ひみつ探偵しおりちゃん

未羊

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第92話 柵の外にはご用心

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 体育祭の翌日は振り替え休日という事で学校は休みとなっていたのだが、この日も栞は学校にやって来ていた。いつものように自主練習である。本当に走ってないと落ち着かない栞である。二度目の学生生活ですっかり若返ったような感じだ。いや、実年齢もまだ20歳前半ではあるけれど。
 栞の一度目の学生時代も、本当に朝から夕方まで走っているような感じだったのだ。もはや走るために生きてると言っても過言ではないレベルだった。
 というわけで、こんな振り替え休日の日でも学校へやって来ているのである。
 まあ、自主練習というのは建前で、久しぶりの校内調査なのである。平日ながらに学生はほとんど居ないので、気兼ねなく見て回れるというわけなのだ。
 この学校で一番怪しいのは校長室なのだが、たまたまカメラを仕掛けられたとはいっても、この部屋は下手に触れない。この部屋だけは教頭が自ら清掃をしているらしいが、特にカメラが見つけられたという事もなかった。簡単に見つかる場所には仕掛けてないとはいえ、その話を聞いた時は思わず肝を冷やした。まあ、現状では見つかっていないらしく、校長室の映像はしっかりと記録として残っている。
 それにしても、資料に書かれていた噂のほとんどが現状確認できていないのは不思議で仕方がなかった。学校内はほとんど調べつくしたはずなのに、結局発見して解決できたのは給食費くらいである。あれは慣例として堂々と行われていたからこそすぐに摘発できたわけで、噂の中では特殊と言える。
 もう一つ解決できたのは、飛田先生の事だ。いやまさか一介の教師に、学校設備の補修をさせてるなんて、誰が想像しえただろうか。できるわけがない。
 これに関しても、飛田先生がとび職の家系という特殊事情があったからこそできたというのがある。というか、いくらとび職の家系とはいっても、教師がやる事自体おかしい。専門職じゃないわけなのだから。
 ふと栞が空を見上げると、屋上に人影が見えた。栞が急いでそこに向かうと、そこに居たのは案の定、飛田先生だった。なんでこの人も休みの日に学校に来てるのでしょうかね。
「飛田先生、なんでいらっしゃるんですかね」
「いやはや、職業病というやつですよ。屋上からなら、校内の様子が一望できますから、ちょっと悩みがあったりするとふらっと立ち寄ってしまうんです」
「悩みのある時に屋上って……。めちゃくちゃ怖い話なんですけどね」
「ははは、ご心配ありがとうございます」
 飛田先生が明るく笑っている。
「まあ、手すりのチェックというのがありますからね。屋上は立入禁止になっている理由は、以前、屋上に立ち入って転落した生徒が居るからなんですよ。人が立ち入らなくなった分、劣化のチェックもやりにくくなってますからね。ネジが取れたり錆びたりして、万一柵が屋上から落下なんて事があってはいけませんから」
「あー、そんな記事確かありましたね……」
 飛田先生から出た転落した生徒の話は、栞が高校に通っていた時の話である。草利中学校の屋上から誤って柵を乗り越えてしまい、そのまま落っこちてしまった学生が居た。4階建ての校舎なので、実に14mほどの高さからである。ただ、この時は下に途中の木に当たり、さらには植え込みもあった事で大怪我で済んでいた。それでもあばら数本を折るし、かなり危険な状態だったらしいのだが……。
 まあ、そんな痛ましい事故があったために、草利中学校の屋上は立入禁止になっているのである。現在立ち入れるのは、飛田先生だけである。
 少し話をしていた栞たちだったが、下の方でトラックのエンジン音が聞こえてきた。何が来たのかと覗き込む栞たちだったが、次の瞬間、栞は飛田先生の体を後ろへと思いっきり引っ張った。次の瞬間、柵がキンと音を立てて、素早く震えた。
「あたたたた……。何をするんですか、高石さん」
「飛田先生。ここを早く離れましょう」
「えっ、どういう事ですか?」
 栞は有無も言わさず、無言で屋上から出ていく。そして、飛田先生に鍵を掛けさせると、そのまま4階へと降りていった。
「胸元が光ったから反応できたけど、まさかこんな白昼堂々とやらかすなんて思ってもみなかったわよ……」
「えっと、それはどういう事ですか?」
「銃撃よ。まったくそんなものを持ち歩けるなんて、あのトラックの会社どういう指導してんのよ」
 栞はぷんすかと怒っている。
 というか、日本じゃそもそも銃刀法で所持ができない。警察とかの例外はあるが、基本は持てない。まあ、カルディも持ってはいるが、あれは特殊だ。
 今回の問題はトラックから降りてきた人物が、ドアの陰になるような位置から正確にこっちへ撃ってきた事だ。あの一瞬でこっちの気配に気が付いて撃ってきたという事になる。実に短絡的な話だが、これはつまり、見られてはやばいものを運んでいるという事なのだろう。
 とりあえずどういう事であれ、栞たちはしばらく4階の部屋で身を隠して過ごした。もし下手に出歩いて出くわすと、それこそ命の保証がないからだ。あれだけ上空から視線に敏感に反応する相手なのだ。本当にどうなるのか分からない。
 結局栞たちは、その後3回チャイムを聞くまでそこに隠れ続けたのだった。
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