異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
403 / 431
第二章 外側の世界

第403話 転生者、調和を仲間に加える

しおりを挟む
「というわけにゃ。交渉するといっても今の帝国にはあまり珍しいものはないにゃ。お砂糖は特産だけど、それは北方聖国にもあるしにゃあ……」

「まっ、人材交流ってやつで精一杯ってわけか」

「そういうことにゃ。現状ではこちらから出すことはできないけれど、将来的には見返りを返していくことになるにゃ。全部先代皇帝の負債だけに、返すのは時間がかかりそうにゃ」

 とまあ、ほぼ一歩的な要求ってわけだった。
 だが、俺たちにだって利点がないというわけではない。
 今まで発生していた戦争が終結してしまった今、兵士たちの士気の維持が至上命題だ。不満が溜まれば俺たちにその刃は向くことになる。

「肉体労働なら兵士たちの不満の解消にもなるだろうしな。まあ、引き受けてやるよ」

「本当かにゃ? ありがたいにゃあ」

 俺が快く了承をすると、エイミーはほっと胸を撫で下ろしているようだった。

「その代わり、エイミーに頼みがある」

「わ、私にですかにゃ?」

「ああ、外の世界はだいぶレーヴェンの樹で埋め尽くしてきたんだが、侵略者の最後の使徒がちと面倒でな」

「ふむふむ、詳しく聞かせてほしいのにゃ」

 興味がかなりあるようで、エイミーががっつりと食いついてきた。
 なので、俺はキリエとピエラを交えてエイミーと話をする。ネラールは特訓中なんで呼べなかったぜ。

「ふむふむ、にゃるほどにゃあ。呪いを操る使徒かぁ……」

 エイミーは腕を組んで唸り始めた。

「呪いってのは、私の司る調和とは真逆の力になるのにゃ。厄災の方がどちらかといえば近い力にゃ」

「そういえば、俺たちの誰も感じ取れなかった呪いを、デザストレのやつはすぐに見破っていたな」

「同類だからこそ気がつけたというやつにゃ。極めた呪いというのは祝福に近くなってしまって、対極にある私や聖国の人間には気付けないのにゃ」

「……ずいぶんと面倒なものなんだな」

「まったくにゃ」

 エイミーは歯ぎしりをしながら、露骨なまでに嫌な顔をしている。呪いの話をしているのに、デザストレの顔でも浮かんだのだろう。

「で、エイミーにも同行をお願いしたいところなんだよな。できるか?」

「ん~……、厳しいのにゃ。私は皇帝陛下の秘書だからにゃあ……」

 エイミーは腕を組んで唸りながら考え込んでいる。
 ただの使徒だったらよかったろうが、エイミーはこれでも重要なポストについているからな。悩むのも無理はないって話だ。

「うん、やっぱり答えはすぐに出せないにゃ。皇帝陛下に確認してからになるにゃあ……」

 エイミーの結論はすぐに出なかった。

「というか、魔王のところには生命の使徒レーヴェンが生み出した使徒がいるのにゃ。混沌の使徒の生み出した使徒である私まで必要になるのかにゃ?」

 エイミーの言い分に、俺はすぐには言い返せなかった。
 だが、なんだか分からないが、俺はエイミーも引き入れなければならない気がして仕方なかった。

「まあ、魔王の頼み事だったら聞いてやらないこともないにゃ。私や厄災の生みの親である混沌は、そもそもは外の世界も管理していたのだからにゃ」

 エイミーはそう言うと立ち上がる。

「こちらの言い分を一方的に突きつけるのもよろしくないにゃ。戻ってすぐに陛下に確認することにするのにゃ」

 エイミーはそうとだけ言い残すと、俺の部屋から出ていった。

「黙って聞いていたけれど、あれはエイミーは来るつもりだわね」

「ええ、私にもそう感じられました」

「……そうなのか?」

 話の最中、説明以外に一切口を出してこなかったキリエとピエラが、エイミーについてそんなことを言っていた。
 だが、俺にはどうもそんな風には感じ取れなかったんだがな。これも男女の感覚の差ってやつなのか?
 俺が両腕を組んで首を捻っていると、キリエとピエラがこそこそと話している。

「ね、セイってばこういうことには鈍いでしょ?」

「まったくですね。元男性だったということがよく分かる状況ですね」

「お前らなぁ……」

 俺は二人の態度に、もう一度大きなため息をついたのだった。

 その数日後、帝国からエイミーが再びやって来る。
 時期を同じくして戻ってきていたセイ太とどういうわけかいがみ合っている。

「陛下から許可が下りたので、次は私も同行するにゃ」

「調和とかいいましたよね。セイに誘惑なんてしてませんでしょうね」

「うるさいにゃ、転生。私は陛下をお支えする立場、浮気なんて絶対にないのにゃ」

 まるで犬と猫のペット戦争みたいじゃねえかよ。
 こういう時は俺が出ていくべきなんだろうな。

「はいはい、お前たちいい加減にしろよな。また外にレーヴェンの樹を植えに行くんだからよ」

「お姉様、次はどこになさるおつもりですか?」

 セイ太と一緒に戻ってきていたデイジーが尋ねてくる。

「次は南東の大陸だな。やっぱりできる限りの空白は埋めておきたいからな。外堀を完全に埋めてから、本丸となる中央の大陸へと乗り込むぞ」

「分かりました。外の世界の空気を浄化しきるためにも、私、頑張りますね」

 デイジーは今回もぎゅっと拳を握りしめていた。
 こうして、俺たちはさらにエイミーを加えた総勢七名のパーティーとなって外の世界へと向かう。
 外の世界をレーヴェンの樹で埋め尽くすまでもう少しだ。あいつらを追い詰めて、俺たちの世界を取り戻してみせるぜ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...