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新章 青色の智姫
第342話 雪山の裏手へ
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ケットシーの依頼の場所までは、シアンのエアリアルボードで向かう。なんといっても時間がもったいないからだ。
「ケットシーってあんな無茶振りするようなやつだったんですか」
ヒスイが叫んでいる。
魔道具を作る魔法一門として、ネフライト侯爵家は何かと商業組合にはお世話になっている。そのため、ケットシーとはそれなりの面識があるというわけなのだ。
「それにしても、この渡された地図の場所、マゼンダ侯爵領の裏手ですよ」
「ということは、インフェルノと会うことになりますでしょうか」
「我関せずだといいのですけれどね。インフェルノは気難しいですから」
シアンとスミレがあれこれと話をしているが、ヒスイとコハクにはちょっとピンとこない話である。モスグリネ王国の人間からすれば、アイヴォリー王国の地理や内情なんて分からなくて当然だからしょうがない。
とりあえず、エアリアルボードはムー王国のお城から東北東の方角に向かっている。
辺りの景色が段々と白さを増してくる。今は夏だというのに、これから向かう場所は極寒の氷山エリアなのである。
「防護魔法がないと寒さにやられてしまいそうですね」
「それでも寒いんですけれど……」
夏用の服であるので、かなり厳しい状況にあるのは間違いなさそうだ。
万一風邪を引いたらケットシーに賠償請求してやろうと考えるくらいに寒かった。
やがて、目の前にはひときわ高い山が見えてくる。その山こそ、神獣インフェルノが住んでいる火山である。
この火山の熱で温められた水が、スノールビーの村の観光資源として利用されている。
そのような場所に、ケットシーが言うような魔物がいるのかどうか、ちょっと疑ってかかるシアンたちである。
「地面は雪が深そうなので、このまま上空で待機しましょう。真夏に雪山で遭難だなんて、言っても誰も信じてくれないでしょうね」
「ここのことを知っている人でもないと無理でしょうね」
シアンが愚痴をこぼすとスミレは淡々と頷いていた。
しばらくエアリアルボードで上空に滞在していると、ヒスイが何かに気が付いたようだ。
「シアン様、地面に何かいます」
「えっ、本当に?」
乗り出してじっと見つめてみるものの、何も見える気配はなかった。
「何もいないじゃないですか」
「目ではなく、魔力で感じて下さい。魔物の中には擬態の上手なものがいますから」
「わ、分かりました」
ヒスイに言われて、魔力であたりを探り始めるシアン。
しばらくすると、何かに引っ掛かったような感じがした。
「ほぼ真下?」
シアンがこてんと首を傾げた時だった。
ゴゴゴゴゴ……。
突如として轟音が響き渡る。
「シアン様、上昇させて下さい!」
「は、はいっ!」
ヒスイの言葉で、エアリアルボードを急上昇させる。
下をじっと見つめていると、雪の中か大きな魔物が飛び出してシアンたちの乗るエアリアルボードを襲撃しようとしていた。
慌てて上昇させたので、攻撃は空振り。事なきを得たのだった。
「スノーグリズリーですね。あそこまでの巨体は見たことがありませんが、雪山に生息しているということは図鑑で見たことがあります」
意外と冷静に説明をするヒスイだった。
「この間のケルピーよりも巨大ですね。あれならいろいろとできそうですから、倒してしまいましょう」
「ええっ?!」
シアンから飛び出た言葉に、ヒスイが驚いている。
「無茶ですよ。あのくらいの個体では生半可な攻撃は通じません。向こうの攻撃が届かないとはいっても、持久戦になるのは間違いないですよ」
ヒスイの言う通りである。
体がとても丈夫そうであるため、たとえ弱点である火の魔法であっても、あまり攻撃が期待できなさそうなのだ。
打つ手はないというヒスイだったが、ここで動いたのがスミレだった。
「時間がないのです。ここは私がやりましょう」
「スミレさん?」
「スミレ、いいのですか?」
立ち上がったスミレに、シアンとヒスイが声をかける。くるりと振り返ると、スミレはこくりと頷いた。
「正直言って、私に力を使わせるつもりだったでしょうからね、ケットシーは。まったく、迷惑な幻獣ですよ、あいつは」
スミレが集中すると、空中に歯車のような紋様がいくつも浮かびがる。
これが時の幻獣としてのスミレの特徴ともいえる。ただ、普段は隠すことができるので、相当に力を込めていることが分かる。
「止まれ!」
スミレは、スノーグリズリーに向けて魔法を放つ。
咆哮を上げて抵抗しようとするスノーグリズリーだが、時を操る魔法に物理攻撃が通用するわけがなかった。
「ガッ……!」
ひと言発したかと思うと、動かなくなり、そのまま地面に倒れてしまった。
「な、何をしたの……?」
ヒスイとコハクがおそるおそる尋ねる。
「スノーグリズリーの心臓の時間を止めました。これでこのまま放っておけばあいつは勝手に死にます」
「スミレ……、もしかしてケルピーの時も……」
「はい、同じようにしました。あの時は魔石だけが狙いでしたので、時間を巻き戻して蘇生させたのです」
「なんというめちゃくちゃな……」
説明を聞いても、ヒスイたちは理解できそうになかった。
しかし、スミレのおかげで無傷でスノーグリズリーの討伐が完了したのだった。
「ケットシーってあんな無茶振りするようなやつだったんですか」
ヒスイが叫んでいる。
魔道具を作る魔法一門として、ネフライト侯爵家は何かと商業組合にはお世話になっている。そのため、ケットシーとはそれなりの面識があるというわけなのだ。
「それにしても、この渡された地図の場所、マゼンダ侯爵領の裏手ですよ」
「ということは、インフェルノと会うことになりますでしょうか」
「我関せずだといいのですけれどね。インフェルノは気難しいですから」
シアンとスミレがあれこれと話をしているが、ヒスイとコハクにはちょっとピンとこない話である。モスグリネ王国の人間からすれば、アイヴォリー王国の地理や内情なんて分からなくて当然だからしょうがない。
とりあえず、エアリアルボードはムー王国のお城から東北東の方角に向かっている。
辺りの景色が段々と白さを増してくる。今は夏だというのに、これから向かう場所は極寒の氷山エリアなのである。
「防護魔法がないと寒さにやられてしまいそうですね」
「それでも寒いんですけれど……」
夏用の服であるので、かなり厳しい状況にあるのは間違いなさそうだ。
万一風邪を引いたらケットシーに賠償請求してやろうと考えるくらいに寒かった。
やがて、目の前にはひときわ高い山が見えてくる。その山こそ、神獣インフェルノが住んでいる火山である。
この火山の熱で温められた水が、スノールビーの村の観光資源として利用されている。
そのような場所に、ケットシーが言うような魔物がいるのかどうか、ちょっと疑ってかかるシアンたちである。
「地面は雪が深そうなので、このまま上空で待機しましょう。真夏に雪山で遭難だなんて、言っても誰も信じてくれないでしょうね」
「ここのことを知っている人でもないと無理でしょうね」
シアンが愚痴をこぼすとスミレは淡々と頷いていた。
しばらくエアリアルボードで上空に滞在していると、ヒスイが何かに気が付いたようだ。
「シアン様、地面に何かいます」
「えっ、本当に?」
乗り出してじっと見つめてみるものの、何も見える気配はなかった。
「何もいないじゃないですか」
「目ではなく、魔力で感じて下さい。魔物の中には擬態の上手なものがいますから」
「わ、分かりました」
ヒスイに言われて、魔力であたりを探り始めるシアン。
しばらくすると、何かに引っ掛かったような感じがした。
「ほぼ真下?」
シアンがこてんと首を傾げた時だった。
ゴゴゴゴゴ……。
突如として轟音が響き渡る。
「シアン様、上昇させて下さい!」
「は、はいっ!」
ヒスイの言葉で、エアリアルボードを急上昇させる。
下をじっと見つめていると、雪の中か大きな魔物が飛び出してシアンたちの乗るエアリアルボードを襲撃しようとしていた。
慌てて上昇させたので、攻撃は空振り。事なきを得たのだった。
「スノーグリズリーですね。あそこまでの巨体は見たことがありませんが、雪山に生息しているということは図鑑で見たことがあります」
意外と冷静に説明をするヒスイだった。
「この間のケルピーよりも巨大ですね。あれならいろいろとできそうですから、倒してしまいましょう」
「ええっ?!」
シアンから飛び出た言葉に、ヒスイが驚いている。
「無茶ですよ。あのくらいの個体では生半可な攻撃は通じません。向こうの攻撃が届かないとはいっても、持久戦になるのは間違いないですよ」
ヒスイの言う通りである。
体がとても丈夫そうであるため、たとえ弱点である火の魔法であっても、あまり攻撃が期待できなさそうなのだ。
打つ手はないというヒスイだったが、ここで動いたのがスミレだった。
「時間がないのです。ここは私がやりましょう」
「スミレさん?」
「スミレ、いいのですか?」
立ち上がったスミレに、シアンとヒスイが声をかける。くるりと振り返ると、スミレはこくりと頷いた。
「正直言って、私に力を使わせるつもりだったでしょうからね、ケットシーは。まったく、迷惑な幻獣ですよ、あいつは」
スミレが集中すると、空中に歯車のような紋様がいくつも浮かびがる。
これが時の幻獣としてのスミレの特徴ともいえる。ただ、普段は隠すことができるので、相当に力を込めていることが分かる。
「止まれ!」
スミレは、スノーグリズリーに向けて魔法を放つ。
咆哮を上げて抵抗しようとするスノーグリズリーだが、時を操る魔法に物理攻撃が通用するわけがなかった。
「ガッ……!」
ひと言発したかと思うと、動かなくなり、そのまま地面に倒れてしまった。
「な、何をしたの……?」
ヒスイとコハクがおそるおそる尋ねる。
「スノーグリズリーの心臓の時間を止めました。これでこのまま放っておけばあいつは勝手に死にます」
「スミレ……、もしかしてケルピーの時も……」
「はい、同じようにしました。あの時は魔石だけが狙いでしたので、時間を巻き戻して蘇生させたのです」
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しかし、スミレのおかげで無傷でスノーグリズリーの討伐が完了したのだった。
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