374 / 431
第二章 外側の世界
第374話 転生者、活動を再開する
しおりを挟む
話を聞き終わった俺の中には、大したことないやつだという感想しか出てこなかった。
まあ、人間と魔族を分離したということは守るために仕方なくということで評価はできるかもしれないが、しょせんそれだけだ。
あとはただひたすら逃げ回ったのみという印象しか受けなかった。
なにせ、生きているくせにこんなところに閉じこもって過ごしてたんだからな。
「で、だからどうしたっていうんだ」
「なに?」
小ばかにされたこともあって、俺は話を聞き終わって黙ってられなかった。
どっちが大したことないやつだって話なんだよな。
「結局、ほとんど逃げて過ごしただけじゃないか。何年ここで引きこもってやがったんだよ」
「……そういわれれば、確かにそうかも知れないな。自分の非力さに逃げただけかもしれないな」
おっと、意外とすんなり認めてくれたぞ。
とはいえ、魔族のトップとして来たというのにまとめきれなかったという絶望感は分からなくはない。あまり古傷をえぐるのはやめておいた方がいいか。
これまでのことはしょうがない話だ。問題はこれからどうするかだからな。
「なあ、ネラール」
「なんだ、今代の魔王」
俺が声をかけると、ネラールが反応してくる。
「閉じこもってるのもなんだ。外に出て世界を取り戻す旅でもしないか?」
「世界を取り戻す? 何を言っているんだ。あの猛毒の中で生きていられるわけがないだろう」
俺の呼び掛けに、ネラールは鼻で笑っている。
そりゃそうか。猛毒に追われてここまでやって来たんだからな。猛毒の大気の中を動けるなんて思ってもないだろうな。
だが、俺たちにはその中で動いてきた実績があるんだよ。
「心配するな。猛毒の中でも動ける秘策があるんだよ」
俺はデザストレのうろこから、レーヴェンの樹の種を取り出して笑っている。
「むっ、それは……」
「知ってるのか?」
「レーヴェンのやつの魔力がこもっているな。そうか……、それなら確かに外で動けるかもしれないな」
さすがに直にレーヴェンと出会ったことがあるせいか、一瞬で種の力を理解したようだ。
「俺はちょっと特殊で種なしでも動けるが、二人ほどでこの種による効果は実証済みだ。な、ピエラ」
「ええ、その通りね。呼吸は普通にできるし、魔法だってちゃんと使える。苦しかったことなんて、南の大陸に上陸した時くらいかしらね」
確かに、南の大陸の猛毒は濃くて、俺やセイ太ですら咳き込んだくらいだ。
しかし、それ以外の地域では何の問題もなく動けていた。あの濃さがあるということは、もしかしたら南の大陸のどこかに奴らの拠点があるのかもしれない。
「久々に父の名前も聞いたことだ。私も動かねばならぬのかもしれないな。互いにまだ生きていると分かったのだからな」
ネラールの顔が明るくなったように思える。
「ああ、外の世界を取り戻して、のんびりと過ごせる世界にしてやろうぜ」
「そうだな。人間と魔族が一緒にいるお前たちの姿を見ていたら、今さらながらに対抗意識が燃えてきたよ。父上の理想、私にも手伝わせてもらうとしよう」
ネラールが完全にやる気を取り戻したようだ。
「そうと決まれば、この場所はもう不要か。レーヴェンめ、私に活を入れるべく、この者をここに案内したのか」
部屋の中を見回しながら、ネラールはボソッと独り言をつぶやいていた。
その独り言、俺の耳には丸聞こえだったのだが、俺はピエラやキリエたちに黙っておいた。
当主の部屋まで戻ると、コモヤとデザストレはそのまま残ることになった。その代わり、抜けるキリエためにデザストレが魔王城に出向くことになった。
「なんだって、俺様がそ奴の代わりをせねばならぬ」
「なんだよ。武闘大会で優勝したんだろ? お前がいれば文句を言ってくるやつは、人間だろうが魔族だろうかそう出ることはないだろう」
「ぐぬぅ、面倒除けか!」
デザストレはすごく不満そうだ。
だがな、外の世界での活動には俺がいないといけないんだよ。こっちにかかりきりにはなりたいが、ネラールと出会ってしまった以上、外の重要度が増しちまったんだ。頼むから堪えろ。
嫌がるデザストレを無理やり説得すると、俺たちは一度魔王城に戻る。
魔王城に戻ると、そこにはセイ太とデイジーが待っていた。
「遅いですよ、セイお姉様」
「悪い。っていうか、もう戻ってきてたのか」
「はい、聖王様には事情は全部説明しました。あまり快くは思っていなかったようですが、デイジーにしかできないことですから、渋々でしたね。前回同様、デイジーのことは絶対守ってほしいとのことでした」
「そりゃもちろんだぜ。外の世界を取り戻す主力だからな、デイジーは」
俺はそう言いながら、デイジーの頭を撫でてしまう。
まだ十代前半のデイジーの頭は、ちょうどいい位置にあるからとても撫でやすい。俺に頭を撫でられたデイジーも、すごく嬉しそうにするものだから、ついつい撫でてしまう。
そしたら、ピエラとセイ太が揃って睨んでくる。
「お前ら、落ち着け。今撫でてやるから」
「誰もそんなことはいっていません!」
ところが、怒って顔を背けてしまった。
まったく、扱いが難しいな……。
その俺たちの様子を、ネラールはおかしそうに笑いながら見ていた。
とりあえず、いつものメンバーが揃ったので、俺たちはまずはケオス大陸を守る結界の修復から活動を再開することにした。
問題はあの筋肉野郎がいるかどうかということだが、襲ってきたら追い返すのみだ。
ケオス大陸初代魔王であるネラールを仲間に加え、俺たちは再び外の世界へと向かったのだった。
