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第81話 廃工場に響く声
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夏休み中の浦見市内のある住宅。
「おお、そうか。ご苦労さん。ほな、俺もそっち行くわ。急ぎの用なんやろ?」
部屋の中に幾度となく登場した関西弁が響き渡っている。
「詳しゅうはそっち行ってからや。ほな、待っとるんやで」
こう言ったところで、電話が切れる。さっきまでの朗らかな口調の電話と違って、関西弁の男の表情は厳しかった。
「どうしたの、お父さん」
男の部屋に少女が入ってくる。
「おお、理恵か。どうしたんや?」
「うん、宿題で分からないところがあるから、聞きに来たの」
その少女は阿藤理恵だった。栞たちのクラスメイトで友人の少女だ。
「あー、宿題手伝ってやりたいところやけどな、急な仕事が入ってん。これから行かなあかんから、堪忍な」
「……そっかあ、それじゃ仕方ないなぁ。どうしよう」
「母さんに聞くか、友だちと一緒にしたらええねん。恵ちゃんとか真彩ちゃんとか居るやろ」
左右を見ながらうろたえる理恵に、父親が提案をする。
「うーん、そうしようかな。ごめんなさい、お父さん。忙しいところに声掛けちゃって」
「ええんやで。娘に頼られてこそ父親やろ」
理恵の父親はそう言って、理恵の頭を軽く撫でていた。
「悪いなぁ、今度埋め合わせしたるさかいな。ほな、行ってくるで」
理恵の父親は、前を向いたまま手をひらひらと振って、そのまま家を出ていった。
「うん、行ってらっしゃい、お父さん」
理恵はその姿を静かに見送っていた。
「仕方ない、栞ちゃんにでも教えてもらおうっと」
理恵はそう言って、栞に電話を掛けようとする。
「あっ、栞ちゃんって茂森学区で遠かったんだった。それじゃさすがに可哀想かな。仕方ないから真彩ちゃんにしよう」
結局、理恵は真彩に電話をして一緒に勉強をする事になったのだった。わっけーはうるさいし、教える事はとにかく下手なので候補にも入れられなかったようである。まあ仕方ないね。
そのしばらく後の事。浦見市の郊外にある廃工場での事だった。
「おいこら、急に呼び出してなんやねん。せっかく娘と戯れとったっちゅうに、台無しにしおって!」
関西弁の男は荒れていた。廃工場にある部屋に入るなり、いきなり壁を蹴飛ばして怒っていた。
「す、すみません、兄貴」
「謝っとる暇あるんやったらな、とっとと理由を説明せい!」
びびりながら平謝りする男を、関西弁の男は怒鳴りつけていた。相当に虫の居所が悪いようである。
「へ、へい。実はですね、根田間市の方で動きがありました」
「ほぉ、そいで?」
説明を始めた男を、関西弁の男は強く睨む。説明を始めた男はその鋭い視線にものすごく怯んでいる。その男の方が年上なのに、まるで蛇に睨まれた蛙のようである。
「根田間市の事で対応に当たっていた奴なんですが、根田間市の重要人物と思しき男を追跡していたところ、信号無視でパトカーの追跡を受けて、単独事故を起こしたらしいです」
「で、そいつは?」
途中から聞くのがばからしくなった関西弁の男は、耳の穴をほじくりながら半ば聞き流している。
「けがは無かったらしいですが、危険運転で一時拘留されました。今は釈放されています」
「情けない奴やなぁ。バラそうか、そのボケは」
説明を聞いた関西弁の男はそう吐き捨てた。説明している中年男性は、理解できないのか焦っているようだ。
「ホンマ使えんやっちゃらなぁ……。パトカーが居ったんは偶然やない。追跡に気が付いて、背後につかされとったんや。信号無視するように仕向けてな」
「そ、そんな事が?!」
関西弁の男の推理に、中年男性は酷く驚いている。信じられないといった感じだ。
「噂には聞いとったが、浦見も根田間も、頭の切れる奴が警部に就いとるんやなぁ。敵ながらあっぱれやで」
「では、そいつの扱いは……」
「死にとうなかったら足を洗え、そう伝えとけ。どうせそいつからはこっちには繋がらんからな、捨て置いとけばええわ」
そうは言っている関西弁の男だが、その表情は鬼神のごとき険しさになっていた。中年の男が腰を抜かすくらいには。
「それにしても、今年はやけに妨害されよるなぁ。街からはバーディアのにおいもぷんぷんと臭ってきよる。まったく、あいつらが今さら日本に何の用があるっちゅうねん」
関西弁の男は顎を触りながらいろいろと推測する。
「俺とあいつらは袂を分かった間柄や。俺がいくらどんな事をしようがあいつらには関係ないはずやで?」
ぶつぶつと言い始める関西弁の男。中年の男は震えながらその姿をずっと見ている。
「まあええわ。この俺の邪魔をするっちゅうんなら、徹底的に出し抜いたるだけや。腰の引けたあいつらなど敵ではないからな」
関西弁の男が、ぐるりと中年の男を静かに見下ろす。その静かな眼光に、中年の男は危うく気を失いかけた。そう、関西弁の男の体からは、ただならぬ殺気が漏れ出ていたからだ。
「ふん、腰抜けどもにこの俺を止められるかいな? このレオン・アトゥール様をな!」
関西弁の男改め、レオンの高らかな笑い声が廃工場から響き割る。その様子に、補佐的な立場を務める中年の男は、恐怖におののきながら静かに見守る事しかできなかったのだった。
