351 / 431
第二章 外側の世界
第351話 転生者、東大陸をさらに進む
しおりを挟む
まったく、西に移動して上陸した東の大陸のレーヴェンの樹の植樹は順調だというのに、俺の気分は最悪だった。
「本当なんなんだよ、あの変態紳士は!」
原因はいうまでもなく、ちょっかいをやたらかけてくる変態紳士のせいだった。
名前がないから好きに呼べって言ってたくせに、こう呼んだらブチ切れるんだからな。だったら、自分で最初からなんでもいいから名乗れっていうんだよ。
「セイ、ずいぶんと荒れているわね」
「仕方ありませんよ。あの変な魔族みたいなやつがしょっちゅう絡んでくるんですから」
「なんなのでしょうかね、あの人は」
ピエラたちも困惑している様子だ。
とっとと追い払うなどして目の前から消し去ってやりたいもんだ。声が耳障りなのはもちろん、姿も目障りだ。
「それにしても、あいつ、かなり頑丈だよな」
「そうね。私のかけた強化魔法に加えて、セイの最大化力を乗せても眉間から多少の流血があるくらいですもの。タフすぎて笑えないわ」
「デイジーが疲れている時というのもあって、グロテスクなものを見せずに済むのはいいが……。あのタフさのせいで何度もやって来るのは正直うっとうしい!」
俺の我慢の限界を超えつつあった。
そのくらい、あの変態紳士は何度もやって来ているんだ。
それに加えて、あいつが俺を見る目が気持ち悪い。麗しの女とか言ってくるし、鳥肌が立つほどに気持ち悪い。
改めて言っておくが、俺はそもそも男だ。
巨乳の獣人の魔王にはなってはいるが、それでも心は男だ。あんなやつ、受け入れられるわけがないだろうが。
俺はつい、腕をつかんで身震いをしてしまう。
「ずいぶんと参っているわね」
「そうですね」
「遠くで見てましたけれど、あの人、神聖属性が苦手のようですね」
ピエラとセイ太が話をしていると、デイジーが口を挟んできた。
「あっ、やっぱりそう感じますか?」
セイ太が反応する。
「ここまで一切近寄ってこれなかったのは、レーヴェン様の力が及んでいたからだと思います。それに加えて、強力なデイジーさんの神聖属性の魔力が周辺を強固に守っていました」
「やっぱりそうなのですね」
セイ太の言い分に、デイジーがすごく納得しているようだな。
これには俺も同意する。
今いる東の大陸の近隣は、レーヴェンの力がものすごく希薄だ。
今まではレーヴェンの力とデイジーの力が相まってかなり強く周囲を取り巻いていた。あれだけむせ返った南大陸ですらも、その効力は絶大だった。
「この東の大陸は、レーヴェンの力がほぼ皆無だ。樹を植えているというのに、その実感がかなり薄い」
「ということは……」
俺が話をしていると、ピエラが何かの結論に至ったようだ。
「ああ、あの変態紳士がこうやってちょっかいを掛けていられるのも、それが原因だな」
「つまり、この世界を覆う毒素の根本から、この東大陸はかなり近い位置にある、そういうことですね」
セイ太がはっきり言ってしまうと、俺は大きく頷いた。
東大陸と南大陸の距離の差なんてほとんど変わらない。しかし、ケオス大陸を取り囲むレーヴェンの加護の力は、南の大陸の方が強かった。
ということは、この東大陸はレーヴェンの力を打ち消すだけの力が働いているということになる。
だが、その状況下でレーヴェンの樹をたったの二回で定着させてしまうデイジーというのも恐ろしい。
これが知られれば、間違いなく今まで以上にデイジーが危険にさらされるだろうな。聖王との約束もあるし、絶対にそれだけは避けたいものだ。
「とりあえず、この東大陸をレーヴェンの樹で覆い尽くさないとな。それが終われば、しばらくは様子見だな」
「分かりました。私、頑張ります」
デイジーは両手の拳を握って、ふんすと鼻息を荒くしていた。
まったく、可愛い仕草だよな。
俺たちは次の場所を目指して移動をする。
その途中のことだった。
「セイ、あれを見て!」
ピエラが叫んでいる。
指差す先は、次の植樹予定地だ。
よく目を凝らしてみると、そこには今まで一度も見たことのなかった妙なものが見える。
「なんだ、あれは……」
「今までには見たことがありませんね。でも、あれはなんだか建物のように見えますよ」
セイ太も同じように前方をじっと見つめている。
セイ太が言うように、前方の物体はなんらかの建物のように見える。
「あれは、この世界にまだ人が住んでいた頃の遺跡か?」
「どうなのでしょうかね。もう少し近づいてみませんと」
俺たちの視力をもってしても、判別は困難だった。
しょうがないので、俺たちは謎の景色が見える場所へと急ぐ。
そこで俺たちが見たものは、確かになんらかの建造物だったと思われるがれきの山だった。
「すげえ、外に出てきて初めて生活の痕跡を発見できたぞ」
俺は素直に感動している。
「これは、あの水中洞窟に建てたレーヴェン様の神殿とよく似ていますね」
「そうですね。柱の感じがよく似ています」
「おい、不用意に近付くな」
近付いてじっくりと見ようとするセイ太とデイジーを、俺は必死に止める。
こういう時、建物の中に何かが隠れていることがよくあるんだ。不用心に近付けば危険極まりないんだよ。
「そうですね。デイジーさん、セイのところに戻りますよ」
「はい」
俺が止める声に従い、セイ太とデイジーが振り返った時だった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
