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第78話 警部という肩書は侮れない
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浦見市の方で動きがあったその頃、根田間市の方でも調査は行われていた。
「運動公園のドリンクサーバーを調べるって、急な話ですね」
根田間市の警察官が抜き打ちの検査にやって来ていた。陸上の記録会で検出された疑わしい成分の検証のためである。公園内にある、すべてのドリンクサーバーが対象で、この日ばかりはすべてが稼働停止となっていた。まずは簡易検査が行われ、疑惑が出たら正式にすべてのドリンクサーバーが使用禁止になる。その後、精密な検査が行われ、容疑が固まれば関係者への取り調べをする予定となっていた。
「度会警部、簡易検査の準備が整いました」
「うむ、始めてくれ」
「はっ!」
現場の指揮を執るのは、水崎警部の警察学校時代の同期である度会警部だ。さわやか中年の水崎警部とは違い、ちょっと強面風の度会警部は、ふくよかな体形も手伝って、立っているだけでかなりの威圧感があった。
(水崎の事を疑うつもりじゃないが、正直言って、俺の管轄下でそんな不祥事を出したくはないものだな。だが、警察官としては悪事に敢然と立ち向かわなければならない。出てきた結果を素直に受け取れるだろうかな)
現場で指揮する度会警部は、どこか祈るような気持ちで立っていた。ドリンクサーバーの一件は自分で確認したわけではないので、完全に信じたわけではないようだった。
だが、そんな度会警部の願いも、あっさりと簡易検査で打ち砕かれてしまう。
ドリンクサーバーの一台から、なんと麻薬成分が検出されたのである。それは、栞が異臭に気が付いたスタジアムにあるドリンクサーバーだった。
この現実に、度会警部は頭を抱えていた。自分の担当する市でもこういう事が起きてしまったのだから、それはショックが大きいものである。だが、いつまでも凹んではいられない。度会警部は最初の決定通り、スタジアムのドリンクサーバーを使用禁止にすると、サーバーそのものの撤去を命じたのだ。警察で押収して、精密な検査が行われるのだ。
ちなみにここ以外のドリンクサーバーには問題がなく、そちらの方は継続使用が認められたのだった。
(ふむ、一応は陸上競技やサッカーの行われるスタジアムだけだったか。ここ2か月間のイベントはこのスタジアムだけでしか行われていないな。という事は、内部事情を知る者の犯行と推測されるな……)
度会警部は、根田間市市役所の振興課から手に入れたスケジュール表を見ながら推測を行う。この総合運動公園には、他にも施設はあるのだ。スタジアム以外にも屋外プール、体育館、テニスコート、野球場などなど、本当に総合運動公園の名にふさわしい設備が揃っている。だが、どういうわけか7月8月のイベント表を見れば、7月下旬に陸上記録会があるだけで、それ以外にはまったくイベントがなかったのである。なぜイベントが行われていなかったのかは、市からの回答はなかった。
とはいえ、この異様な利用状況のおかげで、かえってスタジアムのドリンクサーバーにしか被害が出なかったと言える。不幸中の幸いなのかも知れない。
度会警部はドリンクサーバーの回収を確認すると、内容物の検査を専門家に依頼するように部下に指示を出し、自身は市役所へと向かったのだった。
今日の事は事前に伝えておいたので、市役所に着いた度会警部は、すぐさま振興課の課長と面会する事ができた。その振興課の課長に先程の簡易検査の結果を伝えると、課長は驚いた表情を浮かべてうろたえていた。
「そ、そんなまさか。そんな大それた事を、一体誰が……」
口ぶりからするに、この課長は白だろう。だが、度会警部はそんな事には構っていられない。自分の住む市内でこんな事が行われたのだ。黙って見過ごせるわけがないのである。
度会警部が真剣に説得したために、課長は調査に協力する事を約束してくれた。課長はすぐさま、総合運動公園の担当者名簿や出入り業者などの情報をすぐに集め始めたのだった。
しかし、度会警部も暇ではない。なので、集めた資料などは警察署に届けるように課長に伝えておく。課長がそれを了承したので、度会警部はよろしく頼むと言い残して市役所を後にしたのだった。
市役所から警察署への帰り道、度会警部は妙な視線を感じていた。
(これは……つけられているのか?)
