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第93話 抉り込む
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学校から走り去ったトラックは、その後も仕事を続けていた。
「あ、兄貴。一体どうしたんですか? いきなりあんな事をして、俺は寿命が縮む思いでしたよ」
助手席に座る男が、運転する男におそるおそる問い掛けている。だが、運転席に座る男はそれに一切答える事なく、無言のままトラックを走らせていた。
「あ、兄貴……」
「黙れや、ボケェ! ……俺にも分からんが、あの時、屋上にやばい奴が居ったんは間違いない。俺の直感が騒いだんや、屋上の奴を消せとな」
しつこい助手席の男に、運転席の男は怒鳴りつける。この特徴的な口調、運転席に座っていたのはレオン・アトゥールだった。
だが、そのレオンをもってしても、あの時の自分の行動は理解不能だった。周りに見られる危険性まで冒して、なぜあそこで銃を取り出して撃ったのか。
それでも、あの時には間違いなく、レオンの直感が告げていたのだ。屋上に居る奴を消せと。しかし、その直後にレオンは冷静さを取り戻し、今は普通に配送の仕事に戻っていた。
(あの時、確かにちらっとだけ屋上に人影が見えた。せやけど、あの反応は尋常やない。俺のチャカに気付いて、撃つ前に反応しとる……)
レオンにとっても、あの時の出来事は鮮明に覚えていられるくらいには衝撃的だった。
(はっ、俺の銃撃を躱せる人物とは、おもろいなぁ……。どこの誰かは知らへんけど、俺の興味を引いた事は、あの世で後悔するんやなぁ……)
思い出せば思い出すほど、レオンは胸の高鳴りを覚えていた。これだけ自分の興味を引く人物。それが一体誰なのか、正体を突き止めたくて仕方がなくなってきていた。その時のレオンの笑みに、助手席の人物は血の気が引いたように怯えていた。
この時のレオンはかなり気分的にもやもやしていたのだが、自分の興味を引く人物の登場に、次第に高揚感を覚えていった。これはまるで初めてカルディを見た時のような感覚だった。
この後のレオンたちの配送なのだが、そういう気持ちの高ぶりもあって、実にスムーズに終わったのだった。
ただ、助手席の男だけは見た事のないレオンの姿に終始怯えていたらしい。
一方の学校に居た栞たち。監視が誰も居なくなった事を確認すると、改めて屋上に出ていた。
「やっぱり、これ、銃弾の跡ですね」
栞はさっき居た場所を確認していた。屋上の手すりには何かがぶつかって大きく抉れた跡が見つかった。
「高石さん、これは?」
「ええ、さっきの銃撃の跡ですよ。ただ、貫通してしまっていますし、この分じゃ銃弾を探そうにもかえってこっちが怪しくなってしまいますね」
栞はスマホを取り出して、抉れた跡を撮影しておく。しかし、これを誰かに伝えたところで、まともに取り合ってもらえるか分からない。それどころか、銃撃した犯人にこちらを特定されて襲われる可能性だってある。水崎警部や調部長に相談したいところだが、これはリスクとの兼ね合い次第といったところだった。
「とりあえず、これはこのままにしておきましょう。どうせ飛田先生しかここには来れないんですし、下手に騒げば飛田先生に危険が及んでしまいます」
栞は撮影を終えて、飛田先生にそう言う。
自分たちはあくまでも調査員だ。今回の事は草利中学校の事とは現状無関係であるし、変なリスクを背負いこむ必要はない。栞は慎重な対応を取る事にした。
「ひとまず、LISEを使って水崎警部にだけは報告しておきましょう。直接会うのは顔が割れる危険性がありますからね」
栞のその言葉に、飛田先生は静かに頷いていた。
栞は見た目は子どもだが、その頭脳は本当に驚くべきレベルである。これが市の職員かと思うと、正直疑いたくなるほどだった。
なにせ、反射光から拳銃を判別して反応するというだけで、常人離れをしているのだ。飛田先生も十分常人とは言えないところはあるが、その飛田先生をして驚かれる栞なのである。
とりあえず対応が決まると後は早かった。屋上に居る事はリスクがあるので早々に立ち去ると、栞は飛田先生と別れて帰路に就いた。
そして、屋上の手すりの抉れた跡を水崎警部に送って、自分のスマホからその写真を削除しておいた。残しておくと後々厄介事になるかも知れないからだ。特にわっけーには注意が必要だ。
(はー、驚いたわ。屋上から覗いただけで銃撃されるなんて思わなかったわよ。それくらいに、あの時のトラックに乗っていた人物は何かに警戒していたって事よね。となると、あの時運んでいた荷物は相当に危険なものって事なのかしらね)
帰路を急ぎながら、栞はそう考えていた。
こうなると、栞はもう一か所にもLISEで連絡を入れたおいた。隠しカメラの映像の転送先である新聞部、その部長である調部長だった。
しばらくして、二人から驚きにあふれた返信があったのは言うまでもない。
この事を受けて、栞と水崎警部と調部長は、秘密裏に顔を合わせる約束をした。
今は噂の調査として秘密裏に証拠を集めている段階だ。現行犯以外では捕まえるのは厳しいだろう。そういう事もあって、ここまで得られた情報を互いにすり合わせて共有必要があると考えたのだ。
