異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第373話 転生者、ケオス大陸の起こりを聞く

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 時はさかのぼり、一千年前。
 マーシャルの元に現れた二人の神の使徒リヒテルとレーヴェンの誘いに乗って、ネラールと新たな平穏な地を求めた者たちはケオス大陸にやって来た。
 当時のケオス大陸は、まだ普通の土地といった感じだったが、他の世界とは違った澄んだ空気がそこにはあった。

「すごい、息ができる」

「ああ、地上で過ごせるんだ……」

 多くの者たちは、新たな環境を喜んだ。
 だが、ネラール一人だけはどうしても素直に喜べなかった。

(父上、なにゆえ私を遣わしたのですか。まだ未熟な私では、まとめ上げられる自信はありませぬ……)

 当時のネラールは生後五十年程度の若輩者の魔族。まだマーシャルほどの実力もカリスマ性も備えていない若い魔族だったのだ。
 ケオス大陸の中にやって来たネラールたちの前に、一人の使徒が現れる。
 リヒテルやレーヴェンとは明確に違った、見るからに強そうな、男性とはっきりと分かる姿の使徒だった。
 それが名前だけ出てきているケオスという混沌を司る使徒だった。

「よく来たな。ここがお前たちの安息の場となるケオス大陸だ。周囲は結界となる岩山に囲まれている。あれがある限り、この中は奴らの手が届くことはない。安心して暮らすがいい」

 ケオスの言葉に、ネラールとともに来た者たちは喜んでいた。
 安心して過ごせる地上なのだ。それは地下空間に追い込められた者たちにとって、楽園のように感じただろう。
 ケオスの言葉に喜ぶ周囲とは違い、ネラールはただ一人だけ、何か違うと感じていた。

(閉じられた世界に何を求めるというのだ。やはり、いずれは外の世界を取り戻さねば……。これはただの一時しのぎに過ぎない)

 ネラール一人だけ、ずっと気持ちは外の世界に向いたままだったのだ。

「この大陸の内部は、最低限のものだけを揃えさせてもらった。ここをどう使うかはお前たちの思う通りにするがよい。それでは、我はこれにて失礼するぞ」

 ケオスは言うだけ言うと、姿を消した。
 こうして、ケオス大陸にやって来た者たちは、当面はネラールを指導者としてまとまった生活をしていた。

 まず行ったのが、全体的にどのような陸地であるかという確認だった。
 その際に周辺を確認したところ、ケオスが話していた通り、険しい岩山に囲まれていた。
 空との境界がはっきりと見えているというのに、近づけば近づくほど、山との距離に反比例して岩山は高く感じられた。
 絶対に外には出さないという意思を感じられるほどだった。
 試しに空の飛べる魔族が向かったのだが、どこまで登っても岩山に阻まれて外に出られなかったという。
 この報告を聞いて、岩山の結界という言葉に説得力が出たのである。

 調査を含めてしばらくの間は、危険な外の世界から逃れてきた仲間として、人間も魔族もそれは仲良く暮らしていたという。
 ところが、安堵というものは心に隙を生じさせる。
 やがて、平穏な時を過ごしていた一部の魔族は、避難前に持っていた本来の感覚を取り戻していく。

 ネラールが気が付いた時には、すでに遅かった。
 魔族の一部は支配欲と残虐性を取り戻し、人間たちへと危害を加えるようになっていた。

「なんごとだ!」

「一部の魔族が人間を狩り始めたのです。このままでは、もはや共存というのも厳しくなるかと……」

「くそっ、魔族と人間は、はやり相容れぬというのか?」

 魔族が暴れ出した報告を受けたネラールは、すぐさま対策に乗り出す。
 穏健派な魔族たちとともに、人間と魔族を引き離す行動に出たのだ。共存という状況からは程遠くはなるが、これ以上人間たちに被害を出すわけにはいかない。
 生き残った者たちで共存を続けるという、父マーシャルとの約束が果たせない。この決定的な状況に陥ったネラールは、やむなく大陸の中心部から一定の範囲を境に結界を展開させることにした。
 一時的に人間と魔族を分断させることで、互いに距離を取らせることにしたのだ。
 穏健派とともに人間と魔族たちの居住地域を分けていっていたこともあり、この計画はすんなりと成功した。
 だが、自分のあまりにも無力な状態に、ネラールはすっかり絶望してしまったのだった。

「ははは……、父上のようにはいかないのか。私は、王の器ではないのだな」

 魔族たちの居住地域の中に拠点を作っていたネラールは、すっかり心が折れていた。
 見るも無残になったネラールに現れたのが、ケオスとレーヴェンだった。
 二人は心の折れたネラールを労うと、ケオスは魔族の監視のために二体の分体を生み出す。それが混沌デザストレ調和エイミーである。ケオスはそのまま二体に魔族と人間の管理を任せると、そのままいずこかへと姿を消してしまう。
 レーヴェンは拠点の地下深くに空間を作り、そこでネラールを休ませることにしたのだ。その時にネラールが自分の存在を消し去るように願ったため、レーヴェンはそれを受け入れた。
 このため、ネラールに関する記憶と記録は、ケオス大陸からほぼすべて消え去ったのである。唯一残った、純魔族の始祖としての記録以外は……。
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