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第二章 外側の世界
第376話 転生者、毒の使徒に苦戦する
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筋肉毒だるま、ヘルプワゾンとの二回戦が始まってしまった。
相変わらずまがまがしいまでの周囲から吹き出す毒ガスと、痛々しい配色の体だ。見ているだけで気分が悪くなってくるぜ。紫色の葉だと深緑の髪の毛。それぞれに毒を連想させる色だからな。
それにしても、いつ見ても自信たっぷりなやつだ。なんていうか、某野菜な連中の強い奴みたいな感じがする。
というか、改めてこいつの姿を見てみると、筋肉質な敵役の特徴をこれでもかと詰め込んだようなやつだよな。そのうち「二十パーセント」とか言い出しそうだぜ。まあ、サングラスなんてものはこの世界にはないがな。
ただ、今回は前回と比べて少し厳しい戦いになりそうだ。
その理由はデイジーだ。ちょうどレーヴェンの樹を成長させて消耗しているところだからな。いくら魔力の回復速度が上がっているからといっても、まだ十代前半では無理はさせられない。
だが、今回は前衛にもう一人加わっている。マーシャルの息子であるネラールだ。
ネラールには外の世界を取り戻して、マーシャルの息子としての矜持を取り戻したいという願望にも似た目標がある。ネラールには負けられない戦いがあるというわけだ。
「ふん、なにやら知らぬ顔が増えておるが、我にとって取るに足らぬ存在であろう。数が増えたところで、お前たちは我の毒の餌食となるのだ!」
ヘルプワゾンが叫ぶと、体中から強力な毒素が噴き出している。それと同時に辺りの空気が明るい緑色に染まっていく。
前世の感覚からすれば毒は紫色のイメージだったが、こっちじゃ緑色なんだな。
っと、そんなことを思ってる場合じゃねえ!
「アンチドート!」
解毒の魔法を使って相殺を試みる。だが、俺の解毒魔法じゃ効果は不十分。完全に押し負けてしまった。
「ちっ!」
「ふははははっ、無駄無駄ぁっ! 我の毒は主に比べれば弱いが、それでもお前らごときの魔法に負けるほどやわではない!」
まったく、こいつの参ったもんだぜ。
俺は思わず歯を食いしばってしまう。
ところが、次の瞬間、俺はあることを思いついた。
取り出したのはレーヴェンの樹の種だ。
「ちょっと、セイ。前みたいに反撃を食らうつもり?!」
俺が種を取り出したのを見ていたらしく、ピエラが叫んでいる。
だが、俺はそのために種を出したんじゃねえよ。俺は一度額に種を当てて、祈るように魔力を込める。
「アンチドート!」
「ふん、先程失敗したであろう。小細工をしたところで、我の毒を消せると思うな!」
無駄だといわんばかりに、ヘルプワゾンが大声を出して俺を牽制してくる。
だがな、俺たちだって必死なんだよ。ここで俺たちは負けるわけにはいかねえんでな!
