てて諫めている。そして、お互いにひと呼吸して話を続ける。
「確か『高石栞』って名乗っていました。確か、市役所の市民課の職員ですよね? お父さんも面識があったと思いますが」
「どうだろうかな。確かに去年はよく市役所には行ったが、あまり覚えていないな」
父親の返答は、なんとも曖昧なものだった。というか、丹羽部長はなぜ栞の事を知っているのだろうか。
丹羽部長は腰に手を当てたまま少し考え込んでいる。そして、何かを思いついたのか、ちょっと悪い顔をしている。
「そうですね。でしたら、うまく誘ってお話しする機会を設けましょうか。睨んだ通りなら、つながりのある知り合いが居るはずですから」
父親を見上げるように、小悪魔的な笑みを浮かべて話す丹羽部長。さっきの栞たちとの対応とは大違いである。
この提案に父親は、
「そうだな、お前に任せるとするよ。誘えたらこっちにすぐ連絡をしてくれ」
と、半ば諦めたように返していた。
そして、自主練を切り上げた丹羽部長は、父親と一緒に下校していったのだった。
しかし、そのサーブの弾道はしっかりわっけーに見破られていた。
「はっはっはっ! しおりん、まだあたしは負けんぞーっ!」
わっけーがラケットを振り抜き、サーブを打ち返そうとした。だが、その時だった。
ぎゅるん!
ボールがガットの上で激しく回転している。そして、そのままわっけーのラケットからこぼれ、ポーンと跳ね上がったボールはわっけーの後ろへと飛んでいった。
「ゲーム! アンド、マッチウォンバイ、高石!」
ようやく長い戦いが終わった。
テニス部部長の決着宣言が聞こえると、栞は疲れ果ててその場に膝をついた。それと同時に、結果に納得のいかないわっけーが、ネットを飛び越えて栞に突っ掛かってきた。
「しおりん! 今のはどういう事だーっ!」
「どういうって、普通のサーブよ」
両手を上げて叫ぶわっけーに、栞はしれっと答える。
「あの回転のどこが普通だーっ!」
わっけーは更に叫んでいる。今にも掴みかかりそうだったので、審判席から降りてきたテニス部の部長がわっけーと栞の間に入る。
「ええ、あれは立派なスピンサーブですね。あれくらいなら普通に使いますから、普通のサーブですよ。脇田さんも筋はいいですから、練習すればできるようになると思いますよ」
部長は説明しながら、わっけーを持ち上げるような事を言う。するとわっけーは「ホントか?」と目を輝かせながら言っていた。うん、さっきまで怒っていたのはどこ行った?
何はともあれ、わっけーから助けられた栞である。一応お礼を言ったが、やんわりと返された。
「ところで、高石さん」
さっきのやり取りから続けて声を掛けられる栞。これが何を意味するのか勘付いた栞は、すっと内心身構える。
「あれだけの技術と体力、逃す手はないですね。どうでしょう、テニス部に入ってみませんか?」
予想通りの言葉が飛んできた。分かっていたので、栞は、
「お誘いはありがたいのですが、私はすでに陸上部と新聞部に入部していまして、さすがに今回のお誘いはお断りさせて頂きます」
と丁重にお断りをする。この時、栞がちらっとわっけーの方を見たので、テニス部部長は別な理由も悟ったようである。
「そう、それは残念ね」
テニス部部長は少し笑いながら言う。
「そういえば、私の自己紹介がまだでしたね。私はテニス部部長の『丹羽球子と申します」
「私はわっけー……、じゃなかった脇田さんのクラスメイトで『高石栞』と申します」
丹羽部長の自己紹介を受けて、改めて自己紹介をする栞。
「なるほど、栞だから脇田さんは『しおりん』と呼ぶのですね。納得できました」
さっきまで試合の事で頭がいっぱいだったようで、丹羽部長は今その事に気が付いたようである。
この時、栞と丹羽部長が笑っているものだから、わっけーも負けじと笑い出した。ただ、わっけーの笑い声は騒音である。
笑いが落ち着くと、丹羽部長は栞に話し掛ける。
「今日はとても良いものを見させて頂きました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、わざわざ審判をして頂いてありがとうございます」
「そろそろ下校時間が近付いてきましたので、速やかに片づけて帰りましょうか」
「そうですね」
栞と丹羽部長は言葉を交わすと、わっけーもしっかり逃がさずに片付けをする。そして、それが終わると挨拶をして栞とわっけーは下校していった。
二人が居なくなって、丹羽部長は一人自主練を始める。下校時間にはなっているのに帰らないのには理由があった。
しばらく自主練に打ち込んでいた丹羽部長に、一人の男性が近付いてきた。
「遅かったですね」
「いや、待たせてしまったようだね。すまない」
言葉を交わす二人は、どうやら知り合いのようだ。
「それで、そちらはどうでしたか、お父さん」
どうやら、男性は丹羽部長の父親のようだ。この問い掛けに父親はあまりいい感じの顔をしなかった。
「これといった収穫はなかったよ。そっちはどうだったんだ?」
答えてから逆に質問を返す父親。自主練を止めた丹羽部長は、ゆっくりと顔を上げて答える。
「こっちも進展はないけれど、今日は面白い人発見してしまいました。大の大人が中学生の中に紛れているんですもの」
「な、なんだと?! それってまさか……」
父親は驚き、娘である丹羽部長の肩を掴む。しかし、その掴む力が強かったのか、丹羽部長が痛そうな顔をしたので父親は慌てて手を離した。
「す、すまん」
父親は謝る。
「もう、お父さん、慌てすぎですよ」
丹羽部長は右手を腰に当て、左手人差し指を立てて諫めている。そして、お互いにひと呼吸して話を続ける。
「確か『高石栞』って名乗っていました。確か、市役所の市民課の職員ですよね? お父さんも面識があったと思いますが」
「どうだろうかな。確かに去年はよく市役所には行ったが、あまり覚えていないな」
父親の返答は、なんとも曖昧なものだった。というか、丹羽部長はなぜ栞の事を知っているのだろうか。
丹羽部長は腰に手を当てたまま少し考え込んでいる。そして、何かを思いついたのか、ちょっと悪い顔をしている。
「そうですね。でしたら、うまく誘ってお話しする機会を設けましょうか。睨んだ通りなら、つながりのある知り合いが居るはずですから」
父親を見上げるように、小悪魔的な笑みを浮かべて話す丹羽部長。さっきの栞たちとの対応とは大違いである。
この提案に父親は、
「そうだな、お前に任せるとするよ。誘えたらこっちにすぐ連絡をしてくれ」
と、半ば諦めたように返していた。
そして、自主練を切り上げた丹羽部長は、父親と一緒に下校していったのだった。
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