117 / 157
第117話 バーディアの憂鬱
しおりを挟む
草利中学校の校長が出てきて一番頭を悩ませているのは、実は調部長だった。姿を見た事なかったとはいえ、まさか父親の友人だとは思っていなかったのだ。なるほど、だから自分をこうやって受け入れてくれたのかと、妙に納得ができてしまった。
それにしても、普段からひょうひょうとふざけていた軽部副部長、護衛のカルディの弟が、まさかその校長先生とつながっていたというのは驚きである。
調部長が軽部副部長の方をじっと見ているが、相変わらずゲーム機を弄っている状態だった。このふざけた行動の裏を見抜けなかった事に、調部長は正直ショックを隠し切れなかった。
「カルディ、軽部副部長……ジャンの事は知っていたのですか?」
家事をしているカルディに、調部長は問い掛ける。
「はい。ですが、鳥子……メロディお嬢様には秘密にするようにと言われておりましたので、お話しする事はできませんでした」
カルディは申し訳なさそうに話していた。
「……そうですか。この分だとお父様もご存じなのでしょうね。私とリリックだけが知らなかったというわけですか」
調部長がじっと視線を向けると、詩音はびっくりしたような反応を示していた。
「リリックお嬢様はかなり自由ですから、特に教えないようにと口酸っぱく言われましたね。こうやって話せているのも、以前の性格が改善されたからと言えますでしょう。……ただ、そのきっかけが誘拐だったのは頂けない話ではございますが」
カルディはこう言っているが、以前の詩音、リリック・バーディアはかなり奔放なところがあったのだ。だが、先日の事件以来すっかり他人に怯えるようになってしまい、おとなしくなってしまったのである。実に痛ましい事件ではあったのだが、これがあったからこそ、リリックにも話す事ができたのである。
「私、怖いけど、姉さんたちの手伝いはちゃんとするわ」
話を静かに聞いていた詩音は、思い切って調部長たちにそう宣言する。
「リリック、気持ちは嬉しいけれど無茶はダメよ。家の事の手伝いくらいにして、それ以外はなるべく私か高石さんから離れないようにして下さいね」
詩音の気持ちを汲み取った調部長だが、さすがにあんな目にこれ以上遭って欲しくはないので、ストレートに詩音を説得にかかる。その調部長の説得に、詩音は力なく納得したのだった。あれだけ意気込んで来たのに結果がこれでは、納得したくなくてもせざるを得ないのである。
「でも、私だってバーディアの人間だもん。いざっていう時は私も使ってほしいの、姉さん」
それでも精一杯に宣言する詩音。あまりに必死な表情に、調部長も仕方ないなといった顔をする。そして、詩音に近付いて言う。
「ええ、できる限りはそうならないようにしますけれど、万一という時には頼りにしてますよ」
調部長がこう言うと、詩音は一瞬驚いた顔をした後、キリッと表情を引き締めていた。その顔を見た調部長は、一瞬昔の詩音の事を思い出したようで、優しく微笑みながらその頭を優しく撫でていた。こういうやり取りは、元ギャングの家の人間とはいっても普通の姉妹のように見えるのである。
「レオンの今一番の狙いは教頭だろうぜ」
そこへ空気を壊すかのような発言が飛んでくる。ゲームを弄り倒している軽部副部長だった。
「お嬢たちが狙われているのは変わらないけど、今あいつにとって一番不都合なのは麻薬を流していた相手である教頭だ。俺たちが隠し撮りしてた映像だけじゃ確証は弱いけど、あいつが口を割ればレオンたちにとって都合が悪いからな」
普段はふざけてはいるものの、まじめになれば意外とちゃんと働く軽部副部長である。
「そういえば、スナイパーとしてその筋では有名な校長先生の弟さんが、レオンの依頼を受けて動いているというような話がありましたね」
「ございましたね。校長先生と水崎警部でうまく隠しているとは仰っていましたが、相手が校長先生の弟ですので、どこまで隠し通せるか不安だとも仰られていましたね」
軽部副部長の話を聞いて、調部長とカルディがそれぞれに思い出していた。それにしても、一体どこからそういう情報をかぎつけるか、四方津兄弟の能力は恐ろし過ぎである。
「何にしても、教頭を殺るまでは執拗に狙ってくるだろうな。こっちもこっちだけど、向こうだって頭の切れる連中みたいだし、正直頭脳戦なんてお断りなんだよな……」
ガチャガチャとゲームを操作しながら喋る軽部副部長である。
「げっ、そんなんありかよ……」
ゲーム画面を見ながら呟く軽部副部長。何かをやらかしたらしい。
「くっそう、自分の周りだけ安全圏にして誘い出して、そこに即死級の技とかありえねーだろ……。デスコンボじゃねえか」
なんだか理不尽な攻撃を受けたらしい。その呟きを聞いて調部長は笑っている。だが、その時閃いた。
「そうですね。あえて無防備にして誘い出して、そこを仕留めるという方法は悪くなさそうですね」
「……相手の頭が切れるっていうのなら、相当に危険な賭けだぞ」
調部長の思惑に、軽部副部長が警告を入れる。
「ですが、相手がやり手というのなら、そういうのも悪くはないでしょう?」
「……初見殺しか。悪くはないかもね」