俺の祈りのこもった魔法に、レーヴェンの樹の種が反応する。
「何?!」
ヘルプワゾンも、俺の魔法の異変に気が付いたらしく、焦った顔を見せている。
レーヴェンの樹の種によって増幅された俺の魔法は、ヘルプワゾンが発した毒の霧をあっという間に無害なものへと変えていく。
いや、それだけじゃなかった。
「ぐぬぅ……」
ヘルプワゾンが苦しみだしたのだ。
「な、なんだ、これは……。解毒の力が、我を蝕んでいる?」
なんということだろうか。レーヴェンの樹の種で増幅された俺の解毒の魔法は、ヘルプワゾンの体の毒すらも消し始めたのだ。
毒が力の源であるのなら、解毒されてしまえばそれは力を失っていくということを示しているというわけか。
「なんだかよく分からないが、これは好機のようだな。故郷を奪われた我らの恨み、まずは貴様にぶつけてくれようぞ!」
ネラールがヘルプワゾンに斬りかかる。
「おい、無防備に突っ込むな! セイ太!」
「お任せ下さい!」
デイジーの護衛に回っていたピエラとセイ太のうち、セイ太をネラールの補佐に回す。
それというのも、セイ太は犬であるがために機動力があるからだ。その気になれば、離脱に強襲と自由自在だからな。
俺は今魔法を使ったところで、動くには少し厳しいんだ。レーヴェンの樹の種で魔法を増幅した副作用のせいなのか、ちょっと魔力のバランスがおかしくなってるんだよ。
「我が剣の錆となれ!」
剣に魔力を込めて、ヘルプワゾンへと剣を振り下ろそうとしている。
だが、奴の方もこの程度で終わるわけがないんだ。
「甘く見るな、虫けらがっ!」
ヘルプワゾンの拳が、完全にネラールの胴体を捉えている。
少し弱っているとはいえ、この状態なら間違いなく風穴を開けられる。
ところが、ヘルプワゾンの拳はネラールに命中することなく、空を切っていた。
「くそっ、犬ころごときが!」
犬形態となったセイ太が、間一髪ネラールを回避させていたのだ。
「まったく、セイの話を聞いていなかったのですか。あいつは多少の傷であれば、関係なく攻撃をしてきます。むやみに近付くのは、死を意味するのですよ」
「す、すまない」
背中に放り上げられたネラールは、セイ太のお小言に素直に反省の弁を述べていた。
俺は同時に恐ろしい光景を見ていた。
空を切ったヘルプワゾンの拳は、そのまま緑の軌跡を空に残していたのだ。振り抜いた拳ですらあの威力だ。回避の方向を間違えれば、間違いなくピエラやデイジーたちにも危害は及んでしまうということだ。
「くそっ、なんて奴だ……」
あまりにも強力な相手であるヘルプワゾン。
このあとにもまだ一体いるというのだから、一千年前にあっさり侵略されてしまったという事実に納得ができてしまう。
俺たちに打つ手はあるのだろうか。
体の状態が落ち着くのを待ちながら、俺は逆転への道筋を必死に模索し始めた。
相変わらずまがまがしいまでの周囲から吹き出す毒ガスと、痛々しい配色の体だ。見ているだけで気分が悪くなってくるぜ。紫色の葉だと深緑の髪の毛。それぞれに毒を連想させる色だからな。
それにしても、いつ見ても自信たっぷりなやつだ。なんていうか、某野菜な連中の強い奴みたいな感じがする。
というか、改めてこいつの姿を見てみると、筋肉質な敵役の特徴をこれでもかと詰め込んだようなやつだよな。そのうち「二十パーセント」とか言い出しそうだぜ。まあ、サングラスなんてものはこの世界にはないがな。
ただ、今回は前回と比べて少し厳しい戦いになりそうだ。
その理由はデイジーだ。ちょうどレーヴェンの樹を成長させて消耗しているところだからな。いくら魔力の回復速度が上がっているからといっても、まだ十代前半では無理はさせられない。
だが、今回は前衛にもう一人加わっている。マーシャルの息子であるネラールだ。
ネラールには外の世界を取り戻して、マーシャルの息子としての矜持を取り戻したいという願望にも似た目標がある。ネラールには負けられない戦いがあるというわけだ。
「ふん、なにやら知らぬ顔が増えておるが、我にとって取るに足らぬ存在であろう。数が増えたところで、お前たちは我の毒の餌食となるのだ!」
ヘルプワゾンが叫ぶと、体中から強力な毒素が噴き出している。それと同時に辺りの空気が明るい緑色に染まっていく。
前世の感覚からすれば毒は紫色のイメージだったが、こっちじゃ緑色なんだな。
っと、そんなことを思ってる場合じゃねえ!
「アンチドート!」
解毒の魔法を使って相殺を試みる。だが、俺の解毒魔法じゃ効果は不十分。完全に押し負けてしまった。
「ちっ!」
「ふははははっ、無駄無駄ぁっ! 我の毒は主に比べれば弱いが、それでもお前らごときの魔法に負けるほどやわではない!」
まったく、こいつの参ったもんだぜ。
俺は思わず歯を食いしばってしまう。
ところが、次の瞬間、俺はあることを思いついた。
取り出したのはレーヴェンの樹の種だ。
「ちょっと、セイ。前みたいに反撃を食らうつもり?!」
俺が種を取り出したのを見ていたらしく、ピエラが叫んでいる。
だが、俺はそのために種を出したんじゃねえよ。俺は一度額に種を当てて、祈るように魔力を込める。
「アンチドート!」
「ふん、先程失敗したであろう。小細工をしたところで、我の毒を消せると思うな!」
無駄だといわんばかりに、ヘルプワゾンが大声を出して俺を牽制してくる。
だがな、俺たちだって必死なんだよ。ここで俺たちは負けるわけにはいかねえんでな!
俺の祈りのこもった魔法に、レーヴェンの樹の種が反応する。
「何?!」
ヘルプワゾンも、俺の魔法の異変に気が付いたらしく、焦った顔を見せている。
レーヴェンの樹の種によって増幅された俺の魔法は、ヘルプワゾンが発した毒の霧をあっという間に無害なものへと変えていく。
いや、それだけじゃなかった。
「ぐぬぅ……」
ヘルプワゾンが苦しみだしたのだ。
「な、なんだ、これは……。解毒の力が、我を蝕んでいる?」
なんということだろうか。レーヴェンの樹の種で増幅された俺の解毒の魔法は、ヘルプワゾンの体の毒すらも消し始めたのだ。
毒が力の源であるのなら、解毒されてしまえばそれは力を失っていくということを示しているというわけか。
「なんだかよく分からないが、これは好機のようだな。故郷を奪われた我らの恨み、まずは貴様にぶつけてくれようぞ!」
ネラールがヘルプワゾンに斬りかかる。
「おい、無防備に突っ込むな! セイ太!」
「お任せ下さい!」
デイジーの護衛に回っていたピエラとセイ太のうち、セイ太をネラールの補佐に回す。
それというのも、セイ太は犬であるがために機動力があるからだ。その気になれば、離脱に強襲と自由自在だからな。
俺は今魔法を使ったところで、動くには少し厳しいんだ。レーヴェンの樹の種で魔法を増幅した副作用のせいなのか、ちょっと魔力のバランスがおかしくなってるんだよ。
「我が剣の錆となれ!」
剣に魔力を込めて、ヘルプワゾンへと剣を振り下ろそうとしている。
だが、奴の方もこの程度で終わるわけがないんだ。
「甘く見るな、虫けらがっ!」
ヘルプワゾンの拳が、完全にネラールの胴体を捉えている。
少し弱っているとはいえ、この状態なら間違いなく風穴を開けられる。
ところが、ヘルプワゾンの拳はネラールに命中することなく、空を切っていた。
「くそっ、犬ころごときが!」
犬形態となったセイ太が、間一髪ネラールを回避させていたのだ。
「まったく、セイの話を聞いていなかったのですか。あいつは多少の傷であれば、関係なく攻撃をしてきます。むやみに近付くのは、死を意味するのですよ」
「す、すまない」
背中に放り上げられたネラールは、セイ太のお小言に素直に反省の弁を述べていた。
俺は同時に恐ろしい光景を見ていた。
空を切ったヘルプワゾンの拳は、そのまま緑の軌跡を空に残していたのだ。振り抜いた拳ですらあの威力だ。回避の方向を間違えれば、間違いなくピエラやデイジーたちにも危害は及んでしまうということだ。
「くそっ、なんて奴だ……」
あまりにも強力な相手であるヘルプワゾン。
このあとにもまだ一体いるというのだから、一千年前にあっさり侵略されてしまったという事実に納得ができてしまう。
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