異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
197 / 431
第一章 大陸編

第197話 転生者、さらに魔王城の中を見て回る

しおりを挟む
 お昼を終えた俺は、食後の運動とばかりに訓練場へと移動する。
 そこでは今日もヴォルフたち魔王軍の兵士たちが鍛錬を行っていた。

「くそっ、俺様もここまで苦戦するようになるとはな!」

「デザストレ様は動きが単調なのですよ。もう少し考えませんと、そのうち負けてしまいますぞ」

「ほざけっ!」

 どうやら、ヴォルフがデザストレ相手に善戦しているようだ。
 デザストレは確かに力はあるんだが、もうちょっと頭の使い方がうまければもっと強かったんだろうがな。
 ヴォルフの素早さに振り回されているような印象を受けるよな、あれじゃ。

「どうだ、おらぁっ!」

 どうにかヴォルフを負かしたデザストレが吠えている。
 ところが、兵士たちはその様子を無視して視線をデザストレ以外に向けていた。

「よう、今日も頑張ってるな」

 そう、俺が現れたからだ。魔王を無視するわけにはいかないよな、やっぱりよ。

「げっ、魔王かよ。俺のいいところを邪魔しやがって」

「ふん、俺にそういう口を利けるのはお前だけだから安心しろ」

 文句を言うデザストレだが、俺はそれを華麗に受け流してやった。

「まあ、文句があるんだったら受けて立ってやるぜ。最近こういうことをしてなくて、体がなまっていたところだ」

「そうか。ならば、俺様にも勝機があるというわけだな。やってやろうじゃねえか!」

 デザストレが俺の挑発に簡単に乗っかってくれる。そうこなくっちゃな。
 俺が戦うとなると、みんなはわざわざ場所を空けてくれる。まったく、いつも見世物状態だな。この動きに俺は笑わざるを得なかった。

「今日こそ、お前を倒す!」

「やれるものならやってみろ。この動きにくい格好の俺に負けたら、それこそお前の立場がないぞ」

「ほざけ!」

 本当にデザストレって対抗意識だけは強いな。
 ちなみに俺がこんなことを言ったのは、ハイヒールにドレスというまったくもって動きづらい格好だったからだ。
 女になってからというもの、この格好にまったく抵抗がなくなっちまったな。時々自分がどんな服装をしているのか忘れちまうくらいだぜ。
 結果、デザストレは俺の足元に転がっていた。

「なんで勝てねえんだよ……」

「知らなねえよ。お前が単純に弱いんだろう?」

「ぐぬぬぬぬ……」

 俺の足元でデザストレは歯を食いしばっていた。
 あれはデザストレから足を下ろすとヴォルフたちに声をかける。

「こいつくらいは倒せるように、日々精進するようにな」

「はっ!」

 俺の言葉に元気よく返事をすると、ヴァルフたちは再び訓練に打ち込んでいた。

 体を動かした後は、甘いものが欲しくなってくる。
 そんなわけで、俺はようやく厨房にやってきた。
 厨房に姿を見せると、そこには料理長とウルルンが唸り声を出しながら難しい顔をしている様子があった。

「よう、料理長、ウルルン。何をやってるんだ?」

 あまりにも難しい顔だったので、つい声をかけてしまう。

「ああ、これは魔王様。魔王様から命ぜられた品を作るのに苦戦をしているのですよ」

「なるほどな。この世界にはないものばかりだからな」

「この世界とは……?」

 ぼそっとこぼした言葉を料理長に拾われてしまった。

「ああ、気にするな。俺の頭の中にあるものだからな、魔族の技術で再現は難しいか」

「魔王様は元人間ですものね。確かに、我々には厳しいものがあるかもしれません」

 俺の話を聞いて、料理長は腕を組んで首を捻っている。

「ですが、私とて料理人の端くれ。未知のものとなると心が燃えるのでございます。必ずや再現してみせますので、今しばらくお待ち下さいませ」

「ああ、期待しているぞ」

 そう言いつつも、俺はデザストレのうろこからミルクを取り出す。
 それをちょっと大きめ器に入れて、水魔法と風魔法の合わせ技でかき混ぜ始めた。

「魔王様?」

 俺が突然始めたことに、料理長は首を傾げている。まあ、分からんだろうな。
 しばらくかき混ぜていると、ミルクから脂肪分が分離して器の壁に塊が付着し始めた。

「なんでしょうか、このうっすらと黄色がかった白い塊は」

「ああ、これがバターってやつだ。久しぶりに作ったけど、このミルクでできるもんなんだな」

「なんと!?」

 料理長がびっくりしていた。

「悪いけど、これでもまだ完成じゃない。水分をさらに搾り取らないとな」

 すくい取った塊に水魔法を使って、さらに水分を抜いていく。

「これで完成だ。それじゃ、これを使って料理を作るぞ」

「何を作られるのですか」

「バタークッキーだな。小麦にバターを加えて練り込むんだ。それじゃ作るから見てろよ」

 俺は料理長とウルルンの目の前でクッキーを作り始める。その目は真剣そのものだった。
 小麦粉とバターを混ぜて練り上げて、それを焼き上げる。これで完成だ。
 でき上がれば早速試食をする。

「ほほう、これはまたいつものクッキーと違いますな」

「おいしいのです」

 二人にはなかなかに好評だった。

「俺に作れるのはバターくらいだな。他のものに関しては本当に頼むぜ。使えるようになれば料理の幅が一気に広がるからな」

「はっ、お任せ下さい」

 気合いの入った声に、俺はつい笑みをこぼしてしまう。
 こうして一日魔王城の中を見て回った俺は、さすがにちょっと疲れたので部屋に戻って休むことにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...