度会警部がミラーを確認してみると、市役所からずっとつけてくる一台の車が居た。たまたま方向が一緒という事が考えられたのだが、ある程度の距離を保ちながらも強引に追ってくる姿が見受けられたのだ。
(なるほど、信号無視までするあたり、完全に狙いは俺という事か)
警察官を長くしていると、ある程度勘が働くようになってくる。度会警部は無線を取ると部下の交通課の警察官に指示を出す。
「今から言うナンバーが信号無視をしたらすぐに捕まえてくれ。念のために防弾チョッキを着けておくのを忘れるな」
しばらくの間、巡回の振りをしてあちこちを走り回る度会警部。そして、信号が変わるタイミングで交差点へ進入すると、後続の車が赤信号を無視して突っ込んできた。
そのタイミングで赤色灯を出して警告を発するさらに後ろの車。度会警部が指示しておいた覆面パトカーである。さすがに度会警部をつけ回していた車は驚いたようで、暴走して覆面パトカーから全力で逃げ出していた。その間に度会警部は無事に警察署に戻り、仕事に戻ったのである。
ちなみにこの時つけ回していた車は後ほど単独事故を起こし、見事にお縄になっていたのだった。
「運動公園のドリンクサーバーを調べるって、急な話ですね」
根田間市の警察官が抜き打ちの検査にやって来ていた。陸上の記録会で検出された疑わしい成分の検証のためである。公園内にある、すべてのドリンクサーバーが対象で、この日ばかりはすべてが稼働停止となっていた。まずは簡易検査が行われ、疑惑が出たら正式にすべてのドリンクサーバーが使用禁止になる。その後、精密な検査が行われ、容疑が固まれば関係者への取り調べをする予定となっていた。
「度会警部、簡易検査の準備が整いました」
「うむ、始めてくれ」
「はっ!」
現場の指揮を執るのは、水崎警部の警察学校時代の同期である度会警部だ。さわやか中年の水崎警部とは違い、ちょっと強面風の度会警部は、ふくよかな体形も手伝って、立っているだけでかなりの威圧感があった。
(水崎の事を疑うつもりじゃないが、正直言って、俺の管轄下でそんな不祥事を出したくはないものだな。だが、警察官としては悪事に敢然と立ち向かわなければならない。出てきた結果を素直に受け取れるだろうかな)
現場で指揮する度会警部は、どこか祈るような気持ちで立っていた。ドリンクサーバーの一件は自分で確認したわけではないので、完全に信じたわけではないようだった。
だが、そんな度会警部の願いも、あっさりと簡易検査で打ち砕かれてしまう。
ドリンクサーバーの一台から、なんと麻薬成分が検出されたのである。それは、栞が異臭に気が付いたスタジアムにあるドリンクサーバーだった。
この現実に、度会警部は頭を抱えていた。自分の担当する市でもこういう事が起きてしまったのだから、それはショックが大きいものである。だが、いつまでも凹んではいられない。度会警部は最初の決定通り、スタジアムのドリンクサーバーを使用禁止にすると、サーバーそのものの撤去を命じたのだ。警察で押収して、精密な検査が行われるのだ。
ちなみにここ以外のドリンクサーバーには問題がなく、そちらの方は継続使用が認められたのだった。
(ふむ、一応は陸上競技やサッカーの行われるスタジアムだけだったか。ここ2か月間のイベントはこのスタジアムだけでしか行われていないな。という事は、内部事情を知る者の犯行と推測されるな……)
度会警部は、根田間市市役所の振興課から手に入れたスケジュール表を見ながら推測を行う。この総合運動公園には、他にも施設はあるのだ。スタジアム以外にも屋外プール、体育館、テニスコート、野球場などなど、本当に総合運動公園の名にふさわしい設備が揃っている。だが、どういうわけか7月8月のイベント表を見れば、7月下旬に陸上記録会があるだけで、それ以外にはまったくイベントがなかったのである。なぜイベントが行われていなかったのかは、市からの回答はなかった。
とはいえ、この異様な利用状況のおかげで、かえってスタジアムのドリンクサーバーにしか被害が出なかったと言える。不幸中の幸いなのかも知れない。
度会警部はドリンクサーバーの回収を確認すると、内容物の検査を専門家に依頼するように部下に指示を出し、自身は市役所へと向かったのだった。
今日の事は事前に伝えておいたので、市役所に着いた度会警部は、すぐさま振興課の課長と面会する事ができた。その振興課の課長に先程の簡易検査の結果を伝えると、課長は驚いた表情を浮かべてうろたえていた。
「そ、そんなまさか。そんな大それた事を、一体誰が……」
口ぶりからするに、この課長は白だろう。だが、度会警部はそんな事には構っていられない。自分の住む市内でこんな事が行われたのだ。黙って見過ごせるわけがないのである。
度会警部が真剣に説得したために、課長は調査に協力する事を約束してくれた。課長はすぐさま、総合運動公園の担当者名簿や出入り業者などの情報をすぐに集め始めたのだった。
しかし、度会警部も暇ではない。なので、集めた資料などは警察署に届けるように課長に伝えておく。課長がそれを了承したので、度会警部はよろしく頼むと言い残して市役所を後にしたのだった。
市役所から警察署への帰り道、度会警部は妙な視線を感じていた。
(これは……つけられているのか?)
度会警部がミラーを確認してみると、市役所からずっとつけてくる一台の車が居た。たまたま方向が一緒という事が考えられたのだが、ある程度の距離を保ちながらも強引に追ってくる姿が見受けられたのだ。
(なるほど、信号無視までするあたり、完全に狙いは俺という事か)
警察官を長くしていると、ある程度勘が働くようになってくる。度会警部は無線を取ると部下の交通課の警察官に指示を出す。
「今から言うナンバーが信号無視をしたらすぐに捕まえてくれ。念のために防弾チョッキを着けておくのを忘れるな」
しばらくの間、巡回の振りをしてあちこちを走り回る度会警部。そして、信号が変わるタイミングで交差点へ進入すると、後続の車が赤信号を無視して突っ込んできた。
そのタイミングで赤色灯を出して警告を発するさらに後ろの車。度会警部が指示しておいた覆面パトカーである。さすがに度会警部をつけ回していた車は驚いたようで、暴走して覆面パトカーから全力で逃げ出していた。その間に度会警部は無事に警察署に戻り、仕事に戻ったのである。
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