異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第364話 転生者、苦戦を強いられる

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 ヘルプワゾンと名乗った筋肉野郎が襲い掛かってきた。

「俺が興味があるのは強者との戦い! だが、我が主のために全員ぶっ殺してくれる!」

 そう叫びながら最初の標的にしたのが俺だった。
 筋肉で体は重そうだが、翼を持っているためか思ったよりも動きが速い。
 ここまで移動してきたセイ太は消耗しているし、ピエラもデイジーも肉弾戦となると不向きだ。
 俺が相手をするしかないってわけだぜ。

「あの変態紳士のように、お前も返り討ちにしてやるよ!」

 俺は拳に神聖魔力をまとわせて、肉弾戦の構えを取る。
 人間時代は剣の方が得意だったが、獣人になった影響か、ステゴロでもどうにか戦えるようになったんだよ。

「ふんぬぅっ!」

 筋肉野郎が拳を振り下ろしてくる。
 受け止められそうな気もしたが、獣人の勘からか避けることにした。
 地面にぶち当たると、地面が激しくえぐれてしまっている。拳に相当の闘気をまとわせているようだ。

「ひゅう~……。受けたらひとたまりもないな」

「ふん、いい判断だ」

 筋肉野郎がにやりと笑っている。
 殺すとか言っていた割には、戦いを純粋に楽しんでいるようだ。
 あの変態紳士といい、どうやらこいつらは戦うことを重きを置いているような感じだ。

 だが、次の瞬間、俺は違和感に気が付いた。

「げっ!」

 俺は筋肉野郎の攻撃が命中した地面を見る。
 ブクブクと紫の泡を吹きながら溶けている。

「まるで硫酸を浴びたような状況だな……」

「ふははははっ! 受ければこのようになるのだ、いつまで避けてられるかな?」

 筋肉野郎は再び襲い掛かってくる。
 虫の居所が悪いといった割には、その表情はとても楽しそうだ。

(どうやら本気で戦いがしたいだけようだな。だったら、その望みは叶えてやるよ。ただし、死んでやらねえがな!)

 俺はさらに神聖魔力で体を強く包み込む。
 こっそりデイジーも魔法を使ってくれたおかげか、俺の力はいつも以上に出せるぜ。

「実にいい。そうこなくてはなぁっ!」

 歯をむき出しにして笑ってやがる。
 俺に対して一直線に向かってくる。
 神聖魔力で防御の増した状態で、俺は肉弾戦で応戦する。
 右の拳を出してくれば、左の拳で受け、左の拳を出してくれば右の拳をぶつけて相殺する。
 強力な毒素のようだが、神聖魔力解毒作用でほとんどノーダメージだ。

「我の攻撃を受け止めるとは、やはりあの方が気に食わないだけのことはあるな。だが、我はむしろ気に入った」

「へいへい、そいつはどうも」

 軽い感じに返してはいるが、正直なところ俺はものすごく力を入れている。だというのに、筋肉野郎は笑っていられるほどに余裕がある状態だ。持久戦になれば、確実に俺たちが不利になる。

「ひとつ聞いていいか?」

「なんだ」

 気を逸らせようとして、俺は拳を受け止めた状態のまま筋肉野郎に質問をぶつける。

「皆殺しにするのなら、弱い奴から殺そうとはしないのか?」

「ふん、下らん質問だな」

 筋肉野郎は顔をしかめている。

「我は強い者と戦いたいのだ。弱い者などいつでも殺せるからな。強い者を最初に殺し、絶望の表情を浮かべた弱者をなぶり殺す。余興にはぴったりではないか?」

 けっ、性格は最悪かよ。
 つまりあれだな。援護がある状態の強者を圧倒的な力で倒して、絶対に勝てないという印象を与えてやりたいってことだ。こいつは自分の強さにそれだけ自信があるってことだ。
 紳士と残虐性を兼ね備えた、なかなかにえげつねえ性格してやがるぜ。
 だとしたら、俺はなんとしても負けられねえな。
 俺は筋肉野郎の拳を受け止めたまま、神聖魔力をまとった膝をどてっぱらに入れてやる。

「ふぐぉっ!」

 不意打ちだったらしく、筋肉野郎はかなり吹き飛んでいった。
 変態紳士の仲間ならばあれが通じるだろうと、俺はレーヴェンの樹の種を取り出して投げつけてやった。

「ぐわあああっ!」

 命中した場所から焼けるような音が響き、筋肉野郎が苦しんでいる。どうやらこいつにも有効のようだな。
 ところが、俺がほっとした瞬間だった。

「道具など、使ってるんじゃねえええええっ!!」

 筋肉野郎が激高していた。
 あれだけ距離があったというのに、一瞬で詰められていた。

 やべえ、躱せねえ。

 そのくらいの圧倒的な速さだった。

「ガードインパクト!」

 だが、デイジーがいい反応をしていた。
 俺に当たると思われた攻撃は、デイジーの攻撃反射魔法によって防がれ、筋肉野郎にその威力がほぼすべて跳ね返った。

「きゃあっ!」

「デイジー?!」

 受けきれなかった衝撃で、デイジーが吹き飛んでしまう。

「危ない!」

 セイ太がすぐに反応して、デイジーをしっかりと受け止めていた。
 その様子を確認して、俺はほっと溜息をついた。
 だが、それもほんの一瞬。すぐさま筋肉野郎に対応しないと。

「くくくく……、そうこなくてはなぁ……」

 自分の攻撃の威力で吹き飛びながらも、まったくの無傷だった。しかも、気色悪い笑みを浮かべながらだ。

「楽しさのあまり、すっかり機嫌がよくなっちまったぜ。先程の卑怯な真似には目をつぶってやる。さあ、我をもっと楽しませるのだ!」

 高揚する筋肉野郎から怪しげな霧が噴き出し始め、俺たちはますます警戒を強めていった。
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