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第27話 紅と橙
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ブルーエを倒して撤退するパステルオレンジ。
(なんだって、あたしはあの人たちを助けたのかしら)
レドの時といい、どうして援護に入ったのか、自分ではよく分からないようである。もしかすると、伝説の戦士たちには自然と助け合うような、不思議な関係があるのかも知れない。パステルオレンジは一瞬そうも考えた。
だが、考え事を長引かせてくれる気の利いた者は居ないようだった。
どこからともなく、少し青みを含んだ赤い帯が飛んでくる。
「だ、誰だ?!」
なんとか気付いて攻撃を回避したパステルオレンジが叫ぶ。考え事をしていて不意を打たれたので、少し混乱しているように見える。
「よく避けたわね。完全に不意を打てたと思ったけど、さすがにそうは甘くいかないようね」
パステルオレンジの目の前に、黒みを帯びた赤色に包まれた女性、いや少女が現れた。どこか妖麗な服装をしているが、肝心の顔は仮面のせいで全く見えなかった。
「誰だ、あんたは!」
パステルオレンジが大声で問い掛ける。
「さぁ、誰かしらね。あんたみたいなひよっこに答えるような名前なんて持っていないわ」
ピシッと決めたポーズのまま、微動だにせず少女は答える。どうやら名乗る気はないようである。
「それにしても、ずいぶんと乱暴な口の利き方じゃないの。パステルピンクとかいうのに影響されたのかしら?」
名乗る気がない上に、パステルオレンジを更に煽ってくる。だが、パステルオレンジは下手に打って出られなかった。相手の少女の気配は尋常ではないし、なんといっても隙が無いのだ。これでは中途半端な攻撃は、全部簡単に弾き返されてしまいそうだった。パステルオレンジは強敵を目の前にして冷や汗を流している。
「あらあら、さっきまでの勢いは一体どうしたのかしら。それとも何? あたいに恐怖してるっていうのかしら」
目の前の少女は見下すような形で、パステルオレンジを罵っていく。すると、パステルオレンジは何かに気が付いた。
「その一人称……。この間、あたしを公園のベンチをモノトーンにして襲ってきた奴か!」
そう、『あたい』という一人称でパステルオレンジは気が付いたのである。モノトーンの出現に気が付いたパステルオレンジを邪魔した謎の声。その正体が目の前の少女であると。
「だったら何だって言うの? これから死んでいくあんたに、そんな事を答える義務なんてあるのかしら」
少女はけろっとした声で、パステルオレンジに言い返す。口ぶりからして、ここでパステルオレンジと決着をつけるつもりのようだ。
ただ、こう言われてしまっては、パステルオレンジだって黙ってはいない。
「つまり、ここで思い上がってるあんたを倒せば、モノトーンの勢いは一気に削げるってわけね」
パステルオレンジはにやりと笑う。だが、少女はそれにも冷静だった。
「……はぁ、哀れなものね。自分の実力を過信してるし、相手との実力差も分からないなんて」
少女はため息を吐いて首を左右に振る。完全にパステルオレンジの事を道化に思っているようだ。そして、少女が指を弾くと、その背中には大量の色鉛筆が並んだ。その光景にパステルオレンジは驚愕の表情を見せる。
「さて、どれくらい躱せるかしらね。行きなさい、マゼンダ・ペンシル・ロケット!」
少女がこう叫ぶと、背中の色鉛筆が1本、また1本とパステルオレンジへ向けて飛んでいく。本数は全部で12本だ。先は鋭く尖っており、かすっただけでもただでは済まない勢いである。
「オータム・リーフ・フラッド!」
パステルオレンジも応戦をする。しかし、少女の放った色鉛筆は簡単には撃ち落とせなかった。12本のうち2本を撃ち落とすのがせいぜいだった。
「へえ……、2本も撃墜できたのね。なかなかやるじゃないの」
少女からは称賛の声が出てくる。しかし、一方のパステルオレンジは呼吸がかなり乱れていた。よく見ると少女の攻撃が数本かすってしまったようで、あちこちに傷を負っていた。
「手加減の意味で一撃ずつしか入れないようにしてたんだけど、それほど傷を負ってしまうなんて、あんたもまだまだ雑魚って事よ。それであたいに勝とうだなんて、おかしくてたまらないわ」
少女は最初の姿勢のまま、パステルオレンジを完全に見下していた。
「弱い者いじめは趣味じゃないわ。少しばかり猶予をあげるから、少しは鍛えてきなさい」
くるりと振り返って、少女はその場を立ち去ろうとする。だが、
「待ちなさい、逃げるの?!」
「逃げる?」
パステルオレンジが叫ぶと、少女はいらついた反応を見せる。そして、パステルオレンジに一気に詰め寄ると、その頬に思い切り平手打ちを浴びせた。
「馬鹿じゃないの、あんたは! 見逃してもらっておいてそんな風に言うなんて、死ぬ気なの?」
思い切り叫ぶ少女。その声はどことなく怒っているようだった。
ところが、平手打ちという予想外の攻撃に、パステルオレンジは驚きでまったく反応ができなかった。その頬を張った少女の右手がかすかに震えている事にも気付かないくらいに。
「……とにかく、強くなりなさい。今のあんたたちじゃ、あたいどころか、イエーロやグーリにも勝てない。世界を救いたければ、それこそ死ぬ気で強くなりなさい」
そうとだけ呟くと、少女はその場から静かに去っていった。その小さな声がパステルオレンジに届いたかどうかは分からない。はっきりと分かっているのは、パステルオレンジと少女との間には、とてつもない実力の差があるという事だけだった。