一体このレオンという男は、何を企んでいるというのだろうか。
「おお、そうか。ご苦労さん。ほな、俺もそっち行くわ。急ぎの用なんやろ?」
部屋の中に幾度となく登場した関西弁が響き渡っている。
「詳しゅうはそっち行ってからや。ほな、待っとるんやで」
こう言ったところで、電話が切れる。さっきまでの朗らかな口調の電話と違って、関西弁の男の表情は厳しかった。
「どうしたの、お父さん」
男の部屋に少女が入ってくる。
「おお、理恵か。どうしたんや?」
「うん、宿題で分からないところがあるから、聞きに来たの」
その少女は阿藤理恵だった。栞たちのクラスメイトで友人の少女だ。
「あー、宿題手伝ってやりたいところやけどな、急な仕事が入ってん。これから行かなあかんから、堪忍な」
「……そっかあ、それじゃ仕方ないなぁ。どうしよう」
「母さんに聞くか、友だちと一緒にしたらええねん。恵ちゃんとか真彩ちゃんとか居るやろ」
左右を見ながらうろたえる理恵に、父親が提案をする。
「うーん、そうしようかな。ごめんなさい、お父さん。忙しいところに声掛けちゃって」
「ええんやで。娘に頼られてこそ父親やろ」
理恵の父親はそう言って、理恵の頭を軽く撫でていた。
「悪いなぁ、今度埋め合わせしたるさかいな。ほな、行ってくるで」
理恵の父親は、前を向いたまま手をひらひらと振って、そのまま家を出ていった。
「うん、行ってらっしゃい、お父さん」
理恵はその姿を静かに見送っていた。
「仕方ない、栞ちゃんにでも教えてもらおうっと」
理恵はそう言って、栞に電話を掛けようとする。
「あっ、栞ちゃんって茂森学区で遠かったんだった。それじゃさすがに可哀想かな。仕方ないから真彩ちゃんにしよう」
結局、理恵は真彩に電話をして一緒に勉強をする事になったのだった。わっけーはうるさいし、教える事はとにかく下手なので候補にも入れられなかったようである。まあ仕方ないね。
そのしばらく後の事。浦見市の郊外にある廃工場での事だった。
「おいこら、急に呼び出してなんやねん。せっかく娘と戯れとったっちゅうに、台無しにしおって!」
関西弁の男は荒れていた。廃工場にある部屋に入るなり、いきなり壁を蹴飛ばして怒っていた。
「す、すみません、兄貴」
「謝っとる暇あるんやったらな、とっとと理由を説明せい!」
びびりながら平謝りする男を、関西弁の男は怒鳴りつけていた。相当に虫の居所が悪いようである。
「へ、へい。実はですね、根田間市の方で動きがありました」
「ほぉ、そいで?」
説明を始めた男を、関西弁の男は強く睨む。説明を始めた男はその鋭い視線にものすごく怯んでいる。その男の方が年上なのに、まるで蛇に睨まれた蛙のようである。
「根田間市の事で対応に当たっていた奴なんですが、根田間市の重要人物と思しき男を追跡していたところ、信号無視でパトカーの追跡を受けて、単独事故を起こしたらしいです」
「で、そいつは?」
途中から聞くのがばからしくなった関西弁の男は、耳の穴をほじくりながら半ば聞き流している。
「けがは無かったらしいですが、危険運転で一時拘留されました。今は釈放されています」
「情けない奴やなぁ。バラそうか、そのボケは」
説明を聞いた関西弁の男はそう吐き捨てた。説明している中年男性は、理解できないのか焦っているようだ。
「ホンマ使えんやっちゃらなぁ……。パトカーが居ったんは偶然やない。追跡に気が付いて、背後につかされとったんや。信号無視するように仕向けてな」
「そ、そんな事が?!」
関西弁の男の推理に、中年男性は酷く驚いている。信じられないといった感じだ。
「噂には聞いとったが、浦見も根田間も、頭の切れる奴が警部に就いとるんやなぁ。敵ながらあっぱれやで」
「では、そいつの扱いは……」
「死にとうなかったら足を洗え、そう伝えとけ。どうせそいつからはこっちには繋がらんからな、捨て置いとけばええわ」
そうは言っている関西弁の男だが、その表情は鬼神のごとき険しさになっていた。中年の男が腰を抜かすくらいには。
「それにしても、今年はやけに妨害されよるなぁ。街からはバーディアのにおいもぷんぷんと臭ってきよる。まったく、あいつらが今さら日本に何の用があるっちゅうねん」
関西弁の男は顎を触りながらいろいろと推測する。
「俺とあいつらは袂を分かった間柄や。俺がいくらどんな事をしようがあいつらには関係ないはずやで?」
ぶつぶつと言い始める関西弁の男。中年の男は震えながらその姿をずっと見ている。
「まあええわ。この俺の邪魔をするっちゅうんなら、徹底的に出し抜いたるだけや。腰の引けたあいつらなど敵ではないからな」
関西弁の男が、ぐるりと中年の男を静かに見下ろす。その静かな眼光に、中年の男は危うく気を失いかけた。そう、関西弁の男の体からは、ただならぬ殺気が漏れ出ていたからだ。
「ふん、腰抜けどもにこの俺を止められるかいな? このレオン・アトゥール様をな!」
関西弁の男改め、レオンの高らかな笑い声が廃工場から響き割る。その様子に、補佐的な立場を務める中年の男は、恐怖におののきながら静かに見守る事しかできなかったのだった。
一体このレオンという男は、何を企んでいるというのだろうか。
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