突如として激しい揺れが辺りを襲ったのだった。
「本当なんなんだよ、あの変態紳士は!」
原因はいうまでもなく、ちょっかいをやたらかけてくる変態紳士のせいだった。
名前がないから好きに呼べって言ってたくせに、こう呼んだらブチ切れるんだからな。だったら、自分で最初からなんでもいいから名乗れっていうんだよ。
「セイ、ずいぶんと荒れているわね」
「仕方ありませんよ。あの変な魔族みたいなやつがしょっちゅう絡んでくるんですから」
「なんなのでしょうかね、あの人は」
ピエラたちも困惑している様子だ。
とっとと追い払うなどして目の前から消し去ってやりたいもんだ。声が耳障りなのはもちろん、姿も目障りだ。
「それにしても、あいつ、かなり頑丈だよな」
「そうね。私のかけた強化魔法に加えて、セイの最大化力を乗せても眉間から多少の流血があるくらいですもの。タフすぎて笑えないわ」
「デイジーが疲れている時というのもあって、グロテスクなものを見せずに済むのはいいが……。あのタフさのせいで何度もやって来るのは正直うっとうしい!」
俺の我慢の限界を超えつつあった。
そのくらい、あの変態紳士は何度もやって来ているんだ。
それに加えて、あいつが俺を見る目が気持ち悪い。麗しの女とか言ってくるし、鳥肌が立つほどに気持ち悪い。
改めて言っておくが、俺はそもそも男だ。
巨乳の獣人の魔王にはなってはいるが、それでも心は男だ。あんなやつ、受け入れられるわけがないだろうが。
俺はつい、腕をつかんで身震いをしてしまう。
「ずいぶんと参っているわね」
「そうですね」
「遠くで見てましたけれど、あの人、神聖属性が苦手のようですね」
ピエラとセイ太が話をしていると、デイジーが口を挟んできた。
「あっ、やっぱりそう感じますか?」
セイ太が反応する。
「ここまで一切近寄ってこれなかったのは、レーヴェン様の力が及んでいたからだと思います。それに加えて、強力なデイジーさんの神聖属性の魔力が周辺を強固に守っていました」
「やっぱりそうなのですね」
セイ太の言い分に、デイジーがすごく納得しているようだな。
これには俺も同意する。
今いる東の大陸の近隣は、レーヴェンの力がものすごく希薄だ。
今まではレーヴェンの力とデイジーの力が相まってかなり強く周囲を取り巻いていた。あれだけむせ返った南大陸ですらも、その効力は絶大だった。
「この東の大陸は、レーヴェンの力がほぼ皆無だ。樹を植えているというのに、その実感がかなり薄い」
「ということは……」
俺が話をしていると、ピエラが何かの結論に至ったようだ。
「ああ、あの変態紳士がこうやってちょっかいを掛けていられるのも、それが原因だな」
「つまり、この世界を覆う毒素の根本から、この東大陸はかなり近い位置にある、そういうことですね」
セイ太がはっきり言ってしまうと、俺は大きく頷いた。
東大陸と南大陸の距離の差なんてほとんど変わらない。しかし、ケオス大陸を取り囲むレーヴェンの加護の力は、南の大陸の方が強かった。
ということは、この東大陸はレーヴェンの力を打ち消すだけの力が働いているということになる。
だが、その状況下でレーヴェンの樹をたったの二回で定着させてしまうデイジーというのも恐ろしい。
これが知られれば、間違いなく今まで以上にデイジーが危険にさらされるだろうな。聖王との約束もあるし、絶対にそれだけは避けたいものだ。
「とりあえず、この東大陸をレーヴェンの樹で覆い尽くさないとな。それが終われば、しばらくは様子見だな」
「分かりました。私、頑張ります」
デイジーは両手の拳を握って、ふんすと鼻息を荒くしていた。
まったく、可愛い仕草だよな。
俺たちは次の場所を目指して移動をする。
その途中のことだった。
「セイ、あれを見て!」
ピエラが叫んでいる。
指差す先は、次の植樹予定地だ。
よく目を凝らしてみると、そこには今まで一度も見たことのなかった妙なものが見える。
「なんだ、あれは……」
「今までには見たことがありませんね。でも、あれはなんだか建物のように見えますよ」
セイ太も同じように前方をじっと見つめている。
セイ太が言うように、前方の物体はなんらかの建物のように見える。
「あれは、この世界にまだ人が住んでいた頃の遺跡か?」
「どうなのでしょうかね。もう少し近づいてみませんと」
俺たちの視力をもってしても、判別は困難だった。
しょうがないので、俺たちは謎の景色が見える場所へと急ぐ。
そこで俺たちが見たものは、確かになんらかの建造物だったと思われるがれきの山だった。
「すげえ、外に出てきて初めて生活の痕跡を発見できたぞ」
俺は素直に感動している。
「これは、あの水中洞窟に建てたレーヴェン様の神殿とよく似ていますね」
「そうですね。柱の感じがよく似ています」
「おい、不用意に近付くな」
近付いてじっくりと見ようとするセイ太とデイジーを、俺は必死に止める。
こういう時、建物の中に何かが隠れていることがよくあるんだ。不用心に近付けば危険極まりないんだよ。
「そうですね。デイジーさん、セイのところに戻りますよ」
「はい」
俺が止める声に従い、セイ太とデイジーが振り返った時だった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
突如として激しい揺れが辺りを襲ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる