異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
376 / 431
第二章 外側の世界

第376話 転生者、毒の使徒に苦戦する

しおりを挟む
 筋肉毒だるま、ヘルプワゾンとの二回戦が始まってしまった。
 相変わらずまがまがしいまでの周囲から吹き出す毒ガスと、痛々しい配色の体だ。見ているだけで気分が悪くなってくるぜ。紫色の葉だと深緑の髪の毛。それぞれに毒を連想させる色だからな。
 それにしても、いつ見ても自信たっぷりなやつだ。なんていうか、某野菜な連中の強い奴みたいな感じがする。
 というか、改めてこいつの姿を見てみると、筋肉質な敵役の特徴をこれでもかと詰め込んだようなやつだよな。そのうち「二十パーセント」とか言い出しそうだぜ。まあ、サングラスなんてものはこの世界にはないがな。
 ただ、今回は前回と比べて少し厳しい戦いになりそうだ。
 その理由はデイジーだ。ちょうどレーヴェンの樹を成長させて消耗しているところだからな。いくら魔力の回復速度が上がっているからといっても、まだ十代前半では無理はさせられない。
 だが、今回は前衛にもう一人加わっている。マーシャルの息子であるネラールだ。
 ネラールには外の世界を取り戻して、マーシャルの息子としての矜持を取り戻したいという願望にも似た目標がある。ネラールには負けられない戦いがあるというわけだ。

「ふん、なにやら知らぬ顔が増えておるが、我にとって取るに足らぬ存在であろう。数が増えたところで、お前たちは我の毒の餌食となるのだ!」

 ヘルプワゾンが叫ぶと、体中から強力な毒素が噴き出している。それと同時に辺りの空気が明るい緑色に染まっていく。
 前世の感覚からすれば毒は紫色のイメージだったが、こっちじゃ緑色なんだな。
 っと、そんなことを思ってる場合じゃねえ!

「アンチドート!」

 解毒の魔法を使って相殺を試みる。だが、俺の解毒魔法じゃ効果は不十分。完全に押し負けてしまった。

「ちっ!」

「ふははははっ、無駄無駄ぁっ! 我の毒は主に比べれば弱いが、それでもお前らごときの魔法に負けるほどやわではない!」

 まったく、こいつの参ったもんだぜ。
 俺は思わず歯を食いしばってしまう。
 ところが、次の瞬間、俺はあることを思いついた。
 取り出したのはレーヴェンの樹の種だ。

「ちょっと、セイ。前みたいに反撃を食らうつもり?!」

 俺が種を取り出したのを見ていたらしく、ピエラが叫んでいる。
 だが、俺はそのために種を出したんじゃねえよ。俺は一度額に種を当てて、祈るように魔力を込める。

「アンチドート!」

「ふん、先程失敗したであろう。小細工をしたところで、我の毒を消せると思うな!」

 無駄だといわんばかりに、ヘルプワゾンが大声を出して俺を牽制してくる。
 だがな、俺たちだって必死なんだよ。ここで俺たちは負けるわけにはいかねえんでな!

 俺の祈りのこもった魔法に、レーヴェンの樹の種が反応する。

「何?!」

 ヘルプワゾンも、俺の魔法の異変に気が付いたらしく、焦った顔を見せている。
 レーヴェンの樹の種によって増幅された俺の魔法は、ヘルプワゾンが発した毒の霧をあっという間に無害なものへと変えていく。
 いや、それだけじゃなかった。

「ぐぬぅ……」

 ヘルプワゾンが苦しみだしたのだ。

「な、なんだ、これは……。解毒の力が、我を蝕んでいる?」

 なんということだろうか。レーヴェンの樹の種で増幅された俺の解毒の魔法は、ヘルプワゾンの体の毒すらも消し始めたのだ。
 毒が力の源であるのなら、解毒されてしまえばそれは力を失っていくということを示しているというわけか。

「なんだかよく分からないが、これは好機のようだな。故郷を奪われた我らの恨み、まずは貴様にぶつけてくれようぞ!」

 ネラールがヘルプワゾンに斬りかかる。

「おい、無防備に突っ込むな! セイ太!」

「お任せ下さい!」

 デイジーの護衛に回っていたピエラとセイ太のうち、セイ太をネラールの補佐に回す。
 それというのも、セイ太は犬であるがために機動力があるからだ。その気になれば、離脱に強襲と自由自在だからな。
 俺は今魔法を使ったところで、動くには少し厳しいんだ。レーヴェンの樹の種で魔法を増幅した副作用のせいなのか、ちょっと魔力のバランスがおかしくなってるんだよ。

「我が剣の錆となれ!」

 剣に魔力を込めて、ヘルプワゾンへと剣を振り下ろそうとしている。
 だが、奴の方もこの程度で終わるわけがないんだ。

「甘く見るな、虫けらがっ!」

 ヘルプワゾンの拳が、完全にネラールの胴体を捉えている。
 少し弱っているとはいえ、この状態なら間違いなく風穴を開けられる。
 ところが、ヘルプワゾンの拳はネラールに命中することなく、空を切っていた。

「くそっ、犬ころごときが!」

 犬形態となったセイ太が、間一髪ネラールを回避させていたのだ。

「まったく、セイの話を聞いていなかったのですか。あいつは多少の傷であれば、関係なく攻撃をしてきます。むやみに近付くのは、死を意味するのですよ」

「す、すまない」

 背中に放り上げられたネラールは、セイ太のお小言に素直に反省の弁を述べていた。
 俺は同時に恐ろしい光景を見ていた。
 空を切ったヘルプワゾンの拳は、そのまま緑の軌跡を空に残していたのだ。振り抜いた拳ですらあの威力だ。回避の方向を間違えれば、間違いなくピエラやデイジーたちにも危害は及んでしまうということだ。

「くそっ、なんて奴だ……」

 あまりにも強力な相手であるヘルプワゾン。
 このあとにもまだ一体いるというのだから、一千年前にあっさり侵略されてしまったという事実に納得ができてしまう。
 俺たちに打つ手はあるのだろうか。
 体の状態が落ち着くのを待ちながら、俺は逆転への道筋を必死に模索し始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...