ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

文字の大きさ
19 / 182

第19話 試合、決着す!

しおりを挟む
 栞のラケットから、勢いよく決死のサーブが打ち出される。
 しかし、そのサーブの弾道はしっかりわっけーに見破られていた。
「はっはっはっ! しおりん、まだあたしは負けんぞーっ!」
 わっけーがラケットを振り抜き、サーブを打ち返そうとした。だが、その時だった。

 ぎゅるん!

 ボールがガットの上で激しく回転している。そして、そのままわっけーのラケットからこぼれ、ポーンと跳ね上がったボールはわっけーの後ろへと飛んでいった。
「ゲーム! アンド、マッチウォンバイ、高石!」
 ようやく長い戦いが終わった。
 テニス部部長の決着宣言が聞こえると、栞は疲れ果ててその場に膝をついた。それと同時に、結果に納得のいかないわっけーが、ネットを飛び越えて栞に突っ掛かってきた。
「しおりん! 今のはどういう事だーっ!」
「どういうって、普通のサーブよ」
 両手を上げて叫ぶわっけーに、栞はしれっと答える。
「あの回転のどこが普通だーっ!」
 わっけーは更に叫んでいる。今にも掴みかかりそうだったので、審判席から降りてきたテニス部の部長がわっけーと栞の間に入る。
「ええ、あれは立派なスピンサーブですね。あれくらいなら普通に使いますから、普通のサーブですよ。脇田さんも筋はいいですから、練習すればできるようになると思いますよ」
 部長は説明しながら、わっけーを持ち上げるような事を言う。するとわっけーは「ホントか?」と目を輝かせながら言っていた。うん、さっきまで怒っていたのはどこ行った?
 何はともあれ、わっけーから助けられた栞である。一応お礼を言ったが、やんわりと返された。
「ところで、高石さん」
 さっきのやり取りから続けて声を掛けられる栞。これが何を意味するのか勘付いた栞は、すっと内心身構える。
「あれだけの技術と体力、逃す手はないですね。どうでしょう、テニス部に入ってみませんか?」
 予想通りの言葉が飛んできた。分かっていたので、栞は、
「お誘いはありがたいのですが、私はすでに陸上部と新聞部に入部していまして、さすがに今回のお誘いはお断りさせて頂きます」
 と丁重にお断りをする。この時、栞がちらっとわっけーの方を見たので、テニス部部長は別な理由も悟ったようである。
「そう、それは残念ね」
 テニス部部長は少し笑いながら言う。
「そういえば、私の自己紹介がまだでしたね。私はテニス部部長の『丹羽球子にわたまこと申します」
「私はわっけー……、じゃなかった脇田さんのクラスメイトで『高石栞』と申します」
 丹羽部長の自己紹介を受けて、改めて自己紹介をする栞。
「なるほど、栞だから脇田さんは『しおりん』と呼ぶのですね。納得できました」
 さっきまで試合の事で頭がいっぱいだったようで、丹羽部長は今その事に気が付いたようである。
 この時、栞と丹羽部長が笑っているものだから、わっけーも負けじと笑い出した。ただ、わっけーの笑い声は騒音である。
 笑いが落ち着くと、丹羽部長は栞に話し掛ける。
「今日はとても良いものを見させて頂きました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、わざわざ審判をして頂いてありがとうございます」
「そろそろ下校時間が近付いてきましたので、速やかに片づけて帰りましょうか」
「そうですね」
 栞と丹羽部長は言葉を交わすと、わっけーもしっかり逃がさずに片付けをする。そして、それが終わると挨拶をして栞とわっけーは下校していった。

 二人が居なくなって、丹羽部長は一人自主練を始める。下校時間にはなっているのに帰らないのには理由があった。
 しばらく自主練に打ち込んでいた丹羽部長に、一人の男性が近付いてきた。
「遅かったですね」
「いや、待たせてしまったようだね。すまない」
 言葉を交わす二人は、どうやら知り合いのようだ。
「それで、そちらはどうでしたか、お父さん」
 どうやら、男性は丹羽部長の父親のようだ。この問い掛けに父親はあまりいい感じの顔をしなかった。
「これといった収穫はなかったよ。そっちはどうだったんだ?」
 答えてから逆に質問を返す父親。自主練を止めた丹羽部長は、ゆっくりと顔を上げて答える。
「こっちも進展はないけれど、今日は面白い人発見してしまいました。大の大人が中学生の中に紛れているんですもの」
「な、なんだと?! それってまさか……」
 父親は驚き、娘である丹羽部長の肩を掴む。しかし、その掴む力が強かったのか、丹羽部長が痛そうな顔をしたので父親は慌てて手を離した。
「す、すまん」
 父親は謝る。
「もう、お父さん、慌てすぎですよ」
 丹羽部長は右手を腰に当て、左手人差し指を立てて諫めている。そして、お互いにひと呼吸して話を続ける。
「確か『高石栞』って名乗っていました。確か、市役所の市民課の職員ですよね? お父さんも面識があったと思いますが」
「どうだろうかな。確かに去年はよく市役所には行ったが、あまり覚えていないな」
 父親の返答は、なんとも曖昧なものだった。というか、丹羽部長はなぜ栞の事を知っているのだろうか。
 丹羽部長は腰に手を当てたまま少し考え込んでいる。そして、何かを思いついたのか、ちょっと悪い顔をしている。
「そうですね。でしたら、うまく誘ってお話しする機会を設けましょうか。睨んだ通りなら、つながりのある知り合いが居るはずですから」
 父親を見上げるように、小悪魔的な笑みを浮かべて話す丹羽部長。さっきの栞たちとの対応とは大違いである。
 この提案に父親は、
「そうだな、お前に任せるとするよ。誘えたらこっちにすぐ連絡をしてくれ」
 と、半ば諦めたように返していた。
 そして、自主練を切り上げた丹羽部長は、父親と一緒に下校していったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...