はたして、草利中学校を舞台にして暗躍する者たちの正体を明かす事ができるのだろうか。栞たちの戦いはまだまだ続くのである。
「あ、兄貴。一体どうしたんですか? いきなりあんな事をして、俺は寿命が縮む思いでしたよ」
助手席に座る男が、運転する男におそるおそる問い掛けている。だが、運転席に座る男はそれに一切答える事なく、無言のままトラックを走らせていた。
「あ、兄貴……」
「黙れや、ボケェ! ……俺にも分からんが、あの時、屋上にやばい奴が居ったんは間違いない。俺の直感が騒いだんや、屋上の奴を消せとな」
しつこい助手席の男に、運転席の男は怒鳴りつける。この特徴的な口調、運転席に座っていたのはレオン・アトゥールだった。
だが、そのレオンをもってしても、あの時の自分の行動は理解不能だった。周りに見られる危険性まで冒して、なぜあそこで銃を取り出して撃ったのか。
それでも、あの時には間違いなく、レオンの直感が告げていたのだ。屋上に居る奴を消せと。しかし、その直後にレオンは冷静さを取り戻し、今は普通に配送の仕事に戻っていた。
(あの時、確かにちらっとだけ屋上に人影が見えた。せやけど、あの反応は尋常やない。俺のチャカに気付いて、撃つ前に反応しとる……)
レオンにとっても、あの時の出来事は鮮明に覚えていられるくらいには衝撃的だった。
(はっ、俺の銃撃を躱せる人物とは、おもろいなぁ……。どこの誰かは知らへんけど、俺の興味を引いた事は、あの世で後悔するんやなぁ……)
思い出せば思い出すほど、レオンは胸の高鳴りを覚えていた。これだけ自分の興味を引く人物。それが一体誰なのか、正体を突き止めたくて仕方がなくなってきていた。その時のレオンの笑みに、助手席の人物は血の気が引いたように怯えていた。
この時のレオンはかなり気分的にもやもやしていたのだが、自分の興味を引く人物の登場に、次第に高揚感を覚えていった。これはまるで初めてカルディを見た時のような感覚だった。
この後のレオンたちの配送なのだが、そういう気持ちの高ぶりもあって、実にスムーズに終わったのだった。
ただ、助手席の男だけは見た事のないレオンの姿に終始怯えていたらしい。
一方の学校に居た栞たち。監視が誰も居なくなった事を確認すると、改めて屋上に出ていた。
「やっぱり、これ、銃弾の跡ですね」
栞はさっき居た場所を確認していた。屋上の手すりには何かがぶつかって大きく抉れた跡が見つかった。
「高石さん、これは?」
「ええ、さっきの銃撃の跡ですよ。ただ、貫通してしまっていますし、この分じゃ銃弾を探そうにもかえってこっちが怪しくなってしまいますね」
栞はスマホを取り出して、抉れた跡を撮影しておく。しかし、これを誰かに伝えたところで、まともに取り合ってもらえるか分からない。それどころか、銃撃した犯人にこちらを特定されて襲われる可能性だってある。水崎警部や調部長に相談したいところだが、これはリスクとの兼ね合い次第といったところだった。
「とりあえず、これはこのままにしておきましょう。どうせ飛田先生しかここには来れないんですし、下手に騒げば飛田先生に危険が及んでしまいます」
栞は撮影を終えて、飛田先生にそう言う。
自分たちはあくまでも調査員だ。今回の事は草利中学校の事とは現状無関係であるし、変なリスクを背負いこむ必要はない。栞は慎重な対応を取る事にした。
「ひとまず、LISEを使って水崎警部にだけは報告しておきましょう。直接会うのは顔が割れる危険性がありますからね」
栞のその言葉に、飛田先生は静かに頷いていた。
栞は見た目は子どもだが、その頭脳は本当に驚くべきレベルである。これが市の職員かと思うと、正直疑いたくなるほどだった。
なにせ、反射光から拳銃を判別して反応するというだけで、常人離れをしているのだ。飛田先生も十分常人とは言えないところはあるが、その飛田先生をして驚かれる栞なのである。
とりあえず対応が決まると後は早かった。屋上に居る事はリスクがあるので早々に立ち去ると、栞は飛田先生と別れて帰路に就いた。
そして、屋上の手すりの抉れた跡を水崎警部に送って、自分のスマホからその写真を削除しておいた。残しておくと後々厄介事になるかも知れないからだ。特にわっけーには注意が必要だ。
(はー、驚いたわ。屋上から覗いただけで銃撃されるなんて思わなかったわよ。それくらいに、あの時のトラックに乗っていた人物は何かに警戒していたって事よね。となると、あの時運んでいた荷物は相当に危険なものって事なのかしらね)
帰路を急ぎながら、栞はそう考えていた。
こうなると、栞はもう一か所にもLISEで連絡を入れたおいた。隠しカメラの映像の転送先である新聞部、その部長である調部長だった。
しばらくして、二人から驚きにあふれた返信があったのは言うまでもない。
この事を受けて、栞と水崎警部と調部長は、秘密裏に顔を合わせる約束をした。
今は噂の調査として秘密裏に証拠を集めている段階だ。現行犯以外では捕まえるのは厳しいだろう。そういう事もあって、ここまで得られた情報を互いにすり合わせて共有必要があると考えたのだ。
はたして、草利中学校を舞台にして暗躍する者たちの正体を明かす事ができるのだろうか。栞たちの戦いはまだまだ続くのである。
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