ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第80話 あふれ出る謎

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「そういえば、カルディさんと軽部副部長って兄弟なんですよね?」
 新聞部の部室にやって来た栞が、調部長に突然尋ねた。
「何ですか、急に。確かに兄弟ですよ、親子ほど年齢は離れていますけれど」
 カチャカチャとパソコンを操作しながら、調部長は質問に答えていた。
「カルディが私と一緒に来たのは、お父様の意向です。カルディは元々はお父様の護衛だったのですが、私を日本に向かわせる際に、父親代わりにと付けさせる事にしたのです。軽部副部長は私と同い年で、長男であるカルディにとっては末弟になります」
 いろいろと説明してくれる調部長。なるほど、兄弟の一番上と一番下なのかと納得のいく栞だった。というか、軽部副部長って何人兄弟なのだろうかと気になる栞だった。
「カルディなら10人兄弟ですよ。男7の女3です。現在のお父様の護衛は次男が担当しています。カルディに劣らぬ優秀な男ですよ」
 栞が尋ねてもいないのに、調部長はさらっと答えていた。考えでも読まれたのだろうかと栞は驚いていた。その間も調部長はパソコンを操作している。
 モニタに映し出されているのは、校長室とその前に設置された隠しカメラの映像である。相変わらず、とんでもない頻度で宅配業者がやって来ていた。何をそんなに届けに来ているのだろうか。
 学校の備品なんてそんなに更新されるような事はない。予備は必ず抱えているし、頼む時はそれなりに個数があるので、これ程までに頻繁に来る事はない。実に怪しい動きだった。
 長期休み中なら学生がほとんど居ないので大量に届けに来る事もあり得るだろうが、よく見ると段ボール1個や2個といった少量の荷物が1日おきくらいに届いているのだ。そして、そのほぼすべてが校長室に運び込まれている。これで怪しむなという方が無理だろう。よっぽど無関心でなければ気になって仕方ないはずである。
 だが、隠し撮りのこの映像を見る限り、それ以上に不審な点があった。
 それは、やって来た宅配業者のうち数社の人間が、必ずと言っていいほど校長室の戸棚を触っている点だった。これは本当に不審としか言いようがない。
 基本的に宅配業者は、荷物を運び込んだらサインだけもらって帰っていくものだ。室内の物を触るなんていう事は、そのまま設置する場合くらいである。ところが、映像に映っている怪しい業者は、人払いをした上で戸棚に触れている。これは見られるとまずいものがあるという事なのだろう。
「まったく何をしているのでしょうね。とはいっても、これだけでは校長室を調べる事は不可能ですね。基本的に生徒は校長室には入りませんし、用事があるなんて事もないですからね。証拠がこの映像だけでは、警察が踏み込む事も不可能です。隠し撮りという手段がゆえに、捜査令状が出せませんから」
 なんとも歯がゆい気持ちで喋っているのがよく分かる。調部長が珍しく、爪を噛むような仕草を見せているからだ。分かっているのに動けないというのは、本当にもどかしくなってしまう。栞にもその気持ちはよく分かるのだった。
「せめてながら、戸棚に入っているものが特定できればいいのですが……」
 調部長が何度見てみても、戸棚を触っているのが見えるが、どうにも箱っぽいものを出し入れしているくらいまでしか特定できなかった。室内全体を映るように隠しカメラを設定したので、手元がよく見えないのである。それに、見つかってはいけないとカモフラージュした事も地味に仇となったようだった。
「……ダメですね。とりあえず、これもコピーして水崎警部に提出ですね。夜中に誰か来たという形跡はありません。怪しい動きがあったのは、すべて昼の宅配業者だけですね」
 調部長は映像を見終わって、USBメモリに映像をコピーしていく。コピーガードを掛けているらしいのだが、どうやってそういう事をしているのだろうか。
「残念ですけれど、コピーガードの方法は企業秘密ですよ。元々ギャング一家ですからね。これくらいの念は入れておかないと、生き残っていけないんですよ」
 コピー中、調部長はニコッと笑ってそんな事を言っていた。
 本当に見るからに頼りがいがあって物腰の柔らかいお姉さんといった感じの調部長だが、世界を股にかけたギャング一家のボスの長女なのである。肝の据わり方が違っていた。
「……この映像を見て動ける人間は、実はたった一人だけ居るんですよね」
「それは?」
 パソコンに向き直った調部長がぽろっとこぼした言葉に、栞は反応する。
「言わずと知れた人物ですよ。この草利中学校の校長先生です」
「ああ、確かに」
 そういえばそうだったと驚く栞。
 校長室を日常的に使える人物は、実は二人居る。校長先生と教頭先生である。そして、その校長先生は調部長の父親、バロック・バーディアと面識があって、調部長が中学校にやって来る際に便宜を図っていたのだ。つまり、調部長にとっては信用のできる人物であり、現時点では味方のはずなのである。だからこそ、調部長はさっきの発言をしたのである。
 しかし、この校長先生にもあまり期待はできなかった。なにせここまでの約2年半の間、一回たりとも調部長の前に姿を見せていないのである。新聞部の顧問であるにもかかわらずだ。つまり、情報を渡せるくらいの信用はあるが、事態を解決できるほどの期待はできないという事なのだった。
「さて、コピーが終わりました。浦見市警察署に赴きましょうか」
「あっはい、そうですね」
 こうして、調部長と栞は、新聞部の部室を後にしたのだった。
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