夏が近づく温かな風が、一人佇むパステルオレンジを静かに撫でていた。
(なんだって、あたしはあの人たちを助けたのかしら)
レドの時といい、どうして援護に入ったのか、自分ではよく分からないようである。もしかすると、伝説の戦士たちには自然と助け合うような、不思議な関係があるのかも知れない。パステルオレンジは一瞬そうも考えた。
だが、考え事を長引かせてくれる気の利いた者は居ないようだった。
どこからともなく、少し青みを含んだ赤い帯が飛んでくる。
「だ、誰だ?!」
なんとか気付いて攻撃を回避したパステルオレンジが叫ぶ。考え事をしていて不意を打たれたので、少し混乱しているように見える。
「よく避けたわね。完全に不意を打てたと思ったけど、さすがにそうは甘くいかないようね」
パステルオレンジの目の前に、黒みを帯びた赤色に包まれた女性、いや少女が現れた。どこか妖麗な服装をしているが、肝心の顔は仮面のせいで全く見えなかった。
「誰だ、あんたは!」
パステルオレンジが大声で問い掛ける。
「さぁ、誰かしらね。あんたみたいなひよっこに答えるような名前なんて持っていないわ」
ピシッと決めたポーズのまま、微動だにせず少女は答える。どうやら名乗る気はないようである。
「それにしても、ずいぶんと乱暴な口の利き方じゃないの。パステルピンクとかいうのに影響されたのかしら?」
名乗る気がない上に、パステルオレンジを更に煽ってくる。だが、パステルオレンジは下手に打って出られなかった。相手の少女の気配は尋常ではないし、なんといっても隙が無いのだ。これでは中途半端な攻撃は、全部簡単に弾き返されてしまいそうだった。パステルオレンジは強敵を目の前にして冷や汗を流している。
「あらあら、さっきまでの勢いは一体どうしたのかしら。それとも何? あたいに恐怖してるっていうのかしら」
目の前の少女は見下すような形で、パステルオレンジを罵っていく。すると、パステルオレンジは何かに気が付いた。
「その一人称……。この間、あたしを公園のベンチをモノトーンにして襲ってきた奴か!」
そう、『あたい』という一人称でパステルオレンジは気が付いたのである。モノトーンの出現に気が付いたパステルオレンジを邪魔した謎の声。その正体が目の前の少女であると。
「だったら何だって言うの? これから死んでいくあんたに、そんな事を答える義務なんてあるのかしら」
少女はけろっとした声で、パステルオレンジに言い返す。口ぶりからして、ここでパステルオレンジと決着をつけるつもりのようだ。
ただ、こう言われてしまっては、パステルオレンジだって黙ってはいない。
「つまり、ここで思い上がってるあんたを倒せば、モノトーンの勢いは一気に削げるってわけね」
パステルオレンジはにやりと笑う。だが、少女はそれにも冷静だった。
「……はぁ、哀れなものね。自分の実力を過信してるし、相手との実力差も分からないなんて」
少女はため息を吐いて首を左右に振る。完全にパステルオレンジの事を道化に思っているようだ。そして、少女が指を弾くと、その背中には大量の色鉛筆が並んだ。その光景にパステルオレンジは驚愕の表情を見せる。
「さて、どれくらい躱せるかしらね。行きなさい、マゼンダ・ペンシル・ロケット!」
少女がこう叫ぶと、背中の色鉛筆が1本、また1本とパステルオレンジへ向けて飛んでいく。本数は全部で12本だ。先は鋭く尖っており、かすっただけでもただでは済まない勢いである。
「オータム・リーフ・フラッド!」
パステルオレンジも応戦をする。しかし、少女の放った色鉛筆は簡単には撃ち落とせなかった。12本のうち2本を撃ち落とすのがせいぜいだった。
「へえ……、2本も撃墜できたのね。なかなかやるじゃないの」
少女からは称賛の声が出てくる。しかし、一方のパステルオレンジは呼吸がかなり乱れていた。よく見ると少女の攻撃が数本かすってしまったようで、あちこちに傷を負っていた。
「手加減の意味で一撃ずつしか入れないようにしてたんだけど、それほど傷を負ってしまうなんて、あんたもまだまだ雑魚って事よ。それであたいに勝とうだなんて、おかしくてたまらないわ」
少女は最初の姿勢のまま、パステルオレンジを完全に見下していた。
「弱い者いじめは趣味じゃないわ。少しばかり猶予をあげるから、少しは鍛えてきなさい」
くるりと振り返って、少女はその場を立ち去ろうとする。だが、
「待ちなさい、逃げるの?!」
「逃げる?」
パステルオレンジが叫ぶと、少女はいらついた反応を見せる。そして、パステルオレンジに一気に詰め寄ると、その頬に思い切り平手打ちを浴びせた。
「馬鹿じゃないの、あんたは! 見逃してもらっておいてそんな風に言うなんて、死ぬ気なの?」
思い切り叫ぶ少女。その声はどことなく怒っているようだった。
ところが、平手打ちという予想外の攻撃に、パステルオレンジは驚きでまったく反応ができなかった。その頬を張った少女の右手がかすかに震えている事にも気付かないくらいに。
「……とにかく、強くなりなさい。今のあんたたちじゃ、あたいどころか、イエーロやグーリにも勝てない。世界を救いたければ、それこそ死ぬ気で強くなりなさい」
そうとだけ呟くと、少女はその場から静かに去っていった。その小さな声がパステルオレンジに届いたかどうかは分からない。はっきりと分かっているのは、パステルオレンジと少女との間には、とてつもない実力の差があるという事だけだった。
夏が近づく温かな風が、一人佇むパステルオレンジを静かに撫でていた。
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