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第118話 わっけーの異変
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いろいろと思惑が交錯する中、いよいよ迎えた2学期の中間テスト。相変わらずわっけーは栞に宣戦布告をしていて、やる気十分で中間テストを迎えていた。
テスト日程は初日が英数国、2日目が理社という形だった。三教科+αという形である。
正直テストを受けているような状況下にはないものの、学生という立場をしている以上、栞もテストから逃げるわけにはいかなかった。
(はあ、気になる事が多すぎて、正直身が入らなかったのよね……。でもまあ、手は抜きたくないからやれるだけやってはみたけどね)
栞はため息を吐きながらもテスト問題をさらさらと解いていっていた。それを教室の一番隅っこから見ていたわっけーも、気合いは十分なのである。
なぜ隅っこにわっけーが居るのか。それはテストの時だけ席の順番が五十音順に戻るためである。わっけーの名字は『脇田』であるがために、どうしても教室の隅っこになってしまうのだった。
ついでに、テストの休み時間となるとさすがのわっけーも静かだった。始まる前はあんなにうるさかったのに不思議なものである。
だが、クラスの中はこの異様な光景に騒めいていた。実はここまでのテストの休憩時間もわっけーは騒がしかったのである。それがこの日はまったくもってだんまりをしている。だから、クラスの中が騒がしいのである。
「あのわっけーが静かだ……」
「今日は雨でも降るのかしら」
「いや、天変地異の前触れだぞ!」
酷い言い草ではあるものの、休憩時間にわっけーが静かなのはそれくらいにありえない事なのだった。
(酷い言われようだけど、そう思われても仕方ないものねえ、普段のわっけーを見ていると)
栞もこう思うくらいである。普段がどれだけうるさいのかが分かるのだ。
だが、そんな事を気にしていては目の前のテストでこけてしまう。栞は頬を二度叩いて気合いを入れ直すのだった。
初日のテストが終わると、
「すまん、あたしはこれから行く所があるのだ。しおりん、絶対テストは負けないからな!」
珍しく一般人並みの声量で話すわっけー。その様子に驚きながらも、栞たちはわっけーを見送ったのだった。
「珍しいよね、わっけーが静かだなんて」
「うん、わっけー、何かあったのかな?」
真彩と理恵が気にするレベルである。これはただ事ではないと、栞はこっそりとその後をつけようと考えた。
(いや待てよ。自転車で追いかけるのは大変よね。それにわっけーは私に対して執着しているし、気付かれないなんてまず無理か……)
思い直した栞は、結局尾行を諦めた。
とはいえども、栞だってこんなわっけーを見るのは初めてである。気になって仕方がないのである。
初日のテストを終えたわっけーは、なんと浦見市警察署を訪れていた。一度家に戻ってから私服に着替えた上で自転車に乗ってやって来たのである。それにしても、10月だとはいっても半袖短パンにサイハイとは、わっけーらしい健康的な姿である。
頭脳明晰でありながらも普段はどこかふざけており、風邪をも吹き飛ばす健康優良児のわっけー。ところが、この時は眼鏡に帽子という、ちょっとした変装を入れていた。自分が警察署に来ている事を悟られたくないようである。
「さてさて、周りに知り合いは……居ないようなのだ」
慎重に周りを確認しながら警察署に入っていくわっけー。
「すみません、まあパパ……じゃなかった水崎警部はいらっしゃいますか?」
普段の口調とは違った丁寧語を話すわっけー。
「あら、お嬢ちゃん。警部に何の用なのかしら」
受付に居た女性職員が笑顔で気さくに対応してくれている。
「警部さんにお話があるのだ。じゃなかった、お話があるんです」
ついつい普段の口調が顔を出すわっけーである。慣れない事はするものではない。
「えっと、予約も無しに警部にご用事というのは、聞き入れられませんね」
わっけーの要求に職員も困り顔である。
「それに、警部はお忙しい身ですから、私たちもどこに居るのか把握できていません。そのご希望にはお応えかねます」
「そこをなんとかなのだ。ようやく、ようやく情報を集め終えたのだ。あたしじゃ、ここまでが限界なのだ」
今にも泣きそうなわっけーに、職員が対応に困り果ててしまった。その時だった。
「おや、その声は恵子ちゃんかな?」
「まあパパ!」
聞こえてきた声に、つい大声を出してしまうわっけーである。
「どうしたんだい。こんな所にまでやって来て。真彩と勝から聞いてるが、今日はテストじゃなかったのか?」
「テストの間だからやって来たのだ。今、ここでしか時間が取れないのだ」
わっけーに優しく声を掛ける水崎警部に対して、わっけーは取り乱したように精一杯話をしている。その様子に何かを感じた水崎警部は、わっけーの顔をじっと見た。
「その様子だと、大事な話があるようだな」
水崎警部の問い掛けに、わっけーは無言のまま大きく頷いた。そのあまりの様子に、水崎警部はしばらく考え込んだ。そして、
「分かった。部屋を用意するからそこで話を聞こう。君、第2会議室を使用中にしておいてくれ」
「畏まりました」
職員に指示を出すと、水崎警部はわっけーを連れて会議室へと向かったのだった。
わっけーは、持って来ていたノートパソコンをきゅっと強く握りしめた。
テスト日程は初日が英数国、2日目が理社という形だった。三教科+αという形である。
正直テストを受けているような状況下にはないものの、学生という立場をしている以上、栞もテストから逃げるわけにはいかなかった。
(はあ、気になる事が多すぎて、正直身が入らなかったのよね……。でもまあ、手は抜きたくないからやれるだけやってはみたけどね)
栞はため息を吐きながらもテスト問題をさらさらと解いていっていた。それを教室の一番隅っこから見ていたわっけーも、気合いは十分なのである。
なぜ隅っこにわっけーが居るのか。それはテストの時だけ席の順番が五十音順に戻るためである。わっけーの名字は『脇田』であるがために、どうしても教室の隅っこになってしまうのだった。
ついでに、テストの休み時間となるとさすがのわっけーも静かだった。始まる前はあんなにうるさかったのに不思議なものである。
だが、クラスの中はこの異様な光景に騒めいていた。実はここまでのテストの休憩時間もわっけーは騒がしかったのである。それがこの日はまったくもってだんまりをしている。だから、クラスの中が騒がしいのである。
「あのわっけーが静かだ……」
「今日は雨でも降るのかしら」
「いや、天変地異の前触れだぞ!」
酷い言い草ではあるものの、休憩時間にわっけーが静かなのはそれくらいにありえない事なのだった。
(酷い言われようだけど、そう思われても仕方ないものねえ、普段のわっけーを見ていると)
栞もこう思うくらいである。普段がどれだけうるさいのかが分かるのだ。
だが、そんな事を気にしていては目の前のテストでこけてしまう。栞は頬を二度叩いて気合いを入れ直すのだった。
初日のテストが終わると、
「すまん、あたしはこれから行く所があるのだ。しおりん、絶対テストは負けないからな!」
珍しく一般人並みの声量で話すわっけー。その様子に驚きながらも、栞たちはわっけーを見送ったのだった。
「珍しいよね、わっけーが静かだなんて」
「うん、わっけー、何かあったのかな?」
真彩と理恵が気にするレベルである。これはただ事ではないと、栞はこっそりとその後をつけようと考えた。
(いや待てよ。自転車で追いかけるのは大変よね。それにわっけーは私に対して執着しているし、気付かれないなんてまず無理か……)
思い直した栞は、結局尾行を諦めた。
とはいえども、栞だってこんなわっけーを見るのは初めてである。気になって仕方がないのである。
初日のテストを終えたわっけーは、なんと浦見市警察署を訪れていた。一度家に戻ってから私服に着替えた上で自転車に乗ってやって来たのである。それにしても、10月だとはいっても半袖短パンにサイハイとは、わっけーらしい健康的な姿である。
頭脳明晰でありながらも普段はどこかふざけており、風邪をも吹き飛ばす健康優良児のわっけー。ところが、この時は眼鏡に帽子という、ちょっとした変装を入れていた。自分が警察署に来ている事を悟られたくないようである。
「さてさて、周りに知り合いは……居ないようなのだ」
慎重に周りを確認しながら警察署に入っていくわっけー。
「すみません、まあパパ……じゃなかった水崎警部はいらっしゃいますか?」
普段の口調とは違った丁寧語を話すわっけー。
「あら、お嬢ちゃん。警部に何の用なのかしら」
受付に居た女性職員が笑顔で気さくに対応してくれている。
「警部さんにお話があるのだ。じゃなかった、お話があるんです」
ついつい普段の口調が顔を出すわっけーである。慣れない事はするものではない。
「えっと、予約も無しに警部にご用事というのは、聞き入れられませんね」
わっけーの要求に職員も困り顔である。
「それに、警部はお忙しい身ですから、私たちもどこに居るのか把握できていません。そのご希望にはお応えかねます」
「そこをなんとかなのだ。ようやく、ようやく情報を集め終えたのだ。あたしじゃ、ここまでが限界なのだ」
今にも泣きそうなわっけーに、職員が対応に困り果ててしまった。その時だった。
「おや、その声は恵子ちゃんかな?」
「まあパパ!」
聞こえてきた声に、つい大声を出してしまうわっけーである。
「どうしたんだい。こんな所にまでやって来て。真彩と勝から聞いてるが、今日はテストじゃなかったのか?」
「テストの間だからやって来たのだ。今、ここでしか時間が取れないのだ」
わっけーに優しく声を掛ける水崎警部に対して、わっけーは取り乱したように精一杯話をしている。その様子に何かを感じた水崎警部は、わっけーの顔をじっと見た。
「その様子だと、大事な話があるようだな」
水崎警部の問い掛けに、わっけーは無言のまま大きく頷いた。そのあまりの様子に、水崎警部はしばらく考え込んだ。そして、
「分かった。部屋を用意するからそこで話を聞こう。君、第2会議室を使用中にしておいてくれ」
「畏まりました」
職員に指示を出すと、水崎警部はわっけーを連れて会議室へと向かったのだった。
わっけーは、持って来ていたノートパソコンをきゅっと強く握りしめた。
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