まあ、人間と魔族を分離したということは守るために仕方なくということで評価はできるかもしれないが、しょせんそれだけだ。
あとはただひたすら逃げ回ったのみという印象しか受けなかった。
なにせ、生きているくせにこんなところに閉じこもって過ごしてたんだからな。
「で、だからどうしたっていうんだ」
「なに?」
小ばかにされたこともあって、俺は話を聞き終わって黙ってられなかった。
どっちが大したことないやつだって話なんだよな。
「結局、ほとんど逃げて過ごしただけじゃないか。何年ここで引きこもってやがったんだよ」
「……そういわれれば、確かにそうかも知れないな。自分の非力さに逃げただけかもしれないな」
おっと、意外とすんなり認めてくれたぞ。
とはいえ、魔族のトップとして来たというのにまとめきれなかったという絶望感は分からなくはない。あまり古傷をえぐるのはやめておいた方がいいか。
これまでのことはしょうがない話だ。問題はこれからどうするかだからな。
「なあ、ネラール」
「なんだ、今代の魔王」
俺が声をかけると、ネラールが反応してくる。
「閉じこもってるのもなんだ。外に出て世界を取り戻す旅でもしないか?」
「世界を取り戻す? 何を言っているんだ。あの猛毒の中で生きていられるわけがないだろう」
俺の呼び掛けに、ネラールは鼻で笑っている。
そりゃそうか。猛毒に追われてここまでやって来たんだからな。猛毒の大気の中を動けるなんて思ってもないだろうな。
だが、俺たちにはその中で動いてきた実績があるんだよ。
「心配するな。猛毒の中でも動ける秘策があるんだよ」
俺はデザストレのうろこから、レーヴェンの樹の種を取り出して笑っている。
「むっ、それは……」
「知ってるのか?」
「レーヴェンのやつの魔力がこもっているな。そうか……、それなら確かに外で動けるかもしれないな」
さすがに直にレーヴェンと出会ったことがあるせいか、一瞬で種の力を理解したようだ。
「俺はちょっと特殊で種なしでも動けるが、二人ほどでこの種による効果は実証済みだ。な、ピエラ」
「ええ、その通りね。呼吸は普通にできるし、魔法だってちゃんと使える。苦しかったことなんて、南の大陸に上陸した時くらいかしらね」
確かに、南の大陸の猛毒は濃くて、俺やセイ太ですら咳き込んだくらいだ。
しかし、それ以外の地域では何の問題もなく動けていた。あの濃さがあるということは、もしかしたら南の大陸のどこかに奴らの拠点があるのかもしれない。
「久々に父の名前も聞いたことだ。私も動かねばならぬのかもしれないな。互いにまだ生きていると分かったのだからな」
ネラールの顔が明るくなったように思える。
「ああ、外の世界を取り戻して、のんびりと過ごせる世界にしてやろうぜ」
「そうだな。人間と魔族が一緒にいるお前たちの姿を見ていたら、今さらながらに対抗意識が燃えてきたよ。父上の理想、私にも手伝わせてもらうとしよう」
ネラールが完全にやる気を取り戻したようだ。
「そうと決まれば、この場所はもう不要か。レーヴェンめ、私に活を入れるべく、この者をここに案内したのか」
部屋の中を見回しながら、ネラールはボソッと独り言をつぶやいていた。
その独り言、俺の耳には丸聞こえだったのだが、俺はピエラやキリエたちに黙っておいた。
当主の部屋まで戻ると、コモヤとデザストレはそのまま残ることになった。その代わり、抜けるキリエためにデザストレが魔王城に出向くことになった。
「なんだって、俺様がそ奴の代わりをせねばならぬ」
「なんだよ。武闘大会で優勝したんだろ? お前がいれば文句を言ってくるやつは、人間だろうが魔族だろうかそう出ることはないだろう」
「ぐぬぅ、面倒除けか!」
デザストレはすごく不満そうだ。
だがな、外の世界での活動には俺がいないといけないんだよ。こっちにかかりきりにはなりたいが、ネラールと出会ってしまった以上、外の重要度が増しちまったんだ。頼むから堪えろ。
嫌がるデザストレを無理やり説得すると、俺たちは一度魔王城に戻る。
魔王城に戻ると、そこにはセイ太とデイジーが待っていた。
「遅いですよ、セイお姉様」
「悪い。っていうか、もう戻ってきてたのか」
「はい、聖王様には事情は全部説明しました。あまり快くは思っていなかったようですが、デイジーにしかできないことですから、渋々でしたね。前回同様、デイジーのことは絶対守ってほしいとのことでした」
「そりゃもちろんだぜ。外の世界を取り戻す主力だからな、デイジーは」
俺はそう言いながら、デイジーの頭を撫でてしまう。
まだ十代前半のデイジーの頭は、ちょうどいい位置にあるからとても撫でやすい。俺に頭を撫でられたデイジーも、すごく嬉しそうにするものだから、ついつい撫でてしまう。
そしたら、ピエラとセイ太が揃って睨んでくる。
「お前ら、落ち着け。今撫でてやるから」
「誰もそんなことはいっていません!」
ところが、怒って顔を背けてしまった。
まったく、扱いが難しいな……。
その俺たちの様子を、ネラールはおかしそうに笑いながら見ていた。
とりあえず、いつものメンバーが揃ったので、俺たちはまずはケオス大陸を守る結界の修復から活動を再開することにした。
問題はあの筋肉野郎がいるかどうかということだが、襲ってきたら追い返すのみだ。
ケオス大陸初代魔王であるネラールを仲間に加え、俺たちは再び外の世界へと向かったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる