異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第374話 転生者、活動を再開する

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 話を聞き終わった俺の中には、大したことないやつだという感想しか出てこなかった。
 まあ、人間と魔族を分離したということは守るために仕方なくということで評価はできるかもしれないが、しょせんそれだけだ。
 あとはただひたすら逃げ回ったのみという印象しか受けなかった。
 なにせ、生きているくせにこんなところに閉じこもって過ごしてたんだからな。

「で、だからどうしたっていうんだ」

「なに?」

 小ばかにされたこともあって、俺は話を聞き終わって黙ってられなかった。
 どっちが大したことないやつだって話なんだよな。

「結局、ほとんど逃げて過ごしただけじゃないか。何年ここで引きこもってやがったんだよ」

「……そういわれれば、確かにそうかも知れないな。自分の非力さに逃げただけかもしれないな」

 おっと、意外とすんなり認めてくれたぞ。
 とはいえ、魔族のトップとして来たというのにまとめきれなかったという絶望感は分からなくはない。あまり古傷をえぐるのはやめておいた方がいいか。
 これまでのことはしょうがない話だ。問題はこれからどうするかだからな。

「なあ、ネラール」

「なんだ、今代の魔王」

 俺が声をかけると、ネラールが反応してくる。

「閉じこもってるのもなんだ。外に出て世界を取り戻す旅でもしないか?」

「世界を取り戻す? 何を言っているんだ。あの猛毒の中で生きていられるわけがないだろう」

 俺の呼び掛けに、ネラールは鼻で笑っている。
 そりゃそうか。猛毒に追われてここまでやって来たんだからな。猛毒の大気の中を動けるなんて思ってもないだろうな。
 だが、俺たちにはその中で動いてきた実績があるんだよ。

「心配するな。猛毒の中でも動ける秘策があるんだよ」

 俺はデザストレのうろこから、レーヴェンの樹の種を取り出して笑っている。

「むっ、それは……」

「知ってるのか?」

「レーヴェンのやつの魔力がこもっているな。そうか……、それなら確かに外で動けるかもしれないな」

 さすがに直にレーヴェンと出会ったことがあるせいか、一瞬で種の力を理解したようだ。

「俺はちょっと特殊で種なしでも動けるが、二人ほどでこの種による効果は実証済みだ。な、ピエラ」

「ええ、その通りね。呼吸は普通にできるし、魔法だってちゃんと使える。苦しかったことなんて、南の大陸に上陸した時くらいかしらね」

 確かに、南の大陸の猛毒は濃くて、俺やセイ太ですら咳き込んだくらいだ。
 しかし、それ以外の地域では何の問題もなく動けていた。あの濃さがあるということは、もしかしたら南の大陸のどこかに奴らの拠点があるのかもしれない。

「久々に父の名前も聞いたことだ。私も動かねばならぬのかもしれないな。互いにまだ生きていると分かったのだからな」

 ネラールの顔が明るくなったように思える。

「ああ、外の世界を取り戻して、のんびりと過ごせる世界にしてやろうぜ」

「そうだな。人間と魔族が一緒にいるお前たちの姿を見ていたら、今さらながらに対抗意識が燃えてきたよ。父上の理想、私にも手伝わせてもらうとしよう」

 ネラールが完全にやる気を取り戻したようだ。

「そうと決まれば、この場所はもう不要か。レーヴェンめ、私に活を入れるべく、この者をここに案内したのか」

 部屋の中を見回しながら、ネラールはボソッと独り言をつぶやいていた。
 その独り言、俺の耳には丸聞こえだったのだが、俺はピエラやキリエたちに黙っておいた。

 当主の部屋まで戻ると、コモヤとデザストレはそのまま残ることになった。その代わり、抜けるキリエためにデザストレが魔王城に出向くことになった。

「なんだって、俺様がそ奴の代わりをせねばならぬ」

「なんだよ。武闘大会で優勝したんだろ? お前がいれば文句を言ってくるやつは、人間だろうが魔族だろうかそう出ることはないだろう」

「ぐぬぅ、面倒除けか!」

 デザストレはすごく不満そうだ。
 だがな、外の世界での活動には俺がいないといけないんだよ。こっちにかかりきりにはなりたいが、ネラールと出会ってしまった以上、外の重要度が増しちまったんだ。頼むから堪えろ。
 嫌がるデザストレを無理やり説得すると、俺たちは一度魔王城に戻る。
 魔王城に戻ると、そこにはセイ太とデイジーが待っていた。

「遅いですよ、セイお姉様」

「悪い。っていうか、もう戻ってきてたのか」

「はい、聖王様には事情は全部説明しました。あまり快くは思っていなかったようですが、デイジーにしかできないことですから、渋々でしたね。前回同様、デイジーのことは絶対守ってほしいとのことでした」

「そりゃもちろんだぜ。外の世界を取り戻す主力だからな、デイジーは」

 俺はそう言いながら、デイジーの頭を撫でてしまう。
 まだ十代前半のデイジーの頭は、ちょうどいい位置にあるからとても撫でやすい。俺に頭を撫でられたデイジーも、すごく嬉しそうにするものだから、ついつい撫でてしまう。
 そしたら、ピエラとセイ太が揃って睨んでくる。

「お前ら、落ち着け。今撫でてやるから」

「誰もそんなことはいっていません!」

 ところが、怒って顔を背けてしまった。
 まったく、扱いが難しいな……。
 その俺たちの様子を、ネラールはおかしそうに笑いながら見ていた。

 とりあえず、いつものメンバーが揃ったので、俺たちはまずはケオス大陸を守る結界の修復から活動を再開することにした。
 問題はあの筋肉野郎がいるかどうかということだが、襲ってきたら追い返すのみだ。
 ケオス大陸初代魔王であるネラールを仲間に加え、俺たちは再び外の世界へと向かったのだった。
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