異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第351話 転生者、東大陸をさらに進む

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 まったく、西に移動して上陸した東の大陸のレーヴェンの樹の植樹は順調だというのに、俺の気分は最悪だった。

「本当なんなんだよ、あの変態紳士は!」

 原因はいうまでもなく、ちょっかいをやたらかけてくる変態紳士のせいだった。
 名前がないから好きに呼べって言ってたくせに、こう呼んだらブチ切れるんだからな。だったら、自分で最初からなんでもいいから名乗れっていうんだよ。

「セイ、ずいぶんと荒れているわね」

「仕方ありませんよ。あの変な魔族みたいなやつがしょっちゅう絡んでくるんですから」

「なんなのでしょうかね、あの人は」

 ピエラたちも困惑している様子だ。
 とっとと追い払うなどして目の前から消し去ってやりたいもんだ。声が耳障りなのはもちろん、姿も目障りだ。

「それにしても、あいつ、かなり頑丈だよな」

「そうね。私のかけた強化魔法に加えて、セイの最大化力を乗せても眉間から多少の流血があるくらいですもの。タフすぎて笑えないわ」

「デイジーが疲れている時というのもあって、グロテスクなものを見せずに済むのはいいが……。あのタフさのせいで何度もやって来るのは正直うっとうしい!」

 俺の我慢の限界を超えつつあった。
 そのくらい、あの変態紳士は何度もやって来ているんだ。
 それに加えて、あいつが俺を見る目が気持ち悪い。麗しの女とか言ってくるし、鳥肌が立つほどに気持ち悪い。
 改めて言っておくが、俺はそもそも男だ。
 巨乳の獣人の魔王にはなってはいるが、それでも心は男だ。あんなやつ、受け入れられるわけがないだろうが。
 俺はつい、腕をつかんで身震いをしてしまう。

「ずいぶんと参っているわね」

「そうですね」

「遠くで見てましたけれど、あの人、神聖属性が苦手のようですね」

 ピエラとセイ太が話をしていると、デイジーが口を挟んできた。

「あっ、やっぱりそう感じますか?」

 セイ太が反応する。

「ここまで一切近寄ってこれなかったのは、レーヴェン様の力が及んでいたからだと思います。それに加えて、強力なデイジーさんの神聖属性の魔力が周辺を強固に守っていました」

「やっぱりそうなのですね」

 セイ太の言い分に、デイジーがすごく納得しているようだな。
 これには俺も同意する。
 今いる東の大陸の近隣は、レーヴェンの力がものすごく希薄だ。
 今まではレーヴェンの力とデイジーの力が相まってかなり強く周囲を取り巻いていた。あれだけむせ返った南大陸ですらも、その効力は絶大だった。

「この東の大陸は、レーヴェンの力がほぼ皆無だ。樹を植えているというのに、その実感がかなり薄い」

「ということは……」

 俺が話をしていると、ピエラが何かの結論に至ったようだ。

「ああ、あの変態紳士がこうやってちょっかいを掛けていられるのも、それが原因だな」

「つまり、この世界を覆う毒素の根本から、この東大陸はかなり近い位置にある、そういうことですね」

 セイ太がはっきり言ってしまうと、俺は大きく頷いた。
 東大陸と南大陸の距離の差なんてほとんど変わらない。しかし、ケオス大陸を取り囲むレーヴェンの加護の力は、南の大陸の方が強かった。
 ということは、この東大陸はレーヴェンの力を打ち消すだけの力が働いているということになる。
 だが、その状況下でレーヴェンの樹をたったの二回で定着させてしまうデイジーというのも恐ろしい。
 これが知られれば、間違いなく今まで以上にデイジーが危険にさらされるだろうな。聖王との約束もあるし、絶対にそれだけは避けたいものだ。

「とりあえず、この東大陸をレーヴェンの樹で覆い尽くさないとな。それが終われば、しばらくは様子見だな」

「分かりました。私、頑張ります」

 デイジーは両手の拳を握って、ふんすと鼻息を荒くしていた。
 まったく、可愛い仕草だよな。

 俺たちは次の場所を目指して移動をする。
 その途中のことだった。

「セイ、あれを見て!」

 ピエラが叫んでいる。
 指差す先は、次の植樹予定地だ。
 よく目を凝らしてみると、そこには今まで一度も見たことのなかった妙なものが見える。

「なんだ、あれは……」

「今までには見たことがありませんね。でも、あれはなんだか建物のように見えますよ」

 セイ太も同じように前方をじっと見つめている。
 セイ太が言うように、前方の物体はなんらかの建物のように見える。

「あれは、この世界にまだ人が住んでいた頃の遺跡か?」

「どうなのでしょうかね。もう少し近づいてみませんと」

 俺たちの視力をもってしても、判別は困難だった。
 しょうがないので、俺たちは謎の景色が見える場所へと急ぐ。
 そこで俺たちが見たものは、確かになんらかの建造物だったと思われるがれきの山だった。

「すげえ、外に出てきて初めて生活の痕跡を発見できたぞ」

 俺は素直に感動している。

「これは、あの水中洞窟に建てたレーヴェン様の神殿とよく似ていますね」

「そうですね。柱の感じがよく似ています」

「おい、不用意に近付くな」

 近付いてじっくりと見ようとするセイ太とデイジーを、俺は必死に止める。
 こういう時、建物の中に何かが隠れていることがよくあるんだ。不用心に近付けば危険極まりないんだよ。

「そうですね。デイジーさん、セイのところに戻りますよ」

「はい」

 俺が止める声に従い、セイ太とデイジーが振り返った時だった。

 ゴゴゴゴゴ……ッ!

 突如として激しい揺れが辺りを襲ったのだった。
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