どうやら、レオンの切り札であるスナイパーを封じる作戦を思いついたようだ。しかし、それが果たしてうまくいくかはまったく分からない事なのである。
それにしても、普段からひょうひょうとふざけていた軽部副部長、護衛のカルディの弟が、まさかその校長先生とつながっていたというのは驚きである。
調部長が軽部副部長の方をじっと見ているが、相変わらずゲーム機を弄っている状態だった。このふざけた行動の裏を見抜けなかった事に、調部長は正直ショックを隠し切れなかった。
「カルディ、軽部副部長……ジャンの事は知っていたのですか?」
家事をしているカルディに、調部長は問い掛ける。
「はい。ですが、鳥子……メロディお嬢様には秘密にするようにと言われておりましたので、お話しする事はできませんでした」
カルディは申し訳なさそうに話していた。
「……そうですか。この分だとお父様もご存じなのでしょうね。私とリリックだけが知らなかったというわけですか」
調部長がじっと視線を向けると、詩音はびっくりしたような反応を示していた。
「リリックお嬢様はかなり自由ですから、特に教えないようにと口酸っぱく言われましたね。こうやって話せているのも、以前の性格が改善されたからと言えますでしょう。……ただ、そのきっかけが誘拐だったのは頂けない話ではございますが」
カルディはこう言っているが、以前の詩音、リリック・バーディアはかなり奔放なところがあったのだ。だが、先日の事件以来すっかり他人に怯えるようになってしまい、おとなしくなってしまったのである。実に痛ましい事件ではあったのだが、これがあったからこそ、リリックにも話す事ができたのである。
「私、怖いけど、姉さんたちの手伝いはちゃんとするわ」
話を静かに聞いていた詩音は、思い切って調部長たちにそう宣言する。
「リリック、気持ちは嬉しいけれど無茶はダメよ。家の事の手伝いくらいにして、それ以外はなるべく私か高石さんから離れないようにして下さいね」
詩音の気持ちを汲み取った調部長だが、さすがにあんな目にこれ以上遭って欲しくはないので、ストレートに詩音を説得にかかる。その調部長の説得に、詩音は力なく納得したのだった。あれだけ意気込んで来たのに結果がこれでは、納得したくなくてもせざるを得ないのである。
「でも、私だってバーディアの人間だもん。いざっていう時は私も使ってほしいの、姉さん」
それでも精一杯に宣言する詩音。あまりに必死な表情に、調部長も仕方ないなといった顔をする。そして、詩音に近付いて言う。
「ええ、できる限りはそうならないようにしますけれど、万一という時には頼りにしてますよ」
調部長がこう言うと、詩音は一瞬驚いた顔をした後、キリッと表情を引き締めていた。その顔を見た調部長は、一瞬昔の詩音の事を思い出したようで、優しく微笑みながらその頭を優しく撫でていた。こういうやり取りは、元ギャングの家の人間とはいっても普通の姉妹のように見えるのである。
「レオンの今一番の狙いは教頭だろうぜ」
そこへ空気を壊すかのような発言が飛んでくる。ゲームを弄り倒している軽部副部長だった。
「お嬢たちが狙われているのは変わらないけど、今あいつにとって一番不都合なのは麻薬を流していた相手である教頭だ。俺たちが隠し撮りしてた映像だけじゃ確証は弱いけど、あいつが口を割ればレオンたちにとって都合が悪いからな」
普段はふざけてはいるものの、まじめになれば意外とちゃんと働く軽部副部長である。
「そういえば、スナイパーとしてその筋では有名な校長先生の弟さんが、レオンの依頼を受けて動いているというような話がありましたね」
「ございましたね。校長先生と水崎警部でうまく隠しているとは仰っていましたが、相手が校長先生の弟ですので、どこまで隠し通せるか不安だとも仰られていましたね」
軽部副部長の話を聞いて、調部長とカルディがそれぞれに思い出していた。それにしても、一体どこからそういう情報をかぎつけるか、四方津兄弟の能力は恐ろし過ぎである。
「何にしても、教頭を殺るまでは執拗に狙ってくるだろうな。こっちもこっちだけど、向こうだって頭の切れる連中みたいだし、正直頭脳戦なんてお断りなんだよな……」
ガチャガチャとゲームを操作しながら喋る軽部副部長である。
「げっ、そんなんありかよ……」
ゲーム画面を見ながら呟く軽部副部長。何かをやらかしたらしい。
「くっそう、自分の周りだけ安全圏にして誘い出して、そこに即死級の技とかありえねーだろ……。デスコンボじゃねえか」
なんだか理不尽な攻撃を受けたらしい。その呟きを聞いて調部長は笑っている。だが、その時閃いた。
「そうですね。あえて無防備にして誘い出して、そこを仕留めるという方法は悪くなさそうですね」
「……相手の頭が切れるっていうのなら、相当に危険な賭けだぞ」
調部長の思惑に、軽部副部長が警告を入れる。
「ですが、相手がやり手というのなら、そういうのも悪くはないでしょう?」
「……初見殺しか。悪くはないかもね」
どうやら、レオンの切り札であるスナイパーを封じる作戦を思いついたようだ。しかし、それが果たしてうまくいくかはまったく分からない